第100話 剣に爆弾を
7月1日、2日とB級コーチ講習会に出た。2日は朝のうちに都議会議員選挙の投票を済ませておいた。
昔の俺は、どちらかといえば国粋主義者だった。いわゆる右翼側だ。
アメリカでは日本のように日本人だらけではなく、実に多様な民族の人々と接することになった。同僚となった選手の出身国も様々で、刺激的な共同生活を送った。ビリヤードをした。賭けトランプをした。女の子にちょっかいを出した。恋をした。
そうして少しずつ英語を理解していくと、嫌なことに気づかされた。
彼らは。特に白人は、俺を見下している。
体の芯に、小さい火が灯った。
日本人が作ったサイトを回った。日本のテクノロジーや文化を外国人がすげえすげえと絶賛するコメントを日本語訳しているサイトだ。
元気が出た。いい気分になった。
でもあるとき、気がついた。
これ、日本を
アホくさ。
俺が初めて見た世界地図は日本が中心に描かれていた。
でもヨーロッパの人々は日本を東の、最果ての国だと言った。
欧米の人間は黄色人種を潜在的あるいは意識的に蔑視している。
なら。
俺はそいつらを淡々とテニスで叩きのめした。
日本人として?
関係ない。
でも、スポーツを観戦するときはやはり日本を応援する。してしまう。それはやはり俺が日本に生まれてきたからなのだろう。
俺は愛国者かい? でも日本を実際以上に美化したくはないけどね。
日本維新の会、橋下徹とか言う政治家が
ホモって悪ですか?
家に帰るとなぜかフランがいた。
「前みたいに走れるようになるか判らないって」
「お前はまだ若い。まだ中三だろ。回復するよ」
フランは俺を抱き枕かなんかだと思っているらしい。仕方ないのでクーラーを強めにする。
「ねえ『フラン、愛してる』って言って」
「嫌だ」
「嘘でもいいから」
フランの目が、あなたのせいなんだから少しは罪滅ぼししなさいよ、と言っている。そして得体の知れない恐怖が這い上がってきて、寒気を感じた。
「お前さ、言いたいことあるんなら言葉にしてくれ」
「大体してると思うけど」
フランは首をかしげる。
「このままじゃクビになっちゃう。お母さんにお金送らなきゃいけないのに」
「父親は?」
「行方不明。失踪しちゃった」
フランは大きく息を吸い込んだ。
しまったな。こんなこと、言うつもりじゃなかったのに。重い女だと思われちゃう。
7月3日。
「剣さん、オランダからメールが来てますよ」
オランダ?
おっさんAのPCを見る。
Dear 剣,
憶えていらっしゃるかしら。以前、ヴァッフェU-18と練習試合をさせていただいた不労人間の高等遊民よ。
今日、堂安律選手が不労人間に移籍、入団会見したわ。こんなところに移籍してくるなんて、案外世界も狭いものね。
そうそう! 六月になでしこがオランダ遠征に来たのだけれど、わたしにも一声掛けてくだすったの。観ているから、頑張っていれば呼ぶかもしれない。期待しているって。
わたし、今年でサッカー引退しようと考えていたけれど、続けようと思うわ。今度東京に帰ったとき、あなたに会いに行く。そのときはつれない態度はしないでね。お願いよ?
Keep smiling!
Your 高等遊民,
笑えと言われてもおかずがなけりゃ笑えない。
胸にククリがにょきりと生えてくる。
奴にはそんなに面白いものが見えているんだろうか。いつもニコニコしている。幸せな奴だ。
日本代表U-19は藤枝明誠高校と練習試合をして1-1という結果に終わった。
大したものだ。男子とそれだけ戦えるとは正直、ちょっと驚かされた。フランはやはり招集されず、なでしこリーグを優先している。
刀は合宿の中、対戦経験のある選手と再会した。その中にはトライアングル、カスタネット、ブブゼラ、
この世代、期待できるかもしれない。
一軍の練習に出た後、俺の教え子達はU-18の練習場に顔を出して練習を続けた。
「向こうの方が設備は立派でピッチも整備されてるけど……」
ククリは苦笑いする。
「ぶっちゃけ、こっちのが落ち着くっていうか」
カットラスは帰りかけていたスタッフを捕まえて
手裏剣は、一人、剣の前にやってきた。
「
「お前とは一回飯を食った」
剣は歩き出す。
「結構、前だよね。またどっか行きたい」
「無理。遠征の日だぞ?」
「夜、ちょっとでいいからさ。二人きりで、話したい」
「俺はお前らの
「じゃあ、アタシなら大丈夫ってことだな」
俺はため息をついた。
間髪を入れず現れたのは鎖鎌だ。
「最近さ、おかしいんだよ。みんな君の話してんの。
なんかさ、君を誰が射止めるかの競争みたいになんてんだよな。目の色変えちゃってさ。変な熱病にでも浮かされたみたい。みんな負けず嫌いだから」
そういう種類の人間じゃなければスポーツなんてやってけないからな。
「賞金首にでもされた気分だ」
「悪いけど、アタシも参加させて貰う」
「……。お前にはそんな感情はあるのか?」
「ないけどある。君を誘惑してアタシにメロメロにする」
「彼氏は今まで
「ない」
15歳の鎖鎌はまっすぐな目で俺を見つめる。
「ご遠慮願えませんか?」
「今までアタシが控えばかりだったのはアタシの魅力を伝えきれていなかったからだ。日曜の夜、君をアタシに夢中にさせる」
ちょっと待ってくれ。なんかデジャヴってる。
そうだ。
去年遊んだときメモ
なら手裏剣をほっといたら爆弾が爆発するのか?
てゆっかコナミさん、ときメモ
何が悲しくて男とデートをする度に女物の服をセレクトせにゃならんのだ。
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