神経薄弱者の小劇

何もないひたすらに白い小部屋。その中心に一人の男が座っている。

中心は突出してテーブルのようになっており、その手前の小さな突出部分に、男は座っている。

黙々とテーブルに向って眼を描く男。


男 「おまへがわたしをのぞひてゐる!」

と、男は叫ぶ。男は尚も眼を描き続ける。


男 「おまへがわたしをのぞひてゐる!」

すくと立ち上がり自分の眼球を指でつまみ、ほじくりだそうとする。


男 「アア、視られていては恐ひ 視られていては恐ひ」

眼球を取り出し、床に投げ捨てる。


男 「アア、此れで平穏である」

床に落ちた眼球からは虫の足が生え、蜘蛛のような生物になる。

蜘蛛は両耳から男を鬩ぎたてる。


蜘蛛 甲「おまへがわたしをのぞひてゐる!」

蜘蛛 乙「おまへがわたしをのぞひてゐる!」


男、両耳を押さえ

男 「アア、アア! 視られていては恐ひ 視られていては恐ひ」

    男、両の耳を引きちぎり床に投げ捨てる。


男 「アア、此れで平穏である」

    床に落ちた両耳はお互いに寄り添い、羽根となり男の周りを飛び回る。

    蜘蛛は尚も男の顔面に這い、耳と共に叫ぶ。


蜘蛛 甲「おまへがわたしをのぞひてゐる!」

蜘蛛 乙「おまへがわたしをのぞひてゐる!」

耳 鳥 「おまへがわたしをのぞひてゐる!」

    男は首元を激しくかきむしる。


男 「アア、アア、アア! 視られてゐては恐ひ 視られてゐては恐ひ」

    男は両の手で頭を半分に割る。脳をむんずと掴むと、床へ投げ捨てる。

    男の脳漿からは人間の唇のような、ラッパのようなきのこが無数に生え、口々に喋りだす。蜘蛛と耳もそれに続く。


らっぱきのこ「アア、此れで平穏である!」

蜘蛛甲乙と耳鳥「アア、此れで平穏である!」

    男はテーブルに突っ伏して死んでいる。


終幕

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る