第18話 復讐者と下水道の闘争
冷蔵庫の中身を思い出しつつ明日の夕食の献立を考えて買う必要のあるものを携帯のテキストファイルにメモして忘れないようにトップ画面に置いておく。
結構時間をかけて考えたつもりだったが時刻はまだ午後7時前、まぁやる事がないなら少し早くインしてもいいだろう。
ログインするとゲーム内時間は午後9時過ぎ、隣を見るとまだログインしていないロータスのキャラクターが寝転がっていて、反対側の少し離れた場所にあるベッドロールを見るとアリスが寝て……と言うか起きていてばっちり目が合ってしまった。
「お、おはよう……」
取り敢えず声をかけてみた。
「寝られないんですか?」
ゲーム内時間では1日経っている筈なので少し違和感を感じるやり取りにこういう部分はやはりゲームなんだなと思わせられる。
目を開けたまま寝ているなんてことはなくアリスはベッドロールの中をもぞもぞしながら尋ねてくる。
「いや、僕は吸血鬼だからそもそも寝なくても平気なんだよ」
「なるほど」
「まぁ朝までには戻るよ」
「そうですか、ではおやすみなさい」
「おやすみ」
そういうと直ぐにアリスは寝息を立て始めNPCとはいえ女の子の寝顔をじろじろ見ているのもどうかと思ったので直ぐに部屋を出た。
アンデットのグール達は吸血鬼の僕と同じように夜行性なので洞窟の中は昼よりも少し活気づいていた。
昼よりも多くのグールと挨拶を交わしつつ洞窟を出る。
朝まではかなり時間があるので一度街に行ってなにかクエストでも受けよう、ついでにアリスの件の真犯人について情報を集めてみるのもいいだろう。
という訳でエーアストに戻ってきた。
道中野犬3匹に襲われた以外はこれと言ったことはなかったので省略。
他に当てがある訳でもないので自警団の訓練所へ、時間的にインしてる人が多いのだろう夜だというのに街は賑わっていた。
自警団の訓練所に入って依頼書の張り付けてある掲示板を眺める。
出ている依頼は野犬退治、オオカミ退治、倉庫の見張り番、etc……。
適度に時間が潰せそうなのは……これなんてどうだろう。
下水道を拠点としている盗賊の掃討、報酬は銀貨5枚、戦闘系の報酬としては結構低い方なので難易度もそこまで高くないと思う。
他に目につく依頼もないのでこれにしよう。
早速受付に依頼書を持って行って手続きを済ませると、下水道の見取り図を渡されて簡単な注意事項を伝えられる。
注意事項は負傷や死亡については自己責任であるということ、これは洞窟の見回りの依頼の時にも言われた。
そして下水道の設備の破壊になるような手段を避けること、これもまぁ当然と言えば当然なのでさほど気にすることでもないだろう。
受付のNPCは全て話し終えると訓練所の裏にある路地のマンホールまで案内してくれた。
NPCに礼を言って下水道に入る。
ゲームの時代設定は近代なので下水道といっても処理施設につながっているという訳ではなく単に川の街より下流の場所に流しているだけなの簡単なものだ。
現代の下水道を連想していただけに思ったより風通しがいいことに少し驚く、確かにこれなら住処にしても問題はないだろう。
渡された見取り図を見ながら歩くこと10分未だに敵との遭遇はない、と言うか見取り図に印が入れられている住処にしているであろう場所まではまだ少し離れているのでそこまで気を張らなくてもいいかもしれないが……。
ふと気づけば視界の端のステータスの空腹度がいつの間にかかなり高くなっていた、そういえばすこしお腹が減っているような感覚もある。
仮想の空腹感も結構リアルなもので集中力にも影響する……気がするので戦闘になる前に食事を済ませておいた方がいいだろう。
そういえば獣の血は野犬から手に入れて結構なストックがあるので当分の食事は獣の血になりそうだな。
アイテムパックから獣の血の入った小瓶を取りだして中身を口に含む、
口の中に広がる甘さに少し気分を和ませつつ更に奥へと進んでいくとかなり広い場所にたどり着いた。
地図に付けられた印はここを示している。
恐らくは川の氾濫時に下水が逆流しないようにするための設備なのだろう部屋(部屋と言っていいのかはわからないが)真ん中には大きな円形の貯水槽があり直径20mほどのそれをのぞき込むと平時の今は底の方に少し水が流れている程度だ。
よく見ると部屋の端には生活の痕跡がありここが盗賊の住処なのは間違いないと思うのだが、人の気配はない、深夜なので活動時間なのかもしれないがそうだとして誰もいないということはあり得るのだろうか?
