第20話 お花の恋

お花は、土間の隅の流しの前に立っていた。洗い物でもしているらしく水の使う音がする。

「お花、また掃除してるの?」

戸口からお静が声をかけた。

「お静さん」

お静の後ろにはみねもいた。

みねは川沿いにある茶屋で手伝いを行っているが、今日は休みである。

「お花ちゃん、これでいい?」

みねは、手に風呂敷包みをお花に渡した。中には頼邑の茶器などが入っている。

お花は毎日、頼邑の部屋を掃除していた。

「ありがとう」

お花の顔には笑みはなかった。

思い詰めたような顔をしてうつむいている。みねは何と言ってなぐさめていいのか分からなかった。

「お花」

お静が声をかけた。

「頼邑さまは、きっと戻ってくる。強いお方なんだもの」

「…………」

お花は、うつむいたまま凝としていた。体が震え、肩先が息とともに上下している。

「伊助たちも手伝ってくれるから。ああいう馬鹿でもいざとなったらやるから。信じて待ちな」

お静は、笑みを浮かべた顔をお花にむけた。

すると、お花はしぼりだすような声で、

「わ、わたし…、頼邑さまに聞かれたんです」

覡の話をしたときの様子を話し出した。

「わたしがあんなこと言わなければ、頼邑さまは不死の森に行かなかった。わたしのせいなの」

お花は衝き上げてきた感情を押さえるように小声で言った。

「うん、たとえそうであっても頼邑さまは自分で決めて行った。お花のせいでも頼邑さまのせいでもない」

お静は、首を横に振った。

お花の眼から涙が溢れて頬をつたった。お花はうつむいて、涙を指先でぬぐっている。その仕草はまだ少女のようであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る