第3話 甘酒婆
さて、そろそろ小守のことのついて話さないといけない。
そもそも、小守とはいったい何者なのか。あの白ワンピースを着たクソガキとの出会いは省くとして、小守の特性とでもいうべきことをまずは説明しておかねばならない。
まず、小守は人間ではないという点。では何者なのだといわれると本人も言葉に詰まってしまうという。 ただ、人間よりかは妖怪に近い存在だと言っていた。曰く、小守の周りには妖怪を引き付け、具現化・現象化してしまう特殊なフィールドのようなものがあるらしい。
涼子が言うには『新種ってことじゃねーの? 今はさ、昔からいましたみたいな顔している妖怪も昔は妖怪になった瞬間というか、その前があったわけだし、だから小守っちはこれから妖怪になるんじゃないかなーってアタシは思ってるわけよ』とかなんとか。ああ、涼子についてはまた次の時に話そうか。
まあ、そういった特殊フィールドのせいで俺はここのところ妖怪という怪異に遭っているのだ。
次に、小守の能力の話。
今し方話したように、小守には自分で制御不能な、妖怪を具現化・現象化させる能力を持っている。まあ、これは砂糖さんのおかげで『俺やその周囲の人が強く影響を受けることで、小守と縁が薄い人達への影響を弱める』という一応の解決を見せた。
その他に、小守には膨大な量の怪異の知識がある。小守自身が言うには『私の製作者はきっと白澤を意識したんだろう』と言っていた。ところで白澤って何?
「ところで、ひにひに俺の部屋には砂糖さんからのプレゼントが持ち込まれるわけだが、小守、お前片付けとかしたことあるか」
いつもの通りバイトから帰宅した俺は、ここ数日でごちゃごちゃとなった部屋の惨状を見ながら小守に話しかける。
「あるかないかで言えばあるぞ。ただし、片付けたはずなのにその前より散らかるから普段は片付けはしない主義だ」
小守はマンガを読みながら答える。ちなみにこれも砂糖さんが買い与えたものだろう。あの人、小守にとことん甘いけど、後々片付けるのは俺なんだと知っているだろうか。
「主義とか言ってんじゃねーよ、結局のところ片付けられないだけじゃねーか」
カバンを部屋の隅に放り投げると、俺は近くのお菓子袋を拾って、からだと分かったのでゴミ箱に投げ捨てる。俺の分はないのかよ。
「そういえば、今日は何かに出遭わなかったのか?」
「いいや、今日は」
遭わなかったと言おうとしたときに、玄関ドアがノックされる。あ、ちなみに木造建築のボロアパートなのでチャイムなんて御大層なものはついていません。
「はーい」
とりあえず小守を放置して来客の対応に入ろう。玄関まで行ってドアを開ける。そこには赤い頭巾をかぶって着物を着たお婆さんがいた。え、誰?
「甘酒はござらんか?」
「は?」
俺がキョトンとしているなか、奥から小守が出てくる。
「質問に答えるなよ、ほら、さっさと帰れ。帰る場所があるのか知らんが帰れ。あ、別のところに行くなよ? おとなしく消え去れって意味だからな。ほらさっさと行け」
シッシ、と小守は手のひらであっちに行けとジェスチャーを交えながらドアを閉める。
「おい小守、いくらなんでもその対応はないだろう!」
「うつけめ、あれは妖怪だ、甘酒婆といってな、あの質問に答えると病気になるぞ」
「え、今の人妖怪だったのか」
「ああ。よかったな、わたしがいて、出なければお前は今頃病気をしてたぞ」
「よくわからんが助かったよ、ありがとう」
「うむ。だから部屋の掃除はお前に任せた」
「はは、冗談はよせよ。さあ、部屋の片付けをするぞ」
「うええー、マジかよ……」
俺は小守の後ろ首を掴むと部屋に引きずっていくのだった。
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