『酔えば酔うほど名探偵』
プランニングにゃろ
(一話完結・1700文字)
酔えば酔うほど強くなる「酔拳」は有名だが、酔えば酔うほど推理が冴え、どんな難事件も解決しまうのが、酩探偵(めいたんてい)アゲハである。
平波刑事「ということで、アゲハ先生。こちらが密室殺人事件の現場です。」
アゲハ「あ…えっと…、ど、どうも。お、おじゃまします…。」
岩山警部「お? キミが噂の女探偵アゲハさんかね?」
アゲハ「はい…。たぶん…。」
岩山警部「はあ? たぶん…? 平波君、どういう事だね?」
平波刑事「えーっとですね。アゲハ先生は酔えば酔うほど常人離れした推理力を発揮するのですが、次の日には全て忘れてしまうので、本人は事件を解決した事すら覚えていないのですよ…。」
岩山警部「ふーむ。俺にはどう見てもただの内気な女性にしか見えないのだが…。まあいい、さっそくこの密室殺人の謎を解いてくれたまえ。」
アゲハ「すいません…。あの…、とりあえずビールを…。」
そう言うと、アゲハは平波刑事の用意した中ジョッキの生ビールをゴクゴクと一気に飲み干した。
岩山警部「…うまそうに飲むなあ。平波君、俺にも一杯もらえないかね?」
アゲハ「警部、冗談を言っている時間はありません。早速、そちらの調査結果を共有していただきたい。判明している全ての情報を時系列でお願いします。それから、このホテルの全従業員をすぐにここに集めてください。」
岩山警部「う、うむ。なんだか急にキャリアウーマンっぽい感じになったな…。」
平波刑事「バリバリモードです。アゲハ先生はこのモードで全ての情報をインプットするのです。」
アゲハは、警察側からの情報をシャカシャカと手帳にメモった後、全ての従業員たちからテキパキと一通りの事情聴取を行った。
アゲハ「必要な情報は集まりました。では、日本酒をお願いします。」
日本酒(特級吟醸酒)の一升瓶をグビグビと飲み干すアゲハ。
岩山警部「おいおい、ちょっと飲みすぎじゃないかね? 大丈夫かね?」
アゲハ「アハハハ! 大丈夫大丈夫! プッ、警部のその頭! アハハハハハ!」
岩山警部「なあ、平波君。この女、ちょっとだけ殴ってもいいかな?」
平波刑事「まあまあ警部、落ち着いてください。これが第2形態の笑い上戸モードです。このモードで、全てのトリックを見破ることができるのです。」
アゲハ「アハハハ! 内側からかけられた鍵! 見つからない凶器! ディナーバイキングのカツオのたたき! 空白の5分間! 支配人の浮気! 被害者の元恋人! このトリック簡単すぎる! アハハハハハハハハ!」
平波刑事「さすが、アゲハ先生! もう事件のトリックを見破ったんですね!? では、次のモードにチェンジしましょう! このウイスキーをどうぞ!」
平波刑事に手渡された最高級ウイスキーを、これまた一気に飲み干すアゲハ。
アゲハの目は、だいぶ座っている。
岩山警部「おい! さすがにウイスキーを一気飲みはまずいだろう! しかも、そんな高級ウイスキー、俺だって飲んだこと無いぞ! 経費で落ちるのか?」
アゲハ「うるせーハゲ! だまって聞いてろ! あそこの毛を全部引っこ抜いて、頭に植毛すんぞコラ! ヒック…。」
岩山警部「き、貴様…! 貴様にそこまで言われる筋合いは無いぞ! おい!」
そう言って岩山警部がアゲハの肩をつかもうとした瞬間、警部の体は空中で5回転ほどして、床に叩きつけられた。
平波刑事「あああ! 警部、大丈夫ですか? からみ酒モードのアゲハ先生は、酔拳の使い手としてもSSランクなんですよー。言うの忘れてました。」
岩山警部「イテテテ…。そういう大事なことはちゃんと言ってくれ…。」
アゲハ「ヒック! いいかハゲ! それとデクノボーども! 耳の穴かっぽじって良く聞けよ! 全ての点と点がつながった! 犯人はこの中にいる!」
一同「は、犯人がこの中に!?」
アゲハ「ヒック…。そう、ずばり犯人は…!」
一同「犯人はー!?」
アゲハ「犯人は………」
バタンッ!
スピー…スピー…スピー…
直立姿勢のまま床に倒れたアゲハに起き上がる気配は、無い…。
岩山警部「平波君! このモードは!?」
平波刑事「えーっと…、これは爆睡モードですね…。残念ながら、アゲハ先生は夢の中に入ってしまわれたので、今回の事件は迷宮入りとなりました…。」
一同「えーーーー!」
『酔えば酔うほど名探偵』 プランニングにゃろ @planningNYARO
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