第19話 最終決戦

「貴様ら……! よくも……!」

 暗黒闘士ジャークは怒りを露わにしながら正義と英雄を睨んでいた。

「残念だったな。お前のお気に入りの娘はあっさりと倒しちまったぜ」

「……っ!」

 英雄の言葉によってその怒りは一層増したのか、ジャークの体は小刻みに震え始めた。

「……」

 そりゃショックだよな、残った邪身を全員犠牲にして生み出した奴がもらいゲロで倒されちまうんだもんな。正義は英雄の隣でひっそりと冷めた目でジャークを見ていた。

「ふ……ふふふ……!」

 ジャークは帽子を取り、ばさっとコートを脱ぎ捨てた。

「いいだろう! 田中正義! 鈴木英雄! この私が直々に相手をしてやろう! ダークに逆らった事、後悔するがいい!」

「それはこっちのセリフだ! お前を倒して、俺は英雄になる!」

 英雄は真正面から攻撃を仕掛けに行く。

「! 鈴木! 正面からは危険だ!」

「うるせえ! 時間がないんだ!」

 確かにそうだが、だからといって冷静な判断なしに攻撃を急いでしまっては意味がない。

 鈴木、お前、焦ってないか……?

「トナカイ・ダッシュ!」

 説明しよう! トナカイ・ダッシュとは、ただのダッシュである! クリスマスクのスピードが上がった!

「正面からでも、動きが見えなきゃ対処できねえだろ!」

 英雄はたんっ、と跳ね、気付けばジャークの目の前まで跳躍をしていた。正義にはその動きが見えなかった。

「クリスマス・パンチ!」

 説明しよう! クリスマス・パンチとは、ただのパンチである! クリスマスクのスピードが上がった!

「加速の拳をくらえ!」

 彼のパンチはジャークの胸に的中した。ハロウィン仮面ほどの攻撃力がなくとも、相当の加速を得た拳をくらえばその衝撃はそれと相違ないにちがいない。

「……にやり」

 ジャークはほくそ笑んだ。英雄の攻撃が全く効いていないようだ。

「なぜ私がただ突っ立っていただけなのか、わかるか?」

「な……!」

 英雄はジャークの胸に突き当てている自分の拳を見た。摩擦のせいでスーツからは煙が出ていた。そして、拳の先には服が擦り切れたジャークの身体からだが現れていた。

「お前、その身体からだ……!」

「ひとつ、私の身体からだは絶対的な防御力を誇る、最強の盾だからだ」

 ジャークは突き出されたままの英雄の右腕を掴んだ。

「ふたつ、貴様に接触をするためだ」

 がしっ、とその大きな手を力強く握る。

「ぐわっ!」

「ジャーク・ショック」

「うわあああああああああああああああああ!」

「鈴木いいいいいいいっ!」

 英雄の全身は激しく揺れていた。震えているどころではない。揺れていた。何が起こっているのか正義にはわからなかった。

「ああああああああああああああああっ!」

 やがて叫び声がやみ、彼の体はがくんとうなだれた。不気味なくらいうなだれていた。死んでいるようだった。

「す……鈴木いいいいいいいいいっ!」

「ふふ……ふははははははははははははははは……!」

 ジャークは英雄の体を宙に投げ捨てた。

「鈴木いっ!」

 正義は何とか彼を受け止める。

「鈴木! しっかりしろ! 鈴木!」

「あ……あ……ああ……あ……」

「鈴木! おい鈴木!」

 上手く喋れないように見えた。しびれているようだ。

「ジャーク! 鈴木に何をしたあっ!」

「電流を流しただけだ」

「電流……!?」

「あ……た……なか……」

「! 鈴木!」

「あ……お……俺は……見た……奴のから……だ……を……」

「!? からだって……ジャークのか!?」

「奴は……奴は……ロ……ロボット……だ……」

「ロボット!? あいつが!?」

 その時、クリスマス・システムの稼働が終わった。

「!? 何だ!? まだ12分も経ってないぞ! まだ6分すら経ってないのに!」

「……た……ぶん……これも副……作用……だ……」

「……副作用って……システムのか……?」

「……たぶ……ん……俺の……体がシステムに……耐えられなくなってきてる……5年間……システムの装着者として戦ってきて……その間に……俺の体は……ボロ……ボロに……」

「! そんな……お前の体がボロボロに……!? 嘘だろ!? 嘘だろそんな事!」

「う……ぐ……」

 英雄はゆっくりと目を閉じた。

「鈴木! ……」

 正義は動かなくなった彼の体を優しく寝かせた。

「……ジャーク! お前は必ず、俺が倒す! それが世界の平和のため! そして! 鈴木への手向けだ!」

「い……や……まだ死んでな……」

 英雄は邪悪に立ち向かう友の背中を静かに見守っていた。


 続く!

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