本編

1.終わりの始まり

「――遂に辿り着いたようだな」


 アインの言葉に、仲間達が頷き返す。俺達の目の前には今、物語の「魔王の城」にでも出てきそうな巨大な門扉がそびえ立っていた。これまでの道程、長く狭苦しい石造りの通路ばかりだったこの「地下迷宮」にはおおよそ似つかわしくない巨大な門扉、その高さは人間の身長を遥かに超えており、恐らく大鬼オーガでさえも余裕で通り抜けられることだろう。石とも金属ともつかぬ不可思議な材質で作られたそれは、これまた分かりやすい位に禍々しい装飾が施されていた。恐らく、この向こうに居るのだ――邪悪な魔導師ヴァルドネルが。


「ホワイト、頼む」

「あいよ」

 アインの言葉に「何を」とは聞き返さず、俺は門扉の周囲を調べ始めた。この最下層に辿り着くまでに、「地下迷宮」のそこかしこに機械式・魔法式問わず無数の罠が仕掛けられていた。目くらまし程度のものから致死性のものまで、様々な罠の歓迎を受けたが、幸いにして犠牲者は出ずに済んでいた。……自画自賛になってしまうが、その全てを俺が事前に察知し解除して来たからだ。

 俺の名はホワイト。共通語で「白い奴」とかそういう意味の名だが、これは通称で本名は別にある。といっても、もう十数年間この名前で呼ばれ続けているので、最早こちらの方が本当の名前という感覚すらある。元々は、孤児だった俺を拾って盗賊へと育て上げたクソッタレに付けられた通り名だったが、まあ由来はどうあれ既に愛着もあるので今更変えるつもりはない。変えるのが面倒くさいというのもある。

 とある大王国の首都のそこそこの家柄に生まれた俺だったが、故あって実家は没落、両親とは死別、そのまま身寄りも財産もなく孤児になった所を盗賊団の親分に拾われて、十にも満たない頃から盗みを働かされていた。本来ならばそこでいっぱしのクソッタレ盗賊にでもなっていたのだろうが、俺が幸運だったのは盗賊団がアインの手によって壊滅させられ、そのまま彼に拾われた事だった。

 「放浪の英雄アイン」、大陸全土にその名が知れ渡る壮年の騎士。特定の主に仕えず、東に悪が蔓延はびこればわざわざ足を運びそれを打倒し、西に救いを求める人々があれば私財を投げ打ってそれを助ける、俺から言わせれば「究極のお人好し」だ。元々はさる王国の末王子だったらしいが、優秀すぎるが故に兄達から疎まれて、王位継承問題に禍根を残さぬよう自ら出奔したらしい。卓越した剣技と恵まれた体格を持ち、本職の魔術師が感嘆する程の古代語魔法エンシェント・マジックの使い手でもあり、おまけに同性の俺の目から見ても中々の男前と、まあ周囲の羨望と嫉妬を買わずにはいられない人間ってやつだ。

 そんなアインの手によって盗賊団から助けられ、何故だか気に入られた俺はそのまま彼の従者になった。理由は色々あったんだろうが……この辺は長くなるので割愛する。まあ、一番の理由は、俺が器用になんでもこなす子供だったからだろう

 盗賊団で教え込まれたのは、何も盗みのテクニックだけじゃなかった。荒事になれば武器を持って戦ったし、遺跡荒らしもやらされていたから古代語なんかの知識も自然と身に付いていった。遺跡にお決まりの様々な罠への対処も体で覚えた。ついでに言えば、一番の下っ端だったから掃除に洗濯、炊事から買い物まで、家事は何でもござれの状態だ。

 そして今、それらのうち罠に関する知識が役立っていた。人生、分からないものだ。


「……多分、大丈夫だと思う。念の為アーシュさんに探知魔法をかけてもらった方がいいかもな。アーシュさん、お願いできますか?」


 門扉を一通り調べ終えたが、特に罠の類は見当たらない。ここまでくれば小細工は弄さない、と言った所か。俺にも基本的な古代語魔法の心得があるので、魔法方面の罠がない事は確認済みだが、ここは念には念を入れて本職にも確認してもらった方がいいだろう。そう思い、俺はパーティーの一員である魔術師アーシュに声をかけた。