置かれた簡易ベッドや生活用品を見る限りでは10人近く居る筈なのだが……既に住処を別の場所に移した?
それにしてはつい最近と言うか、幾つかのランプには火がついているしついさっきまで使っていたような状態なのだが……。
悩んでいても仕方ないので取り敢えず奥に進もう。
そう思って更に奥へと続く通路へ歩き出そうとした瞬間
「動くな」
何者かの言葉と同時に後頭部に金属の冷たい感触、まるで映画のような状況に僕も映画のように取り敢えず両手を上げる、所謂ホールドアップと言う状況だ。
だがおかしい、奇襲なら自動迎撃が発動する筈だ。
このスキルで何か見落としてる部分があるのか?
必死に思考を巡らせて考えるのだが原因に思い当たることはない……。
「そのままゆっくりとこちらを向け」
そしてこちらの思考なんて知らない相手はお構いなしに命令してくる。
ここは大人しく従っておくべきなのだろうか?
それとも振り向く瞬間を狙って攻撃をするべき?
いや、そもそも本当に敵かどうかも分からないのに攻撃をするのもどうなんだろう?
だが本当に敵だった場合攻撃のチャンスを逃すのは危険か?
「早くしろ」
人が必死に考えているというのに急かしてくるなよ……ええい、こうなったら取り敢えず振り向きざまに攻撃してしまおう。
ゆっくりと敵に振り返って視界の端に相手の影が見えた瞬間素早く身を低くして振り向きながら相手の銃を持った右腕を掴んで内側にひねるようにして相手の体勢を崩す。
「なっ!!」
ドズサっと無様に倒れ込んだ相手の右腕をそのままひねって背中のところで押さえる。
空いた手で銃を奪い取って頭に突き付ける、攻守逆転だ。
「何者だ」
「くっ……」
聞いてみたものの答える気配はないこれこのまま撃っちゃってもいいのかな…?
「見事だねぇ、いや、そこの下っ端がへまをしただけかな?」
このまま待っても答える気配がなさそうなので引き金を引こうと指に力を入れた瞬間別の場所から声が聞こえてきた。
声がした方向を見ると僕が組み敷いてる男と同じ動きやすそうなこれぞ盗賊という感じの服装をした男が心底可笑しいといった風な笑みを浮かべていた。
周囲を見てみればいつの間にそこにいたのかこれまた同じような服装をした奴が5人。
声をかけてきた奴は他の者よりも数段上等な装備をしているところを見るとこいつがリーダーなのだろう。
「それで?一応聞いておこうか君は何者かな?見たところ俺たちの仲間に入ろうってわけでもなさそうだが」
「あんたらがこの辺を荒らしまわってる盗賊なら残念ながらそうなるね」
「ふんっそんな仮定なんて無意味だろう、こんな格好してる俺たちが盗賊じゃないって言ってお前はそれをホイホイ信じるのかよ?それに俺たちが盗賊で残念ってことはないだろう?」
顔に笑みを張り付けたまま話を続けるリーダー(仮)なんだよくわからないがこいつがむかつく奴だということは確かだろう。
「どうせお前は街の何処かの組織に雇われて俺たちを掃除しに来たんだろう?」
「なるほど、確かに見つける手間が省けたっていう点では残念ではないか」
「まぁ、仕事は失敗だからどのみち残念かもしれないけどな」
そうリーダー(仮)が笑いながら指を鳴らすと同時に銃撃が始まる。
僕が組み敷いている味方もろともハチの巣にしようと大量の弾丸と矢が殺到する。
銃撃と同時に自動迎撃を発動させ全力でその場から飛び退くが後だしの発動では流石に回避が間に合わず太ももに2発ほど食らってしまう。
