【Ⅳ】

「ここに居ましたか、イルカさん。」

聞き覚えのある声がした。俺は歓喜した。

まさか向こうから来てくれるとは。飛んで火に入る夜のサツ。

「さぁ、病室へ戻りましょう。」

「残念だが、俺はあそこに帰るつもりは無い。それともう一つ残念なことに、俺は君に還ってもらうつもりだ。」

バーで盗んできた、アイスピックを取り出す。

「土に。」



素早く後ろに回り込み、喉にアイスピックを突き刺……そうとしたが、かわされる。

警察といえど、戦闘に関しては一般人とさほど変わらないだろうと舐めていた。視力というハンデを抱えた上でも。しかしこいつ、強い。

カチャリと、撃鉄の音がした。人を撃つのは、正当防衛であっても判断に時間がかかるのが普通だ。この男……尋常ではない。

距離を空けられる。まずい。刃物に拳銃では不利だ。接近戦に持ち込まなければ。

パン。懐かしい。幾度となく聞いた銃声。当たっていればこんな悠長に思考を巡らせられなかったが。

姿勢を低くし、重心を前に置く。呼吸を見計らい……いや聞き計らい、前方へ飛び出す。狙いをつけるのは困難なはずだ。実際外している。

2発目、3発目。立て続けに外してくれているので、非常に助かる。あの音は警察が普段使っているのと同じ銃だ。つまり、あと3発で弾切れ。

とはいえ、距離も縮まってきたのでここで攻撃を仕掛けてみる。足音から位置を割り出し、その甲にグサリ。

「ウガッ……!?」

伝わってくる感触から、相手は動けないと判断する。怯んでいる隙にもう一刺し。

パン。

んっ。クソ。まだ冷静さは捨てていないか。右肩に喰らってしまった。おあいこか。いや、足を奪ったこちらの方が効果的だ。

動けない警察と、見えない殺し屋。片方は刃物、もう片方は飛び道具。おあいこってところか。いや違う。お前には……

「経験が足りないな。」

アイスピックを真上に投げる。すぐさま左前方に転がる。

唖然と凶器を見つめる警察官の後頭部に、大振りのエルボー。意識が飛び、身体が前に崩れた所で、腹に膝蹴り。そのまま背負い投げて、倒れた衝撃に、かかと落としの追い討ち。

少々無駄が多い動きだが、暗闇の中、確実に大ダメージを与えるにはこれが一番だ。血を吐いているのか、息も絶え絶えになっている。終わりだな。

拳銃が落ちる音はしなかった。まだ手に持っている拳銃を奪う。奴のこめかみに銃口を当てる。

詰み。

「良いリハビリになったよ。」

引き金を引けば、ジ・エンド。

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