この恋は許されない
黒嶺紅嵐
プロローグ
恋は盲目。そして一寸先は闇。二つの諺は、いつの時代になっても必ず通じるものだ。
一途になりすぎるあまりに見落とすものがあり、失うものがある。そして直後に、無くしたもののあまりの大きさに気付く。悲しいけど俺は今、そういうことに気付きながらも、恋って名の厄介な病を患い、無知で幼いままに、心の闇夜に沈んでいる。
その先彼女が、彼が、あるいはそのまた別の彼女が、果てには潜在的に存在するかもしれない誰かが傷付かないかどうかなんて、考えてもみなかった話だ。つまり俺は圧倒的に幼稚で、自己中で、恋という刃で無意識に誰かを傷つけながら、片や自分をも傷つけているんだ。
※
思えば、中学時代の恋愛でのトラウマ以来、そういうものに関して引っ込み思案でチキンになってしまった俺は、「あのとき」を境にして、自分の中では恋愛においてあるがままに振る舞う奴に変わった。彼女にさえ出会わなければ、俺の人生はきっと平凡で、波風ひとつ立たない穏やかな生活を続けていたかもしれない。でも、彼女に出会ったからこそ得たものや気づいたものがあるのも事実だ。だから俺は、「あのとき」を恨むつもりは毛頭ない。
ただ・・・僅かながらに「あのとき」を憎らしく思うときもある。何となく、運命を決めた神様を恨みたくなる。そしてまた、そんな自分に自己嫌悪を抱く。
俺はおかしいんだろうか。いや、普通なんだろうか。まともじゃないのかもしれない。だって恋って、人をあっさり狂わせる致死の病だから。
ただ、病にかかったと分かったときには手遅れだ。いつだって後悔はあとから襲ってくる。そしてがんじがらめになったとき、もう戻れないと悟って、余計にもがく。決して浮き上がることなんてできない。長くかかって治る頃にはきっと、癒えない傷跡を残しているはずだ。
※
これは俺-
俺は高校に入ってまだ少し経ったばかりの高校生だ。身長は170そこそこだし、軽音部という名前だけは響きがいいがほとんど廃人部に近いような部に所属する、あまりにもごくありふれた人間だけど、クラスの中ではまあまあモテるほうだ。もちろん自分をイケメンだなんて思ったことはないが、友達曰く、意外と俺は女子ウケいいらしい。ただ世間に出れば俺くらいの男なんてザラにいると思うんだけど。
そんな俺が、ふとクラスメイトに恋をした。
普通のことだって?これだけ聞くと、まあそう思うかもしれない。けど、これがちょっと、いやとてつもなくワケアリな恋なんだ。
断言しよう。決して、普通じゃない。だって俺が恋をした相手は、大親友の元カノだ。しかも、彼らが別れた翌日に、俺は恋に落ちた。これが果たして普通の恋だなんて言えるんだろうか。
もちろんまだ誰にも明かすつもりはない。無論明かせるわけがない。親友は彼女から別れ話を切り出されたほうだし、本心では絶対に別れたくなかったわけだ。高校まで彼女の志望校に合わせて進学したっていうのに、まさか入学早々別れてしまった。そんなときに俺が彼女を好きになりましたなんて、たとえエイプリルフールの冗談でも言えない話だ。しかし、いつかは明かさなければならないときが来る。っていうか、そのうちバレると思う。さあ、そのときに俺はどんな顔して過ごしてればいいんだろうね。
ともかく、俺は彼女に恋をした。間違いなく、これは恋だ。
※
でもさ、世の中にはいわゆる「禁断の恋」だってあるわけだろ?踏み込んではいけない恋もあるんだろ?そうじゃなければ芸能人の不倫だ浮気だ略奪愛だと騒ぎ罵り誇張するゴシップ好きの連中の仕事がなくなるぜ。
考えてもみてほしい、別れたくもなかった彼女と理由もよくわからず泣く泣く別れたあとに、自分の一番の親友が彼女と付き合い始めるかもしれない状況になるシチュエーションを。果たしてそれを、君は何食わぬ顔ですんなりと受け入れられるだろうか。
要するに、俺が抱いている恋の病は悪性腫瘍みたいなもので、少しでも触れたら破裂して周りにも悪影響を及ぼすかもしれないから、すぐにでも取り除かないと取り返しがつかなくなる爆弾。下手すれば命まで取られかねない爆弾なんだ。
それでも、分かっていても振り払うことができない。一度好きになったものはどんなことをしても決して引っ込みがつかない。これぞザ・泥沼。だから正直この恋は余計に抑えられそうにない。
しかも、さらにタチの悪いことがある。彼女を好きになったその直後、別のクラスの同級生からコクられたんだ。そいつとは中学時代に通っていた学習塾が一緒だったけど、あまりまともに接したことはなかった。なのにどうして、しかも、よりによってこんなタイミングで-
俺の高校生活は、どうやらほとんど穏やかにはなりそうにない。いくら自分で蒔いた種だからって言っても、少しは神様も手加減してくれよ、まったく。
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