黒猫と幸せ平行ライン

星崎梓

序章

 俺こと宮原シンには野望がある。それは実に純粋で、男らしい野望である。

 高校一年の夏休みを初めての彼女と一緒に過ごす――というもの。

 そのために夏休み間近に行われる文化祭の後夜祭で、女の子にロマンチックな告白をし、オーケーをもらうのだ。

 生じる問題は二つ。


 一、まだ相手が決まっていないということ。

 二、もう七月に入ってしまっているということ。


 時間がない。時間がないけれども、まあでも、さしたることではない。

 どんな時でも冷静沈着。これが生まれ変わった俺のモットー。

 そう、俺は生まれ変わったのだ。この計画のために。

 中学時代、全くと言っていいほどモテなかった俺は、反省に反省を積み重ね、高校デビューを実行した。ボサボサだった髪は切り揃え、爽やか少年スタイルに。オシャレを気取ったけれども似合わなかったふちなしメガネはコンタクトにチェンジ。毎日筋トレも行い、そこそこ筋肉もついてきた。

 あくまで、そこそこだ。

 今通っている高校で、過去の俺を知る人物は一名。

 お宝本とお宝画像だけで朝昼晩の飯が食えるという脅威の性欲魔人。むっつりバカ、海堂。中学時代、一日に二十回以上もオナニーをして下半身から血を出したという伝説の持ち主。俺の大親友だ。

 俺達は手を取り合い、モテ男になるための情報とエロ画像を共有し、今日まで勉強をしてきた。

 時には放課後の教室に残り、どちらか一方が女役をやり告白の練習をすることもあった。現場を女子に見られたこともあるが、俺達がホモだという噂が流れていないところを察するに、自分だけの秘密として毎晩もんもんと妄想しているのだろう。えっちな娘だ。


 さて、夏休みまであと約三週間となった今、俺達はついに行動に移るべく重い腰を上げた。

「フハハハハ! 見ているがいい夏休みよ! 今年の俺は貴様をとことん楽しんでやろうではないか! ハーハハハハ!」

 自室の窓を開け、夜空に向かって吠える俺。

「にいちんうっさい! 近所迷惑だよー!」

 隣の部屋から妹が怒鳴る。俺は無視し、一層大きな声で高笑いを決めた。

 俺の崇高なる決意の叫びを褒め称えるように、どこか遠くで犬がアオーンと鳴いた。

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