第18話 偽りの慈悲
夜気が青く澄んで少女を照らしている。
少女は玉藻に頼邑を任せてひとり、森の中を歩いていた。しおれている花を目にしたので、手をかざすと花に命が吹き込まれたかのように開花していく。
しばらく歩いていると池が見えたので少女は、立ち止まり貫頭衣を脱いだ。首筋や胸元の白い肌が月光ではっきりと浮かび上がる。胸のふくらみや腰のくびれが少女というより、女といった方がいい色香が漂う。
ゆっくりと浸かると、より水が澄んでいく。森の中に青白い月光が射し込んでいる。少女は、水面に伸びた淡い青磁色の月明かりに目を落とした。
玉藻も呻き声を漏らし、額に汗を浮かばせる頼邑に眼を落としている。
いっときは、静かに寝ていた頼邑が呻き声を上げ始めたのだ。痛みで体が、握りしめた小魚のように震えていた。
……やれやれ、真に人間とは、弱き生き物よ。
玉藻がため息をついたとき、少女が戻ってきた。玉藻のそばに来たとき、うなされている頼邑を見て怪訝な顔をした。
「おまえ、何をした」
と、目をつり上げ、威嚇するように言った。
「知らん。勝手に苦し始めたんだ」
「本当か……」
少女は、すぐに疑いを解いたようだ。
この人間をこのまま見捨てておくにはいかなかった。放っておいたら、息耐える前に、獣に食い殺されかねない。
頼邑は蒼ざめた顔で身を震わせている。
「連れて行こう」
少女は、頼邑の肩に腕をまわし、身を起こそうとしたが、重みで少女の膝がかたむいてしまった。脱力した男の人間を運ぶなど無理である。
少女は背後にいる玉藻を振り返った。玉藻は少女が何を言いたいのか分かっているので、むくりと立ち上がり、背を向ける。少女は、頼邑を玉藻にのせて、住み家へと向かって行った。
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