「分かったわホワイト君、ちょっと待っててね……」

 丈の長いローブに身を包んだ黒髪の美女――アーシュが一歩進み出て、手にした魔法の杖をかざすと、杖の先に魔法の光が宿り出した。通常、古代語魔法を使うには、キーワードとなる古代語エンシェントを唱える必要があるのだが、アーシュ程の腕前ともなると一部の魔法は念じるだけで発動させる事が出来るらしい。

 アーシュはアルカマック王国宮廷魔術師の一人だ。年の頃は二十代半ばと俺より少しだけ上な位だが、その階位は第三席――つまり、宮廷魔術師の中で三番目に腕が立つらしい。異例のスピードで出世した「若き天才」らしく、今回この危険な「地下迷宮」へ挑む事も大分反対されたらしいが、古代王国の遺跡に潜れるとあって本人はむしろ乗り気で立候補したらしい。美人なのだが中々の変わり者のようだ。

「……うん、大丈夫。魔法で施錠されているみたいだけど、罠の類は感知できない。鍵の方も『開錠アンロック』の魔法ですぐにでも開けられるわ。それにこの門の文様……古文書の内容が真実ならば、間違いないと思うわ――これが最後の門よ」


 アーシュの報告に頷くと、アインは仲間達の方へ振り返り一人一人の意志を確認するように視線を送ってきた。

 まずは俺。当然、俺も覚悟は出来ているので静かに頷く。

 次に、俺と同じくアインの従者である精霊使いのリサ。俺にとっては妹のような存在だ。小動物めいた雰囲気を持つ美少女で、本人の戦闘能力は皆無と言っていいレベルだが、精霊使いとしての腕前は確かだ。様々な精霊を召喚し使役する彼女の能力には、これまでの間沢山助けられてきた。緊張を隠せないながらも、彼女なりに決意を秘めた眼差しをアインに向け、そして頷いた。

 騎士ドナール。アルカマック王国の上級騎士で、身に付けた全身鎧フルプレートと大盾で文字通り仲間達の盾となり、何度も危機を救って来た。彼も静かに頷く。

 神官戦士グンドルフ。常に微笑みを絶やさない初老の紳士。彼の癒しの小奇跡ホーリープレイが無ければとてもここまで辿り着けなかっただろう。見た目に似合わず、総鋼鉄製の戦槌ウォーハンマーを使った近接戦闘でも頼りになった。

 アーシュは「最早待ちきれぬ」という表情で何度も頷いた。古代王国期から生き延びた魔導師と対面できるかもしれないのだ、知識欲を抑えきれないのだろう。

 そして最後に傭兵ダリル。アルカマック王国傭兵隊の百人隊長で、彼の操る「大太刀」と呼ばれる長大な曲刀は、石の巨兵ストーンゴーレムの強靭な体でさえもいとも簡単に切り裂いてきた。何より気さくなその人柄が、先の見えぬ「地下迷宮」での行軍の中で、どれだけパーティーの助けになってきた事か……。その彼も大きく頷き、豪快な笑みを作って見せた。


 思えば長い道のりだった。俺達がこの「地下迷宮」へと踏み込んでおおよそ三日間。地上に居れば「たったの三日」であろうその短い時間は、しかし濃密という言葉でさえ表しつくせぬ困難の連続だった。襲い来る凶悪な魔物達、いやらしい罠の数々、複雑に入り組んだ通路と階段……。目的地も定かでない閉鎖空間を彷徨うその行程は、静かにしかし確実に俺達の精神を摩耗させていった。心が折れそうになった事も一度や二度ではない。その度に、アインが皆を元気付け、時に叱咤し、こうして最下層まで辿り着く事が出来たのだ。


「……よし、行こう!」


 アインの合図を受けて、アーシュが『開錠アンロック』の魔法を発動する。巨大な門扉が鈍い音を立ててゆっくりと開き出した。奇襲に備え、俺達はそれぞれの武器を構えて警戒する。……そして、門扉が全開となると中の様子が明らかとなった。

