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「おい、かえるぞ~」
傍から彼の声。
目を開けると真っ赤な空に丸い穴が空いていた。
「今日は満月か」
カラスが鳴き、冷たい風が吹き抜ける。ゆっくりと体を起こすと、秦が待っていた。
「暑いから早く帰ろうぜ。ったく、なんで寝てんだよ」
ブツブツと文句を言いながら先に帰ろうとする秦を全力で止め、腕組みする。
「暑い(いちゃつきたい)」
心の声を混ぜてみた。
「はなせ、ガチで気持ち悪い」
ちょっと無愛想なところが可愛く思える。しかし、本当に嫌そうなのはなぜだろう。こんなにかわいい女子が腕にひっついているのに。よく分からない男心。
仕方なしに無理強いしていた腕組みを解いて、帰り始める。
異常気象の原因か、はたまた地球滅亡が近いのかわからないが、私達の住む地域は妙に物寂しい。真っ赤に沈む太陽をよそに異様に枯れた草花と落ち葉が舞い、殺伐としている。まだ夏なのに。
そんな公園だが、この公園を散歩するのが昔からの私たちの日課である。今日はどうやら休憩中に眠ってしまったらしい。
歩いていると、ふと後ろが気になった。
虹が見えたのだ。鳥の片翼の様な広くて大きい虹だった。相変わらず寂しい公園だが色鮮やかに見える。つい魅入って足が止まってしまった。
「おい、真白。おいていくぞ」
「ねぇ、秦君! 後ろ見て、ほら虹が」と先にいる秦を追いかける。
「うわっ、カラスの大群! きっも。不吉すぎじゃん」
「えっ?」
振り返ると、そこには確かにカラスの大群と元の物寂しい公園しかなかった。色鮮やかな虹の姿はどこにもない。
「虹がなんだって?」
「ううん、なにもない。カラスだよ!」
そう誤魔化した。
不安になる。
見えないものが見えた。
また幻覚?
しばらくなかったのにな。
また私……おかしくなってるのかな。
自分の事が少し怖くなって駆け足で帰宅した。
私の不安を感じ取ったのだろうか。昔から私が不安な時は傍にいてくれる。家のすぐ側まで見送ってくた秦は超紳士だと思う。
自室に戻り、部屋から秦を見送った。とは言ってもお隣さんなのだが。とりあえず、ご飯の時間まで仮眠をとろう。課題も多いし、夜に備えなければ。何より嫌なことを忘れたい。何で虹なんか視えたんだろう。誰しも嫌な出来事は思い出したくないものだ。だから嫌なことを思い出したら、好きなことを考える。
「秦がひとり、秦がふたり、秦がさんにん……しんが……」
不安な時は秦を数える。たくさんの秦が私を見守ってくれる。それが好き。
ちょっと怖いが、それが私の精神安定剤。
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