第5話 菜の花畑の少女

 あれは確か5年前のことである。

 当時私は小学校の教師をしていた。しかしその小学校は小さな田舎にあったので、生徒の人数は少なかった。私が担任を受け持ったクラスにはわずか8人しか生徒がいなかった。


 ある日、私は授業の一環として生徒達と共に春のお花探しに出掛けた。その時、私たちの目に留まったのは向こう一面に咲き誇る菜の花畑だった。あまりの美しさに皆歓声を上げていた。

「ねぇ、せんせい。あのおねぇちゃんはあそこでなにをやってるのかな?」

 すると、菜の花畑を見ていた生徒が私に妙なことを聞いてきた。

 私は生徒が指差す方を見てみるが、そこには誰もいない。

「あのおねