第80話 日本代表論 ②

 四月三日。ヴァッフェ+フランは俺に話をせがんできたので仕方なくPCをつなぐ。フランはなでしこでデビューを飾り、二試合目には先発出場。初ゴールを決めていた。ひととおり祝福が済んだところで俺は口を開いた。


「まず驚いたのは日本代表に乾が呼ばれなかったことだ。ハイレベルなリーガであれだけやっているのに」

「スペインは日本人にとって適応が難しい。すごいことですね」

 フランも同意した。

「エイバルというスモールクラブだということが幸いした、ということはあるかもしれない。大きなクラブのように気取った選手は少ないだろう。


 乾に何が足りないのかハリルに尋ねてみたいところだ。だがスペイン国王夫妻の来日にあわせて安倍首相が主催する歓迎会には呼ばれるらしい。このため乾は昨日初得点を決めこれからって時に二試合欠場。乾の代わりに出た選手が活躍したら乾はベンチに戻るかもしれない。


 フットボーラーが日々どれだけ厳しい争いをしているか少しでいいから考えてほしかった。リーガで試合に出続ける価値を外務省はまったく理解しておらず、マスコミが問い合わせると誰が招待したか不明だと責任回避。

 まったくひどい話だ。


 さて、UAE戦だがまずは川島のスタメン復帰におめでとうだったな。日本のGK、CBのレベルは低い。理由は単純に日本人が背が低いからだ。海外で通用する選手は余りに少ない。


 その点で、吉田が如何いかに貴重か。堂々とプレミアでレギュラーを張っている。疑いようがなく日本サッカー史上最高のCBだ。UAE戦ではほぼノーミスで風格を感じた。川島は存在感があり、やはり日本レベルでは突出した能力を持っていることを再確認させた。味方の凡ミスを叱りつけていたが、あれが西川にはできない。そもそもホームUAE戦で負けたのも西川が凡庸なFKを止められなかったからだ。もう川島の能力を疑うものはごく少数だろう。それだけ、海外のGKのレベルが高いということだ。Jでも韓国GKを獲るクラブが増えてきた。

 

 そして久保の急成長だ。今まで日本は右サイドが穴だったが久保の台頭により解消されたと言っていい。ベルギーは多言語・多民族・多文化国家で、アジア人にも寛容だ。近年、トップレベルの選手を続々と生み出しておりコーチも優秀。ベルギーのクラブもJに熱視線を送るだろうから移籍を持ちかけられたら迷わず行くべきだ。挑戦してほしいのは齋藤学だな。


 ただ、久保が劣勢の試合で何ができるかは未知数だ。線が細いので当たり負けしない体作りを望む。WGウィングは相手SBのドリブルに対してディレイ時間稼ぎだけで済ますわけにはいかない。タックルができないWGは大きな穴になる。


 UAE戦、俺はもっと厳しい試合になると予想していた。中東アウェーだからだ。ところが今回、恒例のハンデが日本に課されなかった。


 審判のジャッジがまともだったのだ。


 かつて日本は中東の試合で信じられないようなジャッジでファールを取られたりカードを出されたりした。これを中東の笛と呼んだ。

 

 が、この試合では極めて公正だった。

 思えば昨今のACLアジアチャンピオンズリーグでも不可解な判定は減っている。AFCの努力が実りつつあるのだろう。だとすれば今後日本はより容易にW杯予選を戦える。拍子抜けするぐらいにね。地力では日本は低レベルのアジアW杯予選など突破して当然の戦力を有している。UAEの戦術レベルは呆れるほど低かった。


 この試合、相手に作られた決定機を外してくれたのも大きな勝因だ。マブフートと川島の1対1はマブフートにコースを狙う精神的余裕がなかったことが幸いした。アルハンマディのボレーシュートはダイビングヘッドだったら確実にゴールだったろう。

 

 芝は綺麗に刈り揃えられており日本のパスワークは妨げられなかった。観客はサッカーに興味がないようでまるで威圧する様子がない。チャンスになると多少騒いでおしまいだ。


 今野は中盤で攻守に無双だった。高い位置で相手に食いつくものだからUAEの攻撃は寸断され機能不全に陥った。データを見ても多くの項目で1位。高い知性を証明した。


 タイを日本ホームに迎えて。まともにやれば負けようがない相手だ。日本のメンバーを総入れ替えしても勝てるはずだ。


 こういう試合で躍動するのは誰か。料理人の香川だ。先取点は香川の真骨頂だった。技巧を発揮してDFを手玉に取る。香川の代表でのベストゴールだろう。

 本田は二試合ともサイドで起用された。適性が違う」

 

 モーニングスターが口を開く。

「代表で岡崎と香川の連携がうまくいってないように見える。何か理由はないだろうか」

 

「タイ戦、二人とも点を取った。しかし確かに二人の有機的な連携は今まで見たことがない。理由は簡単で、キャラがかぶっているからだ。二人とも本質的にはシャドウストライカーだ。味方が作ってくれたスペースに飛び込みディフェンスの穴を衝いてゴールを奪う。二人はゴールを奪うために空けておいたスペースを奪い合って渋滞するパターンが頻繁に見られた。ザックJapanでは両サイドに配されたため、そのようなシーンはほとんどなかった。タイ戦ではよくなったがうまく整理されたのかまだ判らない。


 サッカーを語るときに時折、化学反応ケミストリーという言葉が使われる。化学同様この現象は様々な結びつきで起こる。しかしシャドウとシャドウでは化学反応は起きにくい。


 シャドウと相性がいいのはポストプレイヤーだ。やはり大迫か本田がCFにいてくれた方がいい。スピードスターとパサーでも化学反応は起きる。DFラインの裏にスルーパスを通すのは基本。パサーとパサーでもチキタカのリズムが生まれる。ペアだけでなくバルサのようにチーム全体がパスワークのイメージを共有することでも更に相乗効果がある。


 ディフェンスでもある。ストッパーがタックルに行き、スイーパーがその裏をカバーリングする。チームの半分がプレッシング、半分がリトリートしていたら守備は隙だらけだ。有機化学はパズルだと言われるがサッカーも似たようなものだ。効果的な組み合わせ、相手チームとの兼ね合いを考えて戦術を編む」


「2026年W杯が出場枠拡大でアジア枠は8国になるという報道がある」

 ランスがコメント。 

「W杯予選はぬるま湯になる。テレ朝の『絶対に負けられない戦い』は嘘になる。『たまに負けてもいいし、負けようがない戦い』だな。代表にとって率直に言えば無為な時間だ。真剣勝負の場はアジア杯ぐらい。

 アジア全体のレベルアップを期待するしかない。


 日本は対アジアならカウンターを採用しようがポゼッションだろうが勝たなければならない。問題はこの先。FIFAランク30位以上の国に今の日本が指向するリトリートが通用するかだ。殴られ続けても決壊せずに耐えられるか。ハリルの真価が問われる」



 後記

  この頃は久保に期待していました・・・齋藤学は怪我が痛かったなあ

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