太ももを撃ち抜かれたせいで思う様に力が入らず着地に失敗して盛大に転がるが着地した地点にも直後に弾丸が殺到しているのを目撃して逆に運が良かったと胸をなでおろす。
欠損ペナルティ無効化の効果なのか体勢を立て直して立ち上がるころには潰れた弾丸が塞がっていく傷口に押し出されるようにして地面に落ちる。
ていうか戦闘で初めてまともに攻撃を受けた気がするがかなり痛い、銃撃を受けた個所が焼けた鉄の棒でも刺されたのかと錯覚するほどの熱と痛みを感じる。このゲームは痛覚緩和がかなり弱いとはネットの情報で見たがここまでとは思わなかった。
ふと盗賊を取り押さえていた場所に目を向けるとそこには無残な盗賊の死体が1つ、仲間だろうが容赦なく見てるその態度に少し腹が立つ。
だがそんなことに思考を割いている暇はない、相手の武装は銃とクロスボウ、自動迎撃の効果が切れる前に優位な状況に立たなければやられるのはこちらだ。
残りHPはちょうど90%食らった弾丸は2発なので相手の銃の弾丸1発で5%のダメージと言ったところ
こちらにも飛び道具はある、盗賊から奪った銃に小型ナイフとアンカーショット、まず銃は補正がかからないので撃ったところでまず当たらない、小型ナイフはこの距離なら全員に当てる自信はある、アンカーショットも同様だがこちらは1発の単価が高い上に発射の動作やワイヤーの巻き取りもあるので使う場面は考えなければ……。
スキルにより加速した思考で一瞬で作戦を考えた僕が最初にとった行動は一番近くの敵に右手に持った銃を向けて……そのまま投げるという物だった。
僕が投げた拳銃は一番近くの盗賊の頭部にクリーンヒットしてその盗賊は昏倒する。
直後に2度目の一斉射撃、だが今回は先ほどと違い自動迎撃のが発動している為避けきることができた。
何か違和感を感じるのだが上手く説明できない、なんなんだ?
だが余計な事を考えている暇はない、1人倒したとはいえまだ相手は4人気を抜ける状況ではない。
走りながらコートの中の小型ナイフを取り出して投げるが、僅かに逸れて相手には当たらなかった。
「くそ……」
落ち着け、1人だけなら大した脅威じゃない数を減らしていけばこちらに勝機はある。
効果終了と同時にリキャストの終了した自動迎撃をノータイムで発動、間断なく攻撃されている状況だからこそ出来る荒業だ。
だがまともに接近するには場所が悪い、こうも開けた場所では止まった瞬間にハチの巣だ。
何か策は……。
ぎりぎりで弾丸と矢を避け続けながらふと思いつく、我ながらなかなか非情な行動とは思うがやるかやられるかの状況でそんなことを考えても仕方がないだろう。
これで5度目になる一斉射撃を跳ぶ様に躱しながら先ほど昏倒させた盗賊の元へ、そして走りながら倒れている盗賊の襟首を引っ掴んで持ち上げる。
楯がなければかわりになる物を拾えばいいじゃない、生きてるけど……。
先ほどの事で相手は仲間がいても容赦なく撃ってくることはわかっている、だがそれでも攻撃を防ぐことはできるだろう。
そして予想通り何のためらいもなく盗賊はクロスボウでこちらを撃ってくる。
「グアッ」
風切り音を鳴らしながら飛んで来た矢は楯にしている盗賊の足に深々と刺さり楯にしている盗賊は悲痛な呻き声と共に目を覚ます。
仲間に撃たれるなんて可哀想に……。
可哀想だからと言って手を放すなんてことはないのだけどね。
矢が刺さった盗賊を楯にしてそのまま別の盗賊の元へと突進するように距離を詰める。
だがここで問題が、矢は完全に防げても銃弾は当たり所によっては貫通してくる!!
