秋葉原狂想曲 (カクヨム版)
@shiinanona
第零章 趣都のプロロ-グ
第1話
秋葉原は、〝あきはばら〟と読むのか、それとも〝あきばはら〟と読むのか。本当はどちらでも意思疎通する上で全くと言って良い程、差支えの無い些細な事なのだけれど、そんな些細な討論を聞かなくなった今となっては、懐かしくもどこか少し寂しく感じる。
かつてこの辺一帯は、〝あきばはら〟や〝あきばがはら〟、〝あきばっぱら〟とも〝あきばのはら〟とも呼ばれていたらしい。つまり、特に定められた呼称は無かったと言うことを意味しているのだ。
けれど、〝あきば〟として知られ、〝あきば〟として存在している以上、どんな名称でも、どのような呼称であろうと構わない。秋葉原を行き交う人々にとっては、そんなことなどどうでも良いことなのだ。
秋葉原に来る人が一様にオタクと言う訳ではないが、秋葉原に対してそういったイメージを持っているのは、少なからずいるだろう。それは、アキバに対して個々が持つ造詣がそう思わせているのだ。
ただの青果市場や電気街だった頃の秋葉原とは変わり、メイド喫茶やアニメ、ゲームといった店が増え〝萌え〟の街として形成されるようになり、さらにメディアに取り上げられるようになにつれて、忽ちそれらは〝観光地〟となっていった。
誰が言い出したのかなんてことを知る由もないが、〝趣都・秋葉原〟だなんて、上手いことを言ったものだ、と感心した。ただ、そんな風に楽観的に感心するだけで済むのなら良いが、本当の秋葉原はそんな幻想的な世界とは全く違った。
確かに、趣都というのも秋葉原が見せる姿の一つであることには違いない。むしろ、それこそ多くの人が認知されている秋葉原の姿に違いないだろう。
しかし、本当の秋葉原はそんな観光地としての街なんかではない。皆に創られたその造詣に隠されて見えなくなっているだけなのだ。
これは、奇々怪々な〝趣都・秋葉原〟で繰り広げられる怪異物語である。
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