異世界との遭遇

大空ゲンコ

第1話

 気が狂いそうだった。

 僕は知らぬ間に異世界に迷い込んでしまったのだ!!まだ学生である僕にこんな現実は厳しすぎる。

 ただこの異世界、ある一つのこと以外は元の世界となんら変わらない。隣の席のサチコさんだって何食わぬ顔で授業を受けている。後ろの一平くんだってそうだ。

 だけどもここは異世界だ、そう言い切れる。そうでなければ説明がつかない!今朝のことも、僕が寝ぼけていたからだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。

 今は現代社会の授業をしている。少なくとも時間割にはそう書いてある。先生が黒板の文字列を指して何か言い始めた。

「明日の行く末は東からの弾丸により再生し、あとに残るは破壊された確信である。」

 ………、これで僕の言っていたことが理解してもらえただろう。そう、何を言っているのか理解できない。単語の意味は理解できるものもあるが、およそ日本語として成り立っていない!!

 また先生が少しニヤけながら何かを言い始めた。

「赤口より12時/04分に下弦の聖駕は基本を訳し、新しいブレーカーのカーテンを降ろす。」

 すると、生徒たちが一斉に笑い出す。どうやらジョークを言ったらしい。

「……………。」

 堪らず、昨日から痛む頭を抑える。こんな光景を1時間も見ていられるものか。1時間だけではない、最悪一生このままだ!!

 こんな世界からは早く出たい!!

 そうだ……。

 これは夢なのではないか!?

 そうに違いない。

 こんなこと起こるはずないのだ!!

 目が覚めるまで机に突っ伏してしまおう!!

 …………………。

 しかし何も変わりはしない。

 2限、3限と過ぎたが、意味不明な日本語が縦横無尽に飛び交うだけ。

 ひどい…、ひどい気分だ。

 妙な孤独感に苛まれる。

 吐き気さえする。

 もうどうしようもないのだ。

 このまま僕は、この気の触れた異世界に一人ぼっちでいなければならないのだ。

 これからのことに絶望しているうちに、4限目を知らせるチャイムが鳴る。どうせ聞いていたって意味がないのだ、このまま眠ってしまおう。

 夢の世界に逃げよう。

 ………………………。

「え〜、今日はこの前の不定詞の続きをやります。」

 聞き間違いかと思った

「テキストの42ページを、開いてください。」

 聞き間違いではなかった。

 しっかり日本語として意味がわかる!!僕は歓喜した、他の生徒は戸惑っている様子だった。

 しかし、そんなこと今の僕にはどうでもいい。英語の授業ということは高橋先生だ。最近、奥さんを亡くして学校を休んでいたが、今日から復帰したのだ。

 この世界にもマトモな人がいる!!僕と話せる人がいる!!もしかしたら高橋先生もこの異世界に迷い込んだのかもしれない!!僕は一人ではなかったのだ!!

 高橋先生は少しニヤけてジョークを言った。

 これは傑作だ!わけのわからん会話をさんざん聞かされた後だと尚更いい!!

 僕は堪らず大笑いした。

 戸惑っていた生徒たちが一斉に僕の方も見る。

 そんなことどうだっていい。

 今の僕は愉快で仕方ないんだから!!

 バカ笑いする僕に機嫌が良くなったのか、高橋先生も声をあげて笑い始めた。

 二人は笑い続けた。

 声が枯れても、笑い続けた。


「ポーチに入れた四角い月は、泡を立てたウドのごとく重く、錠前を付けるには甘すぎる」

 サチコさんは戸惑いながら言った。

「高橋先生どうしたのかしら、わけのわからないことを言っているわ。」

 斜め後ろの一平くんは気の毒そうに言った。

「きっと奥さんが亡くなったせいで気が触れてしまったんたよ、とてもかわいそうだ。」

「まぁ……。」

 高橋先生は少しニヤけて何かを言い始めた。

「ラジオから流れるジンジャーエールは、凍った札束をも還元させ、埋もれたクスコは青い。」

「ワハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 サチコさんは驚いて、隣の席を見ながら言った。

「トオルくんいきなり笑い出したわ、どうしたのかしら。」

 一平くんも、同じように前の席を見ながら言った。

「きっと昨日の体育で頭を打ったせいで気が触れてしまったんだよ、とてもかわいそうだ。」

「まぁ……。」


 しばらくして、数人の教師たちが二人を連れ出した。

 二人は笑い続けた。

 声が枯れても、笑い続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界との遭遇 大空ゲンコ @oozora1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る