Grim Reaper Blood
んご
第1話 復讐者始めました
ぺりぺりと新品のホログラフィックディスクのケースから透明のフィルムを剥がしてケースを開ける。
中のディスクを取り出してPCに差し込むと視界の真ん中に表示されたポップアップの選択肢のYESを選ぶ、視界の端にインストール完了まで残り45分と表示されたのを確認してPCからNLDニューロリンクデバイスの接続を切る。
ニューロリンクデバイス…体に埋め込んだチップから電磁パルスを送って脳内に直接情報を送る事でAR(拡張現実)とVR(仮想現実)を実現した情報端末である。
情報端末と言っても実際ニューロリンクデバイスにある機能は電磁パルスの発生と他の機器からの電波受信だけで処理をしているのは今僕のポケットに入っている携帯や机の下に置いてある型落ちしたPCなのだが、ちなみにNLDの電源は熱電変換素子がNLDに組み込まれていて体温で発電するため一度埋め込んだら変な故障でもしない限り一生外すことはなく今時の子供なら中学生に上がるころにはみんな頭部にマイクロチップを埋め込む手術(手術と言っても数か所にチップを専用の機械で埋め込む5分程度で済む物だが)をしている。
一部の界隈ではロリデバイスなんて呼ばれたりもするくらい社会に浸透しているものだ。
数秒ほど物思いにふけっていると耳元で通話中の相手から声がする。
『おーいひなさんやー』
「ごめん、ぼーっとしてた」
『ひなちゃんの為に説明してあげてるんだからしっかりしてよねー」
「さそったのは香織の方だろ、あとちゃん付けはやめろって」
『誘ったのが私でも説明してるのはひな君のためなんだからちゃんと聞くように』
「わかったよ」
『それでどこまで聞いてた?』
「種族の話が終わったとこまで」
『全部きいてんじゃん、なんだよーひな君さては私をいじめて楽しんでるんだな?クソが!絶対許さないからな!』
「わざとじゃないよ、ていうか心狭すぎだろ切れんなよ」
『いやまぁ冗談だけど』
「それで、インストール完了まで後40分くらいだけど」
『私もそれくらいでおわるかな、一通りの説明はしたしあとはインしてから話すよ』
「わかったじゃあまた後で」
『はーい』
ボイスチャットの通話を終了してすぐに携帯にメッセージが届く
『待ち合わせ場所はインしたら最初にいる街の噴水がある広場で』
了解とだけ返信しておく
通話していた相手は霧島蓮華きりしまれんか同じ高校に通うなぜかは知らないがよく絡んでくる数少ない友人一人だ、話していたのは一緒にやることになった新作オンラインゲームのことだ。
事の発端は今日の昼前、3学期の終業式の後ホームルームも終わりさて帰ったら何をしようかと考えながら鞄に荷物を詰めていた時のこと。
「ひなちゃんひなちゃん、昼から予定ある?ないよね?ないね?よしじゃあ行こう」
「勝手に決めつけんなよ、っていうか何処にだよ、あとちゃん付けするな」
「じゃあじゃあ部活にに入ってなくてかといってバイトもそんなにしょっちゅう言ってるわけでもない友達少ない雛菊くんは今日の昼から何か予定はあるのかな?」
「その通りだけど人をぼっちの暇人みたいに言うのはやめろ、予定もないけど…」
「事実をいっただけだよ?」
「泣くぞ…、それででどこに行くんだよ」
「ゲームショップに予約したゲームを受け取りにさ」
「そんなの一人でいけよ」
「嫌だよ!!学校終わりの街に一人でいるなんてぼっちみたいじゃないか!!」
どこか必死な蓮華
「事実だろ」
「泣くよ⁉」
と言うわけで押し切られて結局付き合う事になった。
適当にファミレスで昼食を済ましてから目的のゲームっショップへ、予約していると言う事なので店の中を見て回ることも無くレジで蓮華が予約している旨を伝えると店員が奥からゲームのソフトをもってくる。
「こちら2点で1万4千円になります」
会計を済ませて店から出た後で気になったことを聞く。
「なぁ、なんで同じソフトを2つも買ったんだ?」
「ん?ひな君の分に決まってるだろう?」
「あそっか、…ってまて僕の分ってなんだよ」
「いやどうせ春休み暇なんだろうし一緒にやろうと思って」
「やんねーよオンラインゲームなんて」
「まぁ試しにちょっとやるくらいいいじゃない、ほら、どうせぼっちで暇なんだろ?」
「…わかったよ試しにやるだけな」
そういうと笑顔で手を出してくる蓮華
「7千円になります」
財布から7千円を出したところで蓮華が叫ぶ
