第15話 少年王のもてなし
マントで胸を隠して海から上がり、私はそのまま海の家にこもってしまった。……見られたかな。見られたよな~。凹むぞ。
私は体型に、特に胸にコンプレックスを抱えていた。痩せっぽちで、AAカップなのだ。
コニーは私の『びきに』が見られないのでどうしたのかとしきりに訊いたが、私はそれどころではなかった。問答無用で服を奪い返して着替え、みんなが泳ぐのを見ながら、名産のところてんとかいうものをすする。何コレ。ちゅるちゅるして美味しい。
ところてんをマルと分け合った後は、ぼんやりして時間を過ごした。マルは膝の上で眠っている。
宿屋に落ち着いたのは、すっかり陽が傾いた頃だった。
「ねーえゴースト、何があったのよう」
夕食までの間終始無言で、早々にふて寝をする私に、コニーが話しかけてくる。
部屋はディレミーンと私、プラミスとコニーだったが、今は一つ部屋に全員が集まっていた。
コン、コン。
そこへ、ノックの音がする。
宿屋の部屋に来客があるなんて、珍しい。
私も何とかベッドの上に身を起こして、腰掛けたまま客を出迎えた。
「失礼。これの持ち主を探している」
ゆったりとした布の多いパンツにベスト、ターバン、エキゾチックな南国の民族衣装に身を包んだ二人の紳士が、金糸で編まれたふかふかのクッションの上に、
げっ。私はベッドに潜り込んで、他人のふりを決め込もうとした。ところが、コニーが反応する。
「ゴースト! これって……ビキニ!」
途端、紳士たちがにこやかに顔を上げた。
「おお、お名前はゴースト様とおっしゃると、申しつかっております。やっと見付けた。どうぞ、王宮へお越しください。王が命の恩人の貴方様を、ゆっくりともてなしたいそうです。お連れ様もどうぞ、一緒に。貴方様が助けたのは、ザティハが王、コージャスタス様にあらせられます」
あらせられても、余計恥ずかしいだけだ。
「どういう事だ、ゴースト?」
訊かないでくれディレミーン……。
「もてなしには、ご馳走も含まれているのかの?」
「もちろんです」
プラミス……分かりやすいぞ。
「行かない。ゴーストは、コニーちゃんのだもん。ゴースト、ビキニ取られて落ち込んでたもん。女の子の敵なんだもん」
コニーだけが、ぷんぷん怒って私の心を代弁してくれた。前半は事実無根だったけど。
「それは困ります。ゴースト様を連れて帰れないと、私たちは首をはねられてしまいます」
途端、紳士たちは泣き落としにかかった。嘘か誠か判別が付かなかったが、ディレミーンが気の毒そうな声音を出した。
「ゴースト、悪い話じゃないだろう。もしこの人たちが首をはねられたら、寝覚めが悪いだろう?」
ディレミーンはお人好しだ。年頃の女の子に海パン取られても、同じ台詞がすんなり言えるかどうか、試してみたいものだ。
だが確かに、彼らが私のせいで首をはねられるのは、気持ちの良いものじゃない。
「……私たちが行けば、良いんだな」
「ええ! もてなしを受けていただければ、王の気も済む事でしょう」
この言い方だと、あのコージャスタスとかいう小年王は、家臣たちに日頃から我が儘を言っているらしいな。仕方ない……。
「分かった。行くから、そのびきにをしまってくれ」
王宮までは、六頭立ての大きな馬車で向かった。使者と私たち全員が乗っても、まだ馬車の内部は余裕があった。さすが王だけある。
コージャスタスは、王の間の奥の一段高くなった所に、ふかふかのクッションを敷いて胡座をかいていた。海であった時とは違って、南国の民族衣装が浅黒い肌によく似合っている。加えて首や腕には、ジャラジャラと金細工の装飾品を提げていた。
「よく来てくれた、ゴーストとその従者よ。そなたは命の恩人だ。心ゆくまで、楽しんでいってくれ」
う……顔見られない。どうせ王様は、Gカップ美女なんか見慣れてて、私のAAカップなんて見た内にも入らないんだろうけど。
「ゴースト、どうした? 夕食はまだだと聞いたが、口に合わないか?」
「あ……いや」
私は慌てて、ご馳走に口を付けた。
「美味しい。見た事もないご馳走に、ちょっと気後れしただけだ」
「そなたが居なければ、私は今頃、海の藻屑だ。遠慮する事はない。……踊りを!」
コージャスタスが手を叩くと、広間の両脇に控えていた踊り子がさっと進み出て、音楽に合わせて踊り出した。
あれ……意外。こういう時の為のGカップ美女だと思うんだけど、踊り子はみんな男性だ。十代の中性的な美しい少年たちが、腕に付けた布をはためかせて舞い踊った。う~ん、エルフは見慣れてるけど、また違った優美さで目の保養だぞ。
「してゴースト、そなたは何処の国の姫君なのだ」
へ? そう言えば、コージャスタスはみんなを従者と言っていたっけ。
「誤解があるようだ。私は、姫でも何でもない。一般人だ」
「私には隠さずともよい。従者を連れて、諸国を旅している最中なのだろう?」
「……何故、そう思うんだ?」
「海で、そなたの顔を見た。その肌の色、王族のものだ。それを隠すようにフードを被っているという事は、忍びの旅なのだろう?」
驚いた。国が変われば、この肌の色が王族の証になるのか。
「私は、北の村から来た。北では、この肌の色は好ましいものではなかった。嬉しい言葉だが、私は王族ではない」
「ほう……」
するとどのような心境か、コージャスタスは、肘掛けに肘をついて拳で顎を支え、目を細めて微笑んだ。
「……一人に一つずつ、部屋を与えよう。ゆるりと休んでいってくれ」
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