体力が更に一割ほど減少するがこれも予想はしていたので慌てない。
目の前にはハチの巣だがまだ何とか生きている肉楯1号君、その首筋に迷うことなく噛みついた。
口の中に甘い香りが広がるのと同時に体力が勢いよく回復していく、種族スキル吸血、今まで体力の減少する場面も殆どなく使うことがなくて軽く存在を忘れかけていたが体力回復効果がここまでの物とは思わなかった。
肉楯1号君の首筋にかみついたまま前方の盗賊との距離をさらに詰める、何発も肉楯君を貫通した弾丸が僕の体力を削るが次の瞬間には最大値まで回復している。
「くそっ化け物かこいつ!!」
目の前まで近づいた盗賊は悪態をつきながら慌ててナイフを抜こうとするがもう遅い。
既に力尽きた肉楯君の首筋から口を離すとそのまま力任せに目の前の盗賊へ投げつける。
盗賊はナイフを引き抜くことも出来ずに体勢を崩す。
体勢を崩した盗賊の腕をつかみそのまま強引に僕の右側へと持ち上げると直後に発砲された銃の弾丸が掴んでいる盗賊の眉間へと吸い込まれる。
あぁっ勿体ない、死亡した相手からじゃ吸血出来ないのに……。
1撃で死亡してしまったのは予想外だが楯になることに変わりはない、これで君もめでたく肉楯2号君だ、言ったところで死んでるから分からないだろうけど……。
同じ要領で順番に数を減らしていき僕の腕には虫の息の肉楯4号君、残ったのはリーダー格の盗賊だけだ。
そいつがいまだに楽しそうな笑みを顔に張り付けたまま話しかけてくる。
「いや、本当に見事だ、技術はともかくその身体能力は自警団には勿体ないくらいに……仲間になる気はない?」
「それは遠慮しておく、盗賊ってのを置いても仲間を簡単に見捨てるような奴らなんてのは御免だ」
「そりゃあそいつらは使い捨ての下っ端だからねぇ、君みたいな優秀な人材なら扱いもそれ相応の物になるよ」
「そういうことを言ってるんじゃない」
「下っ端だろうと見捨てるべきではないなんて言うつもりか?そんなもの自警団はともかく軍だって同じだろう、いやむしろ軍の方がひどいね」
「なんで盗賊のお前がそんなこと」
「なんでってそりゃ俺が軍人だからに決まってるだろう」
その言葉で先ほど感じた違和感の正体に気付く、戦い方が盗賊らしくなかったのだ、他のゲームなら盗賊と言えばもっとばらばらに襲ってくるものだがこいつらは陣形を組んで一斉射撃なんて軍隊の様な戦い方をしていた、だがこいつらが軍人だとは信じられない。
「お前が軍人だっていうならなんでこんな盗賊の真似事みたいなことをするんだよ」
「任務だよまぁ本意ではないけどね、あまり詳しい事は言えないが……そうだね、Grim Reaper Blood、それかWise Man Bloodって噂くらいは聞いたことがあるだろう?不老不死になれるとか石ころを金に換えるとかそういう話の」
「それがどうした」
突然の話に微妙に思考が追い付いていないが取り敢えず聞くだけ聞いてみる。
「どうやらこの国の上層部はその死神の血ってのがなんなのかおおよその予想がついていて実在するという確信があるようでね、大方それを兵器転用するとかそういう目的なんだろうが、それの為に俺たちは動いてるってことだ、有るかどうかもよくわからないお伽噺みたいなもんのために盗賊の真似事なんて実際に動く俺たちからしたらたまったもんじゃないけどな」
「それで?」
聞いているとますますよくわからなくなってきた。
「ここは大人しく見逃せって言ってんだよ、お前は自警団に雇われただけの一般市民こっちは軍人、言ってる意味わかるだろ?ここで大人しく引くならお前が部下を殺したことは見逃す、だが追ってくるなら指名手配くらいは覚悟するんだな」
なるほどそういうことか
「言いたいことはわかった、だがまずお前が本当に軍人かどうかも分からない、仮にそうだったとしてお前を逃がしてもお前が言葉通り見逃す保証なんてない、ならここでお前を殺すのが一番確実だ」
「まぁ、そう来ると思ってたよ」
言いながら相手は銃の撃鉄を起こす、それと同時に自動迎撃を発動する。
相手の銃口はしっかりと僕の頭を捉えている、その引き金が引かれるのを見て掴んだままの肉楯4号の頭を動かして弾丸を受ける。
そして肉楯4号を動かした事で空いた僕の肩に向けて2発目の発砲それも難なく肉楯4号の頭で防ぐ。
「吸血鬼、お前弾丸が見えてるのか?」
驚愕に目を見開く盗賊のリーダー、だがこちらも内心驚いていることがある。
肉楯4号の頭を掴んでいる自分の右手から血が流れる。
肉楯4号で弾丸を防いだ弾丸2発は肉楯4号の頭部を貫通してその頭部を掴んでいる僕の手のひらに刺さっていた。