「そこは突っ込むとこだろ⁉金とるのかよって!!」
「いや、買ってもらうのは悪いし」
「いいんだ、プレゼントだよプレゼント」
「なんのだよ」
「細かいことは気にすんな」
「はぁ」
それから家に帰ったところでどこかテンション高めの蓮華から通話がかかってきて今に至るというわけだ。
それから少しネットでニュース等を見て時間を潰す。
やることになったオンラインゲームの話題もある程度あった。
新作オンラインRPG『Grim Reaper Blood』Grim Reaper…死神?死の具現だったか?少々物騒な名前の通り最近のMMOでよくあるファンタジー系ではないようだ。
舞台は1800年代後半のヨーロッパ、出来たばかりの蒸気機関や通信機等に発展途上の銃器、人々に噂される獣人やアンデットなどの種族、魅惑的な裏社会、そんな言葉がつらつらと並んでいるゲーム系サイトの記事が強調しているのは魔法的な要素がほぼないと言う事だ。
最近人気のオンラインゲームだと剣と魔法のファンタジーという王道的なものが多いが、この作品にはそもそも魔法という概念がなく武器も現実的なものばかり、ベータテスト参加者のブログの記事によると武器や防具にはレアリティ等がなくステータスも殆ど視覚化されないらしい、唯一あるのはどういう装備なのかというフレーバーテキストのみだとか。
そうやってネットの記事をあさりながら時間を潰しているとインストール完了の表示が視界の端に出てきたので蓮華にメッセージでインする旨を伝えて早速アプリを起動する。
これはVRアプリケーションです起動中は体感覚が遮断され云々と言うお決まりの警告表示を出てきた瞬間にYESを選んで消すと視界が暗転して体の感覚がなくなる。
直ぐに視界に光が戻ると目の前にスーツ姿の女性が立っていた、ゲーム内アナウンス用のNPCのようだ。
「Grim Reaper Bloodの世界へようこそ、アカウントIDを確認しました、キャラクター作成へと移行します」
蓮華に言われるままにアカウント作成をしておいたのだがここで時間を食われないようにするためだったらしい。
「キャラクター名を入力してください」
本名を使うのはさすがにアレなので適当に本名を英語にした一部からとってつける。
「ベル様でよろしいですか?」
「はい」
「では種族を選択してください」
出てきた種族一覧を見ながら考える
大まかに人間、獣人、アンデット、異形に分かれる
・人間系の特徴
基礎ステータスは低い
各種武器や道具の適正値が高く補正が高い
各種耐性は平均的
人間、ドワーフ、エルフ等の種類がある
他種族に対する交友のペナルティがない
・獣人系の特徴
基礎ステータスが高い
一部の武器、道具の適正値が高く他が低い
物理系耐性が特に高い
化猫、ワーウルフ、等
獣人の異性に対して交友ボーナスあり、獣人の同性と人間相手の場合ペナルティがある
・アンデット
基礎ステータスの偏りが激しい
一部を除く武器、道具に対しての適正値が低く補正が低い、種族と武器の材料、属性によっては装備すらできない場合がある
基本的に耐性は高く獣人系よりも優秀だが、弱点の耐性についてはかなり低い
ゾンビ、スケルトン、吸血鬼、等がある
人間、獣人に対して交友ペナルティが高く、アンデット、異形に対してのボーナスが高い
異形系
基礎ステータスの偏りが激しく合計値が他種族よりも低い
殆どの種族が武器、道具を使えないが使える場合は適正値が高い
耐性が総じて高くバランスが良い
デュラハン、クレイマン、ケンタウロス等がある
アンデット、異形には交友ボーナスが高い、人間、獣人に対してのペナルティも高い
一覧を見ながら結構多いなと思う、詳細を一つずつ見ていきながら選ぶ。
アンデットの中の種族を見ていた時一つに目が留まる。
アンデット:吸血鬼
基礎ステータス
筋力:9
敏捷:7
知覚:8
精神:4
知力:7
体力:5
武器・道具補正ボーナス・ペナルティなし※ただし素材に銀が使われている場合装備不可
衝撃耐性:10
刺突耐性:10
斬撃耐性:10
銃撃耐性:10
※ただし攻撃に使用された武器が銀製の場合は耐性無効
交友ボーナス
人間系:ペナルティなし
獣人系:ぺナルティなし
アンデット系:ボーナス低
異形系:ボーナス低
※四肢欠損ペナルティー無効
※陽光を浴びた場合ペナルティ発生