 そこは、地下とは思えぬ高い天井を持った広間だった。門扉もかなりの高さがあったが、室内はそれ以上だ。「玉座の間」でも気取っているのか、中央には赤い絨毯が敷かれ奥へと続いている。その先、広間の最奥にはいた。

 豪奢な装飾の施された「玉座」。そこに腰掛ける漆黒のローブを纏った人物。フードを目深にかぶっている為その顔形は分からなかったが、仲間達の誰もが確信していた。「奴こそがヴァルドネル」だと。その身に纏った禍々しい魔力が、その事を如実に表していた。

 警戒しつつ歩を進める。広間の中にはヴァルドネル以外の気配は感じられないが、罠と言う可能性もある。奇襲に警戒しつつ奴との間合いを詰めていき、そのままあと二十歩の距離まで近づいたところで、アインが名乗りを上げた。


「我が名はアイン! アイン・フェリア! 魔導師ヴァルドネル殿とお見受けするが、如何いかがか?」


 朗々と歌うようなアインの声が広間に響くと、フードの人物が静かに立ち上がり、おもむろに拍手し始めた。そして――。


「――見事、よくぞここまで辿り着いて見せた。この一年余り、数多の戦士達が我が『迷宮』に挑戦したようだが……踏破して見せたのは諸君らが初めてだ。……如何にも、私がヴァルドネルだ」

 低くしわがれているが不思議とよく通る声で奴――ヴァルドネルが答える。そして静かに、足音も立てずこちらへと歩み寄ってくる。仲間達に動揺と警戒心が広がるが、アインはそれを手で制し、ヴァルドネルに問いかけた。


「……日々、地上に現れる魔物の群れ――あれは貴公の仕業か?」

「如何にも、彼の魔物達は我が僕である」

「何故、人里を襲わせる!?」

「――である」

「……なんだと? どういう事だ?」

「言葉通りの意味だ、強き者よ。この現世の、なんとみすぼらしい事よ! 城も、人も、魔法も、私が生を受けた魔導王国期とは比べ物にならない程の脆弱さ! かつて大海を支配し、天駆ける船をも操り、いずれは星の海をも渡るとされた人類の叡智えいちは今や見る影もない! 全ては我が故国、魔導王国が滅びた故。……強き者よ、何故、我が故国は滅びたと思う?」

 逆に問いかけてくるヴァルドネルに面食らいつつも、アインは少しだけ何やら考えてから、静かに答えを口にした。

「俺は歴史学者ではないから詳しくは分からないが……魔導王国はその平和が長く続き過ぎた故に滅んだ、と何かの文献で読んだ覚えがある。大陸だけではなく、この大地と海の全てを治め、魔物達を駆逐し、外敵も内乱も無くなったが、そこが王国の発展の頂点であった、と。自分達を脅かすものが無くなった魔導王国は、その発展を止めてしまったのだと」

「――正解だ、強き者よ。我が故国は、歩みを止めてしまった。そしてゆっくりと長い年月をかけて次第に腐っていったのだ。そしてその腐敗が取り返しのつかない所まで達してしまった時、これ以上愚かな支配者には従えぬと立ち上がったのが……今、この大陸を支配する数多の王国の始祖達なのだ」


 その話は俺も聞いた事があった。現在大陸に存在する数々の王国、その王族達は元をただせば古代王国――ヴァルドネルの言う「魔導王国」の下級貴族達だったという。だが、この話が今回の件と何か関係あるのだろうか?


