春が遙か

赤狐

 Ⅰ 二人の子供  



「ハルガ、今日はなにをしてあそぶの?」


 タカヒロは、目を輝かせて訊いた。

「そうだなあ……」

 ハルガは、地面に目を落とした。

「一昨日の雨で濡れた地面もやっと乾いたし、今日は鬼ごっこでもしようか」

「おにごっこ? ハルガと会った日にやった、タッチするあそび?」

「そうだ、よく覚えていたなタカヒロは。えらいえらい」

 タカヒロは、ハルガが手を差し出したのを見て、目を閉じた。よしよしと撫でられる頭。

「じゃあ、おれがおにをやる!」

「ダメだ。タカヒロはまだルールを覚えてないだろ? タカヒロがルールを覚えたら、鬼をやらせてあげる。だから今日は、私が鬼ね」

「ちぇー」

 タカヒロは口を尖らせたが、すぐに笑顔に戻った。

「じゃあ、おれ、にげるからね!」

「あ、タカヒロ、この原っぱの外に出たらダメだからな。中だけだぞ!」

「ハーイ!」

 タカヒロの返事が大きかったせいか、空き地の前を通りかかったビニール袋を下げたおばさんが、驚いたように振り向いた。


「あらあら、小さい子は元気がよくていいわねえ。“一人なのに”、あんなに楽しそうにはしゃいじゃって」




 薄く沈んだ曇り空の下。

 桜の木が咲く、小さな原っぱの中央で。

 戯れる、二人の子供の姿。

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