この装備は呪われている!この装備は生きている。

シナミカナ

笑う二本の刀

埃が舞う暗い不衛生な酒場で何時ものように酔っぱらいが大声で叫んでいる。

ビールを飲んでは何度も繰り返し今まで出会った大物の魔物をいかにして殺したかと言う武勇伝ばかり語っている。

東の山の頂上にいた魔王の幹部を瀕死にして崖から突き落としたやら、西にいたドラゴンを焼き鳥にして食ったやら胡散臭い話ばかりだ。

話をツマミにビールをあおって、客のこっちからすれば迷惑だが店主からすればうるさいカモだろう。


酔っぱらいがひとしきり喋ってようやく静かになった。

俺と二人の酔っぱらい以外は客が居なくなっていた。

カウンターでチビチビと飲んでいる俺もそろそろ出ようかと最後にグラスを傾けたとき、


「おい、兄ちゃん」


左後ろから声が聞こえる。あの酔っぱらいの声だ。

普段ならとぼけながら無視して飲みたいところだが回りに兄ちゃんは俺ぐらいしかいない。

おい、と苛立ちながら発する男に椅子に座ったまま体を向ける。

男は俺の二倍はありそうな背丈と岩のようにくっついている筋肉と背中には大斧を背負っていた。

装備は全体的に使い込まれており、顔にも傷痕が走っている。

さっきの話しも真実味が増した。


しばらくの間、黙って対峙する。


「そんなに長い剣を二本も腰に差して邪魔なんだよ。」


「邪魔?ここはあんたが10人は寝転べられるほど広いじゃないか。それにこれは直刀だ。」


「いい加減にしないとブチ殺すぞ。」


呂律が回っていない男が大斧に手を伸ばすと同時にさっきから隅っこにいた店主がとうとう引っ込んだ。

わざと大きめの溜め息をつく、どう説明したって酔っぱらいには無駄だし体で分かってもらうしかない。

この直刀の長さだってたったの1.5mと1.3mじゃないか。


「じゃあ、やるよ。」


「は?」


「そんなに邪魔ならこの直刀を鞘から引き抜けたらやるって言ってるんだよ。でもちょっと堅いから難しいかな?」


男は不適に微笑みながら大斧から手を離した。


「それじゃあ、頂くぜ。」


両手を俺の左右の腰に差している直刀に伸ばし向かい合わせになりながら睨み合う。

どす黒い皮が巻かれた柄を見ると一瞬だけ躊躇し、掴んだ。


「おいボース、兄ちゃんがビビって小便漏らしちまうぜ!」


さっきまで男と一緒にいた仲間が茶化す。

テーブルで笑いながら酒をあおりジョッキを一杯飲み干すとようやく異状に気付いた。


「おいボース、何やってんだ?」


手を伸ばした男は俯いたままフラフラと揺れる。

何度も繰り返し揺れた後でついには倒れた。


「ボース!」


仲間の男が駆け寄る。

期待したがまた駄目だったようだ。

酔っぱらいの男は干からびて全身が真っ白になりとても生きているようには見えないがタフなだけあって息はしているようだ。


「お前、何をしたんだ!?」


「なにもしちゃいないさ。ただちょいとこの直刀が呪われていて抜くのに寿命が1年は持っていかれるほど疲れるってだけさ。」

「あぁ、二本同時だから2年は縮まったね。」


男の手から握り続けている刀を取り上げ慎重に鞘に戻す。

カウンターから立ち上がり金貨を一枚づつテーブルと倒れている男に放る。


「旨いもんと水を飲めばとりあえず回復する。その男もホラ話も大概にした方がいいぜ。」


出口の扉を押し開ける。

二本の直刀が笑うようにカタカタと震えた。

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この装備は呪われている!この装備は生きている。 シナミカナ @Shinami

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