「泉ののろい」その4

「そこまでだわね」


 途方に暮れたような瞳で王がそちらを見返す。 


 アンジュ王妃の声だった。



「あなた、私の王。いつも私が一緒ですと申し上げたのを、もう、お忘れなの?」



「アンジュ、少しばかり見ない間にまた一段と美しく映えるね」



「私が美しいのは他のだれでもなく、あなたへの愛ゆえですわ」



 王子は感涙にむせんでいる。



 彼は愛する父王と母、両方を取り戻したのだった。


 アレキサンドラはふと、密やかに大蛇に語りかける。



「ところで、マグヌス殿、勢いであなたまで切ってしまったけれど、間違いだったのだろうか」



 マグヌスは弱々しく首を振った。


 間違ってはいない、と。



「私の血が、王の解呪に必要だった。これで良いのだ乙女よ」



 息も絶え絶えの様子に、彼女は勢い込んで、その大蛇の姿に臆することなくマグヌスに迫った。



「あなたの呪いはどうしたら……ボクにできることなら言ってください。きっと、きっとお助け致しますから」



後日談。


 後で教会で告解を聞いた神官は気絶した。


 その告白は、まやかしであると彼は言った。


 だが、相手は花乙女のアレキサンドラ。


 微に入り細に入り切々と訴えるのだ。



「蛇の姿を両断すればマグヌス殿が現れると思っていたのです。だが、おかげでこの国の真の名宰相殿を失ってしまうところだった」


 と……。


「宰相様が恐ろしい大蛇(おろち)だったなどと、思いもせず……」


 しばらく神官は人前に姿を現さなかった。


 粗末で質素な部屋で神に祈りでもしていたのだろう。

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