詳細:人々に噂されるアンデットの一つバンパイア、銀製武器や太陽と言った弱点があるものの基礎ステータス、各種耐性が高く、人間・獣人に対する交友ペナルティがない、スキル取得により飛行、霧化、眷属召喚等が行えるようになる。食料アイテムのにんにくは食べられる
基礎ステータス耐性が基本となる人間がすべて5なのと比べるとかなり高いのも目に留まった理由の一つだが、一番の理由は詳細の所に書かれている飛行だ、ファンタジーもので空を飛べるものは多いがこういうゲームで自分の体で空を飛べるものはなかなかない、何か頭の隅に引っかかる気がするが気にせずこれにしよう。
種族を選ぶと僕が種族を選ぶ間ずっと笑顔を保ったまま黙っていたNPCが口を開く
「では職業を選択してください」
職業…なんか結構というかかなり数が多いな…。
確か蓮華が銃器を扱う職業は避けた方がいいって言ってたな、序盤は弾薬代が払えるような額じゃないから目指すなら他の職業からのクラスチェンジで狙った方が良いとかなんとか。
適当に職業一覧を見ながら横についている初期装備の画像を見ながら気に入った職業を選ぶことにした。
選んだ職業は復讐者アヴェンジャー、相手に攻撃されるごとに能力が上昇し追い詰められるほど強くなるらしい、一定ダメージ以上で使用できるようになるスキルや対人戦での勝敗により発動するスキル等もあるようだ。
初期装備は黒いフード付きのコートとブーツにグローブとナイフちょっと暗い雰囲気だが無難でいい。
と言うわけで職業も決定すると次はサブ職業、所謂生産職を選ぶ、生産職はキャラ作成時に1つ(メイン職が職人系、商人系の場合はメイン職に生産職2つが付いてくるので3つ)得られる基本的にそれ以降の取得は不可能だが一部のクエスト等で取得可能になることもあるようだ。
サブ職業の一覧をみてまたもやその数にどれにしようか悩むが、右上の方にアヴェンジャーにお勧めのサブ職業という親切な表示がされていくつかの職業がピックアップされていたのでその中から適当に罠師を選ぶ。
「ではキャラクターの外見を設定してください」
本音を言えばマッチョなおじさんにしたかったのだが何やかんやでここまでそこそこに時間をかけているので蓮華を待たせているかもしれないと思い、自分の体と顔のスキャンデータをそのまま使うことにする。
まぁ体格を変えるとプレイするときに違和感が出るらしいからこれでいいのかもしれない。
スキャンデータをインポートしてそのまま決定を押す。
「ではこれでキャラクタークリエイトを終了しますGrim Reaper Bloodの世界をお楽しみください」
NPCが深々とお辞儀したところで視界が暗転して突然目の前に街が現れる。
最新のゲームだけあってグラフィックがかなりリアルだ、ぱっと見では現実と判断できないほど。
早速辺りを見て回りたいという好奇心を抑え込み蓮華との待ち合わせの場所に移動する。
待ち合わせでふと思い出したのだがこのゲームは内部時間が加速されているためインした時間の差によっては結構待つことになったりするのではないかと思う。
このゲームの加速倍率は24倍、つまり現実での1時間が内部では丁度1日になる計算だ。
現実世界ので1分違えば24分待つことになる、今回はほぼ同時にインしたが待ち合わせは時間も明確に決めておかないとだめかもしれない、なんて思っていると蓮華からメッセージが届く、もちろんフレンド登録もしていないのでゲーム付属の機能ではなく別のメッセージアプリの機能だがゲーム中でも基本的には開くことができる。
『キャラクリで悩んでるから適当に時間潰しておいて、終わったらまた連絡する』
この調子ならキャラの見た目を弄ってもよかったかななんて思うがいまさら言ってももう遅いのであきらめる。
とりあえずこの街の地形を覚えるついでに散策でもしようか。
散策している途中やけに暑いとおもったら視界の端にアイコンが出ていた、詳細を見ると
種族ペナルティ発生:太陽の光により全ステータス3低下
と書かれている。
そうか吸血鬼の種族ペナルティか…意外と面倒だなこれ、どこか日陰は無いかと探そうとしたところで自分の着ているコートのフードの事を思い出す。
フードをかぶると暑さも大分和らいだ、がペナルティ自体が完全になくなったわけではないようで全てのステータスが1下がっている。
まぁ街を歩く分には不自由はないのでこのままで問題ないだろう。
そんな発見をしつつ街をぶらついていると漸くキャラクリが終わったようで蓮華からメッセージが入る。
