biography of PAINRAINS

ソウナ

第1話

 朝目覚めたとき、少年の身体には、不思議な力がみなぎっていた。

そんな突拍子もない冒頭から、始まる物語があるとしたら、君達は聞いてくれるだろうか。


 長い長い夢を見た。


 そこで僕は、6番目の街の20番地にある映画館にいた。

 劇場には僕一人だけが居て、スライドは僕の過去を淡々と映し出していった。始めは、ノスタルジーだった。けれどそれはだんだんと、違和感に変わっていく。

 悩んで、考えて、苦しんで、楽しんで、僕はここにいる。普通な人間のように時々狂い、狂ってしまいそうなくらいの普通を生きていた。

 いつしかその少年のこぶしは難く握られていた。いままで無音だった映画館に、突然流れ出す音楽。そのギターの残響音で、スライドは軋み、画面が乱れていく。

「そうだ、ロックンロールをしよう。」

 朝目覚めたとき、少年の身体には、不思議な力がみなぎっていた。

 長い長い夢から覚めて、少年の目はいつになく醒めていた。僕には、今すぐしなければならないことがある。

 少年は楽器を何一つ弾けなかった。少年は歌がうまく歌えなかった。それでも、ロックンロールは手を広げて、少年を待っていた。少なくとも僕にはそう見えた。

 黙々と何かを書き殴り始めた少年の目に、迷いはない。ロックンロールの予感が、確かにそこにはあった。


♪♪♪♪


バンドメンバー募集


現メンバー

俺(Vo/G)


募集対象楽器

ギター

ベース

ドラム

でかい音が出そうなもの


好きな音楽

道を踏み外したROCK


今のところ俺が弾ける楽器は、リコーダー。単音で「喜びの歌」がふける。(Vo/G)は、ただなんとなく格好いいと思ったから書いてみた。意味は特にない。ちなみに、リーダーは俺。それは決定事項。


ヘロヘロな声なのに、バキバキなROCKサウンドを泳ぐホビー・ギレスピー。演奏はぐだぐだなのに、なんだか愛着がわくバーナード・サムナー。そして、一番でかい音が出そうだからと、ベースが弾けないのにベース持ってたシド・ビシャス。その辺りになりたいなと思ってる。


とりあえず、気になったら下の連絡先にメールをくれ。


○○○×××△△△@softbank.ne.jp


♪♪♪♪


 15分で書き終わった汚い字の張り紙。それを彼は、セロハンテープでそこらじゅうに貼りまくった。コンビニの壁、駅のホーム、大学の教室、女子更衣室。そこらじゅうに貼りまくった。

 コンビニでコピーした100枚。その全てを貼り終えると、缶コーヒーを買う。不思議な充足感と満足感が、胸の辺りを撫でていく。

「さあ、ロックの時間が始まるぜ」

 深夜のコンビニ、休憩スペースに一人。でかい声で独り言を吐き出した少年は、死んだように眠ってしまったのだった。

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