特殊能力の脅威

 三好勇吾の死をきっかけにして、次々とゲーム参加者は死んでいった。彼らの死に椎名真紀が関与している可能性は、半信半疑だと赤城恵一は思った。

 それと同時に、チームリーダーが死ねばメンバーも巻き添えで亡くなるというのは、悪魔のルールだと恵一は思う。この数時間の間に9人もの人間が命を落としている。NPCを含めると15人以上が遊園地から姿を消しているのだが、もしも巻き添え死ルールがなければ、何人かは助かったはずだ。

 運が悪かったと言う言葉では、片付けることができない。こんな理不尽なデスゲームがなかったら、助かるはずだった命が犠牲になったという事実は、少年のラブに対する恨みを増幅させる。

 そんな時、時間は午前1時になり、恵一のスマートフォンにメールが届いた。それは今朝予告されたメールで、内容は椎名真紀の特殊能力についてだった。

『椎名真紀の特殊能力。その1は今朝公開したので省略。その2。修羅場召喚。真紀に話しかけて来たプレイヤーのメインヒロインを召喚して、強制的な修羅場イベントを発生させる』

「三好君は、この能力で殺されたのか?」

 恵一は疑問を口にしながら、画面をスワイプさせる。すると椎名真紀第3の能力が浮き彫りにされた。その能力を知った恵一の顔は青ざめる。

『その3。補正無効化。ありとあらゆる補正を無効化する。尚、今回公開した2つの特殊能力は、椎名真紀本人でも制御できない』

 赤城恵一は広場の中で脱力したように、座り込んだ。自分の考えた攻略法は、椎名真紀の特殊能力の前では無力だった。

 今の恵一のポイントは0だ。その数字はチームで合計しても変わらない。

 残り7時間で4000ものポイントを稼げなければ死ぬ。幸いなのは、恵一のチームで脱落したのは三好だけということだけ。1人辺り800ポイント稼げればいいということは分かるが、彼女の特殊能力が邪魔をする。

 あのメールが事実なら、椎名真紀本人の情で何とかなる問題ではない。この状況を打破する方法はないのか。一生懸命考える少年の元に、電話が掛かってくる。画面を見ると、白井美緒がかけてきたことが分かった。

『恵一。真紀の特殊能力って何だったの? 私の所には情報が入ってこなくて……』

 携帯から聞こえて来た美緒の声で、恵一は作戦を思いつく。だが、その作戦を実行すれば、美緒自身を大きく傷つけてしまうかもしれない。

 これ以上美緒を悲しませるわけにはいかない。だったら、特殊能力について話さない方がいいのではないか。あの特殊能力を知れば、美緒だったら自分と同じことを言いだすに決まっている。

 何か別の方法はないのか。本当にこれでいいのか。自問自答を繰り返す恵一の耳に再び美緒の声が届いた。

「もしもし。聞こえてる? 真紀の特殊能力って何? 教えてくれなかったら、恵一の力になれないよ!」

 悩んだ末、恵一は覚悟を決め、真紀の特殊能力を美緒に伝える。幼馴染の少女は、恵一の話を静かに聞いていた。

『分かった。その能力が制御できないだったら、私が稼ぐしかないよね? 私だったら修羅場召喚って能力も効かないから』

 予想通りの答えだと恵一は思った。このままでは1人の力だけで4000ポイントもの好感度を稼ぐことになってしまう。1人で頑張っているのに、自分は何もできないのか。

 悔しさと彼女を傷つけたくないという思いが重なり、恵一は首を横に振った。

「ダメだ。お前は7時間という短期間で、1人の力で4000もの好感度を稼ごうとしているんだよな? お前にそんなことをさせるわけにはいかない」

『これしか方法がないんでしょう』

「何も分かってない。この短期間でクリア条件を満たすなんて無茶だ。真紀と一緒に過ごす時間が長かったらできるって考えてるかもしれないが、そんなことをすれば、お前は誰かが死ぬ所を目の前で見てしまうかもしれない。俺は嫌なんだよ。助けることさえできず、ただ目の前で誰かが死ぬ場面を見せられるという嫌な経験をさせたくない」

 幼馴染の少年の思いを知った美緒は意外な言葉を口にした。

『恵一はこれまで多くの人が亡くなる所を見て来たんだよね? それで助けることができず悔しい思いをした。それでも恵一は前を向いて生きようとしている』

「何が言いたい」

『同じ経験をしたいなんて言ったら、不謹慎だけど、私は恵一の全てを受け入れたいの』

 少女の言葉に観念した恵一は、受話器越しに笑う。

「分かった。俺は矢倉君達に、椎名真紀の特殊能力を警戒して、彼女を見つけても話しかけるなと指示する。だから、お前は……」

 その時、冷たい風が吹き、恵一の髪が揺れた。

「赤城君」

 突然現れた少女に呼ばれ、恵一は立ち上がった。

「真紀」

 そこに現れたのは椎名真紀だった。一方、恵一の近くに真紀がいることを知った美緒は、持ち場を離れ、幼馴染の少年の元へ向かう。

 

 その頃、千春光彦は少し遅い昼食を食べるために、レストランの列に並んでいた。千春は隣にいる島田節子の不安そうな横顔を一瞬見た後で、後ろを振り向いた。スポーツ刈りに低身長の男、村上隆司と丸坊主にガタイの良い体型の櫻井新之助は、千春のデートに同行しているのだ。非リア充というグループに属している2人の目的はデートの妨害。この2人と千春は友達という関係だったことが災いして、4人で一緒に遊ぶことになってしまった。これはマズイのではないかと千春は一瞬思ったが、トイレに行くふりをしてスマートフォンを覗くと、着実に好感度が上がっていることが分かった。その時、彼はデートに張り付く櫻井達を気にせず、メインヒロインと接することを決める。


 2人の後ろに並ぶ櫻井と村上の存在を気にせず、再び節子の方を向くと、彼女は千春の前で本音を漏らす。

「やっぱり不安です。お姉ちゃんが倒れた原因が分からないから。病弱な私のことが気になって、ここに来てるのかもしれない。それでまた倒れたら……」

 少女の不安は現実化する。丁度その時、島田節子達が並ぶ列の近くを、虚ろな目をした島田夏海が歩いた。姉の姿を瞳に捉えた妹は思わず叫ぶ。

「お姉ちゃん」

 妹の声が耳に届いた姉は、立ち止まって妹の顔を見た。その直後、島田夏海は前触れもなく倒れた。

 その時、櫻井と村上と千春の3人は咄嗟に列から抜け出して、倒れた島田夏海の所へ駆け寄る。周りが騒然とする中、千春は彼女の脈をとる。脈拍や呼吸は異常がない。このまま医務室に運んだ方がいいと千春は考え、彼は彼女の体を担ぐ。 

 一方でいつの間にかできた野次馬の集団に道を開けるよう櫻井と村上は促した。それにより千春はスムーズに倒れた少女の体を医務室に運ぶことができた。心配になった島田節子も列を抜けて、医務室へ向かう。

 千春は島田夏海を運びながら、彼は思う。もはやデートをしている場合ではない。これでデートが中止されたら、自分は死んでしまうのだろうと。千春光彦は悲しい思いを抱えたまま、医務室に辿り着いた。


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