第5話 杖突
夢を見ていた。
あれは四月、俺と涼子がこの町に来てすぐのことだった。
柳さんのところでバイトすることが決まった時だったか、その帰り道に俺は小守に憑かれたんだ。
特異すぎる小守は危険だということから、いろんな奴らが小守を消そうと襲ってくる。
俺は涼子や砂糖さん、鳳凰堂家の智香や蓮浄兄弟、柳さんなどなど、いろんな人の力を借りて小守の生存権を主張し続けた。そして――
「起きろ」
むにゅ、とした感触が顔面で感じ取れる。目を開けると、ワンピースなのも気にせずに俺の顔面に足を置いている小守がいた。下から見上げる構図になるせいなのか、どうも小守に見下されている気がする。
「起きたか」
「まずはその足を、退かせッ!」
足首を掴み思い切り外側に引っ張る。
「うおぉお!?」
当然のようにバランスを崩す小守、そして当然のように俺の上に落ちてくる。
「ぐああ!! く、痛ー、何するんだ小守!」
「それはこっちのセリフなんだが!?」
なんでわたしが怒られるのみたいな顔している小守。いやいや、お前が何故か俺の顔を踏んだのが悪いんだろう。
「で、何の用だ」
これでしょうもない用事だったらぶっとばしてやる。
「キサマ、よくもわたしを起こさなかったな」
小守は思い出したように俺を睨みつけてくる。
「おかげで晩飯を食べそこねたぞ」
「ゲームして、寝落ちする奴が悪い」
バッサリと切り捨てる。
「ふ、ふざけるなよ人間風情が!」
小守は片手をあげて抗議してくる。あー、うるさい。
「お前! 芽衣子の料理を食べ逃したってどんなに悔しいか分かっているのか!?」
「知らねぇよ、自業自得だよ。それに今更起きたところで芽衣子さんもう寝てるよ」
「……かくなるうえは、もう質にはこだわらん。外に行くぞ」
「ふざけんなよ」
「それに、そろそろ町にも妖怪が溢れ出している頃だろう。丁度アレらを処理するのもいい時期じゃないのか?」
「――ああ、確かに。そうかもしれないな」
ここのところほぼ毎日何かしら妖怪に出遭っていた。
町には、ある程度は怪異が起きてもその規模を小さくしようとする機能がある。それは、コップのふち限界まで入った水が表面張力でこぼれないのと同じように、ある一定の域を超えたら決壊する。それすなわち町が怪異に飲まれてしまう――らしい。
詳しいことは知らないが、前に小守が狙われていた理由がこれ。怪異を呼び寄せるフィールドで集まる怪異が、町の許容量を超えることによる町の『幻想化』。
正直その『幻想化』がどういうものなのかいまいち理解しがたいのだが、当面の目標はこの『幻想化』をおこさないこと。そのために、たまにやる掃除みたいに怪異を消していかなければならない。
幸いなことに、小守には特定の条件の元でなら怪異の力を奪い取る能力がある。(というか、コイツはいろいろ特殊な能力を持ちすぎている、少しうらやましいと思う部分もあったりする)この能力を利用して、町に出てくる怪異を消していくという寸法だ。
「なら、そうと決まればさっさと行くぞ」
「ヘイヘイ」
一度大きく欠伸をして、俺は小守の後に続くのだった。
夜の道というのは、広さでかなり雰囲気が違うと思う。細い道は暗く、しかし閉塞感が妙に安心できる。逆に広い道路は孤独を感じてしまい、それは恐怖へと変換される。まあ、いまはこのうるさいのが一緒にいるのでそんなことにはならないのだが。
「ん、なんだ? わたしの顔に何かついているのか?」
不機嫌そうに、隣を歩く俺を見上げる小守。
「いいや、なんでも」
それを適当に受け流して、俺は辺りに妖怪なんかがいないかを確認する。
「どうだ、何かしらの気配はあるのか?」
確認しながら小守にも聞いてみる。
「お前気配はとか聞くけど実際な、妖力霊力法力その他いろいろな力を読むのは相当大変なんだぞ?」
例えば神話クラスの奴や一部の例外的な力を持ってるやつらは別として、基本的に……などと小守が語りだしたのでなんか面倒なスイッチ入れちゃったなあと思った。
「であるから、気配を読むのは難しい――ん、妖力を感じる」
「今のお前の説明ってなんだったんだ」
小守の言葉を裏付けるように、ツカ、ツカ、ツカ、と目の前から音が近づいてくる。
「音の怪異か、この間のべとべとさんじゃないみたいだが」
「あれは無害だかこいつは有害だぞ。コイツはおそらく
「マジかよ」
「まあ、」
小守の目が紅く変色する。
「わたしには効かないのだがな」
小守が音のする方に手を向けたかと思うと、ツカツカいっていた音がしなくなった。
「はいおしまい」
これが小守の能力の一つ、エナジードレイン。肉体を持たない奴なら一瞬で、肉体がある奴ならある程度弱らせてからエナジードレインできる。因みにこれで小守の妖力補給にもなる。
「いやー実体ない奴は楽だからいいわー」
「ほんと便利だなそれ」
実体のある奴なら殴れるが、この間のべとべとさんみたいに実体のない奴は俺には手出しできない。
「お前にはその馬鹿力があるだろう。わたしは覚えているぞ、初めて遭ったときに問答無用でぶん殴られたのを」
「あれは状況が状況だから仕方がないと思うぞ、仮に百人があの状況に陥ったら百人中二十人がそうしているから!」
「少数派じゃないかソレ!? 因みに残りの八十人はなんなんだ?」
「普通に逃げるんじゃね? 逃げられたらの話だが」
「ククク、わたしの金縛りから逃れられる奴なんてそうそうおるまい」
因みに、初めてコイツと出会った――いや、出遭った時の状況は寝ているところを金縛りされ、身動きが取れなくなっていたので気合と根性で無理やり体を動かして金縛りをかけた張本人だと思われるコイツをぶん殴った、とかいう出遭い方だった。今思うとなつかしい。
「そもそも金縛り使える奴の方が少数派だと俺は思うんだが?」
「人間の感覚ではそうかもしれないな」
小守は何故か得意げにそう言った。
「さあ、次の獲物を探しにいこうか」
「はいはい」
意気揚々と先行する小守を追いかける俺だったが、この後二時間ほど深夜の町を歩き回ったが、
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