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 中には滑走路の手前で、壁や床に叩きつけられ粉々に潰されたと思われる、飛空艇、のようなものも見つけた。


 それを見てノルニルが声を小さくして、僕の背中をぎゅっと掴む。


「なんか、ここ、こわいよ……」


 確かに、ここは生存と死亡の分岐点だったのだろう。


 敗北していった者達の無念がいまだ漂っているような、墓場のような寂しさを感じた。


 気をとられている暇はない。一つでも正常に動くものを探さなくては。


 隅から端までしらみ潰しに探す僕たち。


 だが、そうそう都合よくはいかないもので、大型、中型と、サイズ別に区切られたハッチの中身は、どれも納得のいくものではなかった。


 気配はまだしないが、かつてこのターミナルを襲ったというならば、奴らが掘り進んで通った道も残されているということだ。


 時間はかけていられない。急がなければ。最悪、滑走路の先に続く地上と繋がっているであろうあの穴に向かって飛び込んだっていい。


 でも、星に生存する者を探すには、なんとしてでも飛空艇を此処で確保したい。


 大型船エリアを通り越し、中型が終わりかけ、小型に差し掛かったころ。


 二十と四番目でやっとそこで無傷なまま閉ざされたハッチを見つけることができた。


 いけない。通り過ぎるたびにハズレハズレの残念賞でアタリが出たことに気がつかず一度通り過ぎてしまったよ。


 他のと比べると本当に綺麗に残されている。


 出たはいいが、果たしてこれは僕たちにとって幸運の金の玉になり得るのか。


『センサーが作動しました、サーモグラフを解析、認識完了、ロックを解除致します。』


「うそだろ……」


 ハッチの真ん前に立って、さてこいつをどうやって開けようかと、ノルニルと話し合っていると。頭上からポーンと軽い音が鳴り、高い声のアナウンスが入った。


 かと思えばハッチの上にあった緑色のライトが点灯して、遮断されていたそこが、するすると持ち上がってあーんと口を開けたのだ。


 姿を現したのは、卵型の小型船。


 開いたと同時に下部からスロープがゆっくり出され、そいつはタイヤを回してスロープを下り、僕たちの目の前までやって来た。


「すごいや……」


 無期限非常食を見つけたから、もしやとは思っていたけど、まさか本当に動くだなんて。


 全くもって恐れ入る、人間の持つ技術と可能性には。僕の声も思わず弾んだ。


 一般の乗用車ぐらいの大きさだが、翼もしっかりついていて、機体に傷もない。本当に今外に出されたばかりの新品同様。


 乗る場所はどこだろうと、正面から翼のつけ根に回り込むと。


『――ンピー、ンガガ、ガガッ、ンガガッ!えぇーただいまマイクのテスト中、テスト中、テスト中でぇ御座いマス。……、……、…………感度良好、スピーカー異常なし、テスト終了ゥ、ぁあ致しマス。』


 小型船がいきなり喋りだした。


「シャベッタ!?中に誰か乗ってるの!?」


 驚きの声を上げたノルニル、そこで声の主は僕らがいることを認識したらしい。


『おはようございます、お客様。えぇーワタクシ、当機体のオートパイロットを務めますAI――ノアと申します。ファーストネームはノア、ラストネームがリトル、ノア・リトルです。どうぞお見知りおきを』

「……やあノア!ぼくは魔法使いのノルニル、ノルンって呼んで。こっちの目つきよくないのはライ君だよ、機械兵なんだ。よろしく」


 賢ぶった感じのインテリ系のその声にノルニルは手を挙げてフランクに挨拶を交わした。


『……おや、おや、おや?これは驚きました、初めて外に出たと思ったら、これは一体全体どういうことなのでしょうか、なんというか、とても、ぽつーんとしていらっしゃる。なぜこんなことに……ワタクシの仲間は一体どこへ……?』


 挨拶が済んだかと思えば彼(AIに性別はないだろうが男性寄りの声なので彼とする)はターミナルの状況を見て驚いた様子の声を出した。


 まあこの惨状を見たら、人工知能でも驚くのは無理もないこと、僕もそうだったもの。


「ノア、落ち着いて聞いてほしい。五百年も君はここで眠っていたからわからないだろうが。その間に人間や魔法使いが、君の仲間に乗ってここを脱出したみたいなんだ。あり得ない事態がこの地下都市で起こったからだ」


 僕は要点をまとめて彼に伝えると、流石はAI、飲み込みが早かった。


『つまりは敵が攻めてきて、お客様を大勢乗せて、皆とうの昔に旅立ったと……ワタクシは誰にも選んでもらえずここに取り残されてしまった、売れ残り、だ……と』


 顔は見えないが、しょぼくれたような声で語尾を濁す。


 なんとなくその気持ちわからないでもない。僕たちみたいな存在は、劣るだとか失敗作とか、粗悪って言葉に敏感なんだよな。


「でもぼくは君を見つけられてラッキーだったよノア!」

「ノルニルの言うとおりだ。なあ頼む、動けるんだろ?散々探したが、まともに飛べそうなのはもう君ぐらいしか残っていないんだ。僕たちを乗せて、ここを出てくれないか。地上にいる他の生存者を探すためにも、君だけが頼りだ」

『地上?……それはダメデス』


 だめ?


「どういうことなの?」

『地上は死にました。もう住める場所はどこにもありません。黒い悪魔たちが残っていた緑を枯らし、水を穢し、大地は好き放題に掘り返され、もう安住の地など地表には存在しないのデス。ワタクシどもを造られた神々はそう言っておられました。だからワタクシたち箱舟が造られた』


 ちょっと意味がよく理解できないぞ。

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