第2話 涙の図書館


コリスは、図書館の読み聞かせ ボランティアに 志願した


小さなこどもと お母さん向けの 金曜午後のおはなし会

ぼくは 心配で 様子を 見に行った


プレイルームに 親子15組が 集まった

みんな おひざ抱っこで 楽しみに待っている



まずは 紙芝居から はじめます


話に合わせて、そぉーっと 少しずつ めくったり

どきっとするように 勢いよく めくったり

なかなかやるね、その調子 みんな 目を輝かせてる


次は本番 さて、取り出した本は ・・・

ああ、それは !

その セレクトは  まずいな


             *


思った通り、お母さんたちが

ぽろぽろ 涙をこぼしはじめた 取り返しがつかないくらい


それを見た こどもたちも つられて ぽろぽろ くすん



選んだ本は  あまんきみこ 「ちいちゃんのかげおくり」


  影法師を じっと見つめて 十 数えるんだ

  数え終えて すぐに 空を見上げると

  影が そっくり 空に映って 見えるんだよ

  かげおくりは まるで 家族の記念写真のように 空に映りました



これは、涙なくしては 聞けないお話

ぼくが 小学校の何年生の時 だったかな

学校の宿題で 教科書の音読が出て

母さんが 泣いてしまって 中断したね


その宿題の1週間、毎回 泣いてたよね

わが子の かわいい声で 読まれたら アウトなのって

しまいには ぼくの顔を見ただけで 泣き出した



  夏のはじめの ある朝

  小さな女の子の いのちが 空にきえました


             *



気が付けば、図書館は 涙の大洪水

パトロール中の 雨雲レーダーが 上から様子を見に来た

突然の大雨を 感知して 緊急警報レベル発動



コリスは ぷかぷか 涙の波にゆられて

気が付けば はるか彼方へ 流されていった

ちいさな 背中が 大海へ漕ぎ出す 遠く 遠くへと

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