「――魔導師ヴァルドネルよ、我々は貴公に歴史の講釈を受けに来た訳ではない。その事と貴公が『試練』と称して魔物達に人々を襲わせる事に何の関係があるのか?」

 どうやらアインも同じ事を思ったらしい。他の仲間達の様子を窺うと、リサはちんぷんかんぷんといった風に首を傾げ、その他の面々も神妙な面持ちではあるが予想外に饒舌なヴァルドネルの様子に戸惑っているようだった。唯一、アーシュだけが興味津々と言った様子で目を爛々と輝かせているが……彼女の事は放っておこう。


「逆に問おう強き者よ。汝は今の世の繁栄が、魔導王国のそれに匹敵するものだと思うか? ……思わぬであろう? 数々の魔導の技は失われ、統一されていた大陸はいくつもの王国に分断され、血で血を洗う争いを続けている――しかも、人間同士で、だ。

 それは何故か……? 答えは明白である、魔導王国建国前と後とでは、決定的に異なる事がある! それが何か分かるかな? 強き者よ」

 再びのヴァルドネルの問いに、アインは律儀に何やら考え込み、やがて顔を上げると少し自信なさげに答えを口にした。

「――それは、もしかしての存在、か?」

「その通りだ、強き者よ」


 どうやらアインの答えは合っていたようだ。……俺もかじった程度の知識しかないが、そもそも古代王国と言う統一国家が成立したのは、古代の人々が人間以上の勢力を持った魔物達と戦う為に、部族の枠を超えて一致団結する必要があったからだという。人間達は力を合わせ、魔物達を滅ぼし、封印し、あるいは魔法で隷属させて、その勢力を大幅に減らす事に成功したらしい。


「魔物と言う天敵を失った人間達は、再び人間同士で争うようになった。魔導王国は内外に敵が無くなった為に滅びたが、現在の諸王国はその逆だ。いずれ国同士の戦いがお互いを疲弊させ、人間の文明そのものを死へと追いやるだろう。――故に、私は封じていた魔物達を解放する事を決めたのだ。人間の真の敵がどこにあるのかを知らしめる為に!」

「――そんな事の為に……? だが、現状では貴公のやっている事はアルカマックの平和を乱す結果にしかなっていないぞ、ヴァルドネルよ! この『地下迷宮』から溢れ出る魔物程度では大陸の脅威とはなるまい。随分と壮大な事を考えているようだが、実が伴っていないように見えるが?」

「無論だ、強き者よ。このアルカマック王国での事はただの前哨戦でしかない。汝らは『地下迷宮』がこの一つだとでも思っているのか?」

「――なんだと?」


 ヴァルドネルとアインの問答が長く続いていた為に、傍で聞いていた俺達にはどこか弛緩した空気が漂っていたが、それが一気に吹き飛んだ。今、ヴァルドネルは何と言った? 「地下迷宮」が一つじゃないと言ったのか? それは、つまり――。


「私以外が築いた物も含め、この大陸にはまだ無数の『地下迷宮』が現存している。その用途や目的は様々であったが、どの迷宮にも共通するものがある――それは、いずれの迷宮にも強力な魔物達が数多く封印されているという事だ。『地下迷宮』は時に修練場であり時に宝物庫であり時に巨大な魔術儀式の祭壇であったが、その最たる役割は御しきれぬ魔物達を封印しておく事にあったのだ。それらの封印を、順次解き放つ。さすれば私が望む結果にも届こうぞ……」

「貴公、そんな事をすれば――」

「死ぬであろうな、おびただしい数の人々が。だが、それによって人間は再び魔物と言う天敵を思い出す! 正しき指導者さえいれば、いずれまた統一王国を打ち建てるであろう。だが、それでまた魔物達を駆逐し尽くし、腐敗が始まってしまっては元も子もない。――だから、私が『地下迷宮』の主として魔物達の王となる。我が魔導の技にて、彼らにも更なる強さと凶悪さを与え続けよう。そして、永劫の敵として人間の前に立ちはだかるのだ。永遠の繁栄の為に!」


 ――まるっきり狂人の理論だった。人間が反映し続ける為に人間の敵となる魔物達を強くし続けようだって? 本末転倒もいい所じゃないのだろうか。再び仲間達の様子を窺うと、アーシュも含めて皆ヴァルドネルのに眉をひそめていた。当初は理知的で話も通じそうな雰囲気だったがとんでもない、こいつは完璧に狂っている。

