睦月からはじまって弥生

 彼女が戦っている時、ずっと後ろで見ているしか出来ないでいた。所詮は後方支援、その時はまだアマガも――各々決して折れることのない牙がなくて大量の剣や刀を使い捨てにしていた。彼女、サラの纏う炎に刃は5分と持たなかった。大量の剣や刀を戦場で持ち歩き彼女の合図でそれを渡した、何本か駄目になるうちに”敵”は倒れた。

 本当は彼女の直接の力になりたかった。一緒に戦うことこそが力だと。




 白昼夢、それは夢の断片なのか、一瞬にして脳にその夢の記憶の情報が反芻された。いつ見たのか、今見ていたのか、よく覚えていないけどそうであったという情報、偽りの、幻の。

 本当ならどれほどよかったことか、でも現実はただ痛い体に鞭打ちながら必死で爆心地まで急ぐ気狂いな青年でしかない。

 空気が小さく震えたかと思うと心臓を直接締め付けられたかのような不快な金切り声が世界を反響し包んだ。

 世界は赤かった、その異形の声に反応するように染まり僕を見ている。汗が滲み、息があがってきた。しかし恐怖は感じなかった、眠って起きたらそこは違う世界、ただそれだけ、必ず”敵”のいる場所にいかなければいけない。

 並木道、大きな道路、車はまばらで対向車ばかり。けたたましく警戒警報音があたりを木霊している。

 響く怒声と悲鳴、逃げる人ばかりで僕以外そこに向かう人はいない。途中何人かに声をかけられた。「おいそっちはやめておけ」だの「どこへいく」そんなことを言われたがただひたすら痛む足を引きずりながら歩みを進めた。

 そこは背の低い建物の群の中にあった。空気が埃っぽく、粉塵の匂い、瓦礫の匂い、靄の中を巨大な何かがうごめいていた。着地の衝撃により建物は放射状になぎ倒され中心ほど沈んでいる。もう既に「イザナキ」とサラが呼んでいた、あの男の姿があった。サラの姿を探したがここには自分と彼以外人の気配はない。”敵”は建物よりも大きい、人の身の丈の十数倍はある大きさだった。この”敵”も人型で手となる部分は鎌状になっており、体も足も細かったが顔だけが三角の檻をかぶった様な形をしていた。

 彼は一人で戦っていた。

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