噴水のある広場に戻ると見覚えのある顔のキャラが立っていたので声をかける。
「蓮華」
「はひっ⁉…ってひな君かフードなんてかぶってるからびっくりしたよあとこっちでは本名で呼ばないように」
「いやお前も呼んでんじゃん」
「あだ名だからいいじゃん」
「そういうもんか?」
「そういうものなの、ていうかそのキャラの名前は?てっきりひなってつけると思ってたのに」
「それだけは絶対に嫌だわ、ほら僕の名前英語にしたら」
「雛菊を英語で…デイジー?」
「もっと詳しい方」
「ベルリスペレンニス?あぁだからベルね、安直だね!」
そういう蓮華のキャラ名はロータス、つまり蓮だ、蓮華も人のことは言えないと思う。
「いや、それブーメランだから」
「まぁそれはそうと早速レベル上げにでも…てベル君種族吸血鬼じゃん!!なんでだよ!!」
「は?」
「は?じゃないよ私説明したじゃん人間系以外は街とか特定のエリアで活動しにくくなることがあるって、しかも吸血鬼って、昼間はペナルティがあるからクエストなんて出来ないじゃないか」
「フードかぶってればペナルティもそんなにひどくないみたいだし何とかなるんじゃないのか?」
「街中なら日陰も多いからフードだけでも何とかなるけどクエストで郊外に出たら結構厳しいらしいよ遮光ジェルってアイテムがあるけど無駄に値が張るし今は手が出せるようなもんじゃないよ」
「そうなのか、じゃあ日の当たらない場所とかは?」
「下水道とか街の外れに洞窟があるけど少しレベルが高めだから無理そうかな」
「一番レベルの低い洞窟ならベル君だけならいけるかもだけど」
「僕だけって?」
「交友ボーナスさ、+補正がかかっている種族相手なら敵モンスターでも襲ってこなくなるから、襲ってくるモンスターの数が変わるんだよ」
「なるほど、そう言う事か」
「でもベル君の職業は復讐者だから一人でって言うのもきついと思うんだよね」
「と言うと?」
「復讐者は職業での武器・道具補正がない上に強化が前提だから基本性能が低い、しかも種族が吸血鬼だから種族での武器補正もかからない、たぶん考えられる限りで最弱の組み合わせだと思うよ、まぁ確かに吸血鬼はステータス自体は高いからプレイヤースキルだけで武器を扱えるなら話は別だし、弱点さえ突かれなきゃある程度相手の攻撃を受けることもできるから職業のスキル的にも合ってるっちゃあってるけどね」
「ふーん、ていうか武器補正とか道具補正って結局なんなんだ?」
「武器補正はそのまんま武器を扱うときの操作に補正が入るんだよ、例えば素人が刀を振ったとしてそう簡単に物を切ったりできると思う?できないよね、だからリアリティを出しつつゲームとして成り立たせるためのシステムとして武器補正があるんだよ、この値が高ければ高いほどその武器を扱うときの動きが最適な動きに補正される。刀を振ったことがない人でも持って振るだけで体にしみ込んだ動きみたいに最適な動きに補正される。道具補正も対象が武器じゃないだけで同じものだね」
「つまり、僕の種族と職業の構成って」
「武器の扱いは完全に君の技量でしか扱えないね、サブ職業が罠師だから罠と罠の作成ツールは補正が入るだろうけど」
「それクエスト行くとかそれ以前の問題じゃないか?」
「あー、確かにそれもそうかもね、っていっても訓練場はお金がかかるらしいからなぁ」
「それって高いのか?」
「銀貨5枚だからの初期の所持金の半分だね」
「今の全財産の半分か…」
「まぁこの際必要な出費と思うことにしよう」
「んー、突き合わせるのも悪いし一人で行くよ、ロータスは一人で大丈夫なんだろ?」
「誘ったのにほったらかしってのも気が引けるんだよなぁ」
「気にすんなよどうせ時間はいっぱいあるんだこっちで一日たっても現実じゃ1時間なんだから今日含めてあと3日はあるだろ」
「入ったのは3時だったからそんなもんか、分かったよとりあえず今日は別行動ね、なんかあったらメッセージで連絡してくれればいいから」
「じゃあまた夜に」
「おー、ってフレンド御登録するの忘れるところだったよ、じゃあまた夜にね」
視界に現れた確認ウィンドウの承諾ボタンを押したところで蓮華は頷くと、手を振りながら人混みの中へと消えていった。
僕も訓練場へ行くとするか…訓練場ってどこなんだろう。
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