「――ヴァルドネル、貴公が人間の繁栄を望む気持ちは分からなくもない。だが、永劫の戦いが、沢山の無辜むこの人々の死が前提の繁栄など、本末転倒! 何故、その叡智でもって血が流れる以外の道を模索できない? 戦いによってもたらされるのは繁栄だけではないぞ!」

 ヴァルドネルを糾弾するかのように、アインは収めていた剣を抜きその切っ先をヴァルドネルに向けた。「これ以上お前の妄言には付き合わない」という、明確な敵意と共に。

「騎士として災いの種は見過ごせぬ……犠牲になるのがたとえ他国の民草であったとしても、我が騎士の誇りがそれを許さぬ!」

 ドナールも大盾を構え直しアインの横につく。

「ホッホッホ、魔物達の王――魔王となろうなど、まさに神をも恐れぬ所業……拙僧が邪気を祓ってしんぜよう」

 グンドルフも祈りの言葉を唱えながら、二人の後ろに立ち臨戦態勢に入る。

「傭兵ってのは戦ってナンボなんだが……それでもなあ、戦いが好きって訳じゃないんだぜ?」

 ダリルも大太刀を抜き放ちアインの横に並ぶ。戦いを生業とする傭兵のダリルだが、聞いたところによると、その裏で戦災孤児達を集めた施設に多額の寄付をしているのだという。その心の内までは分からないが、死をまき散らそうというヴァルドネルの言動に静かな怒りを燃やしているようだった。

「偉大なる魔導師ヴァルドネル様……貴方のお話は非常に興味深いのですが、平時に研究室にこもってこそ辿り着ける真理もございます。失われた魔導の技についてご教授願いたい所でしたが……残念です」

 「本物のヴァルドネルに会ったら魔術談義がしたい」等と冗談交じりに語っていたアーシュだったが、流石の彼女でもヴァルドネルの思想は理解し難かったのだろう。魔法の杖を構え直し臨戦態勢に入る。

「あたしの故郷は戦争の巻き添えでなんにも無くなっちゃった……戦争を無くしたい、ずっとそう思って来た。あんたの言葉通りなら確かに人間同士は戦争をしなくなるだろうけど、代わりに魔物と人間の戦争が始まるだけじゃない! そんなの、絶対に許さない!」

 リサが小さな体に似合わぬ大きな声で叫んだ。幼い頃に故郷の森を戦火で焼かれ全てを失った彼女の事だ、永遠に続く戦いなんてものはとても認められないだろう。いつでも精霊達を召喚できるよう、精神統一を始めた。


 何やら盛り上がっている皆を尻目に、俺は特に口上が思いつかず無言のまま短剣を構える。だが、何も言わないというのも何だか格好がつかない気がしたので、一言だけ――。

「アイン、指示を。あいつは何だか気にくわない」


「――皆、倒すぞ、奴を!」

 仲間達の意志を受けて、アインが一歩踏み出す。ヴァルドネルはと言えば……何だか肩を震わしているように見える。フードのせいで表情は相変わらず見えないが、もしかすると笑っているのだろうか? 何にしろ、七人分の敵意をその身に受けてもひるむ様子は全く感じられなかった。


「良い……良いぞ! 真に良いぞ、強き者達よ! その強さに免じて、我が魔導の奥義でもってもてなして差し上げよう! さあ、全身全霊をもって挑むがよい!」

 歓喜に震えるヴァルドネルの体から禍々しい魔力が吹き上がる。だが、誰一人としてひるむ者はいない。この「地下迷宮」を戦い抜いた仲間達は、今や強い絆と勇気で結ばれているのだ。


「行くぞ!」

 号令と共に、アインとドナール、ダリルの三人が突進する。グンドルフは護りの小奇跡ホーリープレイの詠唱を始め、アーシュはヴァルドネルの魔法を警戒し慎重に次の手を探っている。リサも状況に応じて適切な精霊を即座に召喚出来るよう、精神を集中し続けている。俺は前衛の三人を援護すべく、左手の手甲に仕込んだ小型の弓を組み立て矢をつがえると、ヴァルドネルに狙いを定め発射のタイミングを計り始めた。


 遂に、俺達の最後の戦いが始まったのだ――。

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