どうやら手のひらを貫通する事はなかったようだが相手の持つ銃も他の装備と同様に下っ端の盗賊よりも良い物を使っているのだろう。
この調子では盗賊の死体を楯にするのも無意味だろう、手に持った死体をそのまま真横に放り投げる。
空になった手を振ればその勢いで刺さった弾丸が床に落ち傷口もあっと言う間に塞がる。
「反則物の化け物だなおい……」
傷は塞がるが失った体力は戻らないので反則と言うほどのものではないと思うのだがそんなことを言っても無駄だろう、盗賊の言葉は無視して腰のナイフを抜く。
警戒しているのか直ぐには撃ってこない、ならこちらから攻めよう。
吸血鬼の身体能力を活かして一気に距離を詰める。
だがナイフの届く範囲まであと一歩と言うところで盗賊がこちらに銃を向けて引く、避けられるなら避けられない距離で撃とうと考えたのだろう。
考えは悪くない、が残念ながら自動迎撃を発動している僕はその銃を向ける動作も引き金を引く瞬間も見えているのだ、逆に近づいている方が避けやすかったりする。
先ほどまで僕の頭のあった場所に向かって発射される弾丸を尻目にさらに踏み込んで銃を持っている盗賊の右腕をナイフで切りつける。
「あがぁあああああああ!!」
そこまで強く切りつけたつもりはなかったのだが、盗賊の右手は手首のところで綺麗に切断された、恐らく今までさんざん攻撃を受けていたから復讐者の特性でステータスが底上げされていたのだろう、それにリベンジスタンスによる効果の上乗せもある。
実際にどのくらい上昇しているのかを知る術がないのは困りものだが……。
切り飛ばした盗賊の右手が地面に落ちたのと同時に自動迎撃の効果が切れた、盗賊は手首から先のなくなった右腕を押さえて痛みに悶えている、とどめを刺すにしてもこれ以上自動迎撃を発動させる必要はない……そもそも相手が攻撃してこなければ発動はしないのだが。
とどめを刺すために盗賊の前でしゃがみ込んだ瞬間盗賊が左手をこちらに勢いよく突き出す。
その手に持った光を反射する何かに僕は対応できなかった。
敵対行動中なので奇襲扱いにはならず自動迎撃も反応しない、完全に油断していた、そう思った時には盗賊のその手に持った何かは僕の腹部に深々と刺さっていた。
「ぐっ……」
焼けるような痛みに倒れそうになるがなんとか踏みとどまる。
刺さったままのナイフを引き抜き自分の体力を見てその異常に気付く、残りの体力が1割を切っている、どういうことだ?
「銀のナイフは気に入ってくれたか吸血鬼」
たしか吸血鬼は銀製武器に対しては耐性が無効化されるんだっけか、それにしてもナイフの一突きでここまで体力が減るとは予想外だった。
いや、吸血鬼の基礎ステータスも体力はそこまで高くなかったので当然と言えば当然か?
それより残り少ない体力も問題だが傷口の治りもかなり遅くなっている、体力が少なくなったせいなのかそれとも銀製武器のせいなのかは分からないがこのまま出血が止まらなければ残り少ない体力では持たないだろう。
現に今も体力がじわじわと減っている、ここは早々に決着を付けなければ……。
再び盗賊と対峙する、だが今回先に動いたのは盗賊の方だった。
盗賊は懐から新しいナイフを取り出す、これも銀製なのかはわからないが残りの体力的にはどっちでも同じことだろう。
自動迎撃を発動して盗賊を迎え撃つ。
盗賊がナイフを持った左腕を振るうのと同時に知覚する時間の流れが引き延ばされる。
振られたナイフを屈んで躱す。
体が軽い、何故かはわからないが……。
屈んだ状態から体勢を戻すついでに左腕を振り上げる、所謂アッパーカットだ。
精々牽制目的で放った拳は予想外に盗賊の顎にクリーンヒットし……その顔面を跡形もなく吹き飛ばした。
「は?」
我ながら間抜けな声だったと思う。
いくら吸血鬼のステータスが高いからと言ってここまでの力は無いはずだが。
思い当たることと言えば大幅に減った体力だろうか、復讐者は攻撃を受けたときに少しずつステータスが上昇する、回避した場合も割合的には少ないが同様だ。
そういえばロータスが攻撃を受けたダメージが大きいほどその上昇率は高くなると言ってたがつまりそういうことなのだろうか?
それにしてもこれはいくらなんでも上がりすぎだと思うのだが……。
うーむ、復讐者のこの特性の恩恵をあまりはっきりと感じたことはなかったがそれは今まで自動迎撃で攻撃をほとんど受けることがなかったからなのだろうか。
なんにせよ今の自分の戦闘スタイルについては一考する余地がありそうだ。
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