第17話 思わぬ伏兵

 幾多もの罠を潜り抜けて、ふたりはついに大扉の前へ辿り着いた。

「この扉は……」

 正義は眼前のそれを見上げていた。とても大きい。開けたら戦車が出てきてもおかしくないくらいだ。

「……この奥にいるんだろうな……ジャークが……」

 隣で英雄が言った。正義もそう思った。このダークの本拠地に入ってからずっと濁ったような感覚を味わっていたが、今この扉の前に立った時、それとは比べ物にならないほどの危険な空気が彼の全身を撫でたのだ。

 間違いなく、この奥にジャークがいる……!

「……じゃあ、開けるぞ。準備はいいな? 田中」

 英雄が一歩踏み出した。今のふたりはシステムの稼働が終わっており、体はぼろぼろだった。だが戦えないわけではない。正義にも英雄にも、それぞれ最後のカンとシャンメリーが残っていた。次の起動がラストチャンスだ。

 しかし、英雄が押し開けようとした時、扉は自然と開き始めた。まるでふたりを部屋の中へと招き入れるように。

「……どうやら俺達、歓迎されてるみたいだな」

 そして、扉が開いたその先に、ふたりが見つめるその先に、彼の姿はあった。

「ようこそ、田中正義君、そして鈴木英雄君」

 暗黒闘士ジャークは不敵な笑みを浮かべて言った。

「……ジャーク……!」

「ついに辿り着いたぞ、お前の元まで」

「そうだな。褒めてやろう」

「……偉そうに……! いくぞ、田中」

「おお!」

「おかしいとは思わなかったか?」

「?」

「お前達がここに入ってきて、一度でも邪身と戦闘になったか?」

「! ……それは……」

 確かにジャークの言う通り、ふたりがこの本拠地に突入してから相手にしてきたのはテシータや非戦闘員だけであり、邪身とは一度も出会っていなかった。正義もその事に対しておかしいとは思っていた。

「二年前、私がこの国の総統となったあの時点で、まだ邪身は7体存在していたはずだ。たった7体だが」

「……! まさか……!」

「そのまさか……ではないぞ……この部屋にその7体の邪身がいるなどと、その程度の事ではない」

「……その程度……?」

「私がなぜ邪身を必要としたのか、その理由をお前達は知らないのだろう? もちろん世界を征服するため、そのための戦力としての意味合いもあるが、それだけではない。その先があったのだよ」

「……その先……だと……?」

「ふふふ……ふははははははは……! キル!」

 ジャークの呼びかけに応えるように、突然何者かが天井からさっと降りてきた。

「……なっ……!」

 少女だった。黄金色の髪をした少女が立ち上がり、正義と英雄の前に立ち塞がった。

「女の子……!?」

「お前達か、ジャーク様の邪魔をする者達は」

「ジャーク! その子は何だっ!」

 英雄が叫んだ。

「7体の邪身を生け贄にして私が作り出した存在、邪身を超える存在、凶身キル」

「凶身、キル……その子が……?」

「見た目こそ人間に似せているが、人間ではない。その力は邪身のそれとは比べ物にならないぞ」

「ジャーク様の敵は私の敵……田中正義、鈴木英雄、お前達は私が殺す。凶身キルの名のもとに」

「な……ジャークの前に、こんな伏兵が……!」

「見た目に惑わされるんじゃねーぞ、田中」

「あ、ああ、わかってるよ……!」

「俺達に残された起動チャンスはあと1回なんだ……さっさと片付けて、ジャークを倒さねえとなあ……!」

 ふたりは一気飲みを始めた。最後の戦いだ。

「ぷはあっ! いくぞ! へん! しん!」

 説明しよう! 田中正義はコ○・コーラ社の自販機で当たりを出す事によって手に入るセットアップ・カンの中身を飲み干す事によって、ハロウィン・システムを起動する事ができるのだ! 彼はハロウィン仮面へと変身した!

「ふ~っ! 最後だからいつも以上にかっこよくいくぜ! 装飾イルミネーション!」

 説明しよう! 鈴木英雄はビン一本のシャンメリーを12秒25以内に飲み干す事によってクリスマス・システムを起動する事ができるのだ! 彼はクリスマスクへと変身した!

「ふふふ、愚か者共め……! 来い! 私が殺してくれよう!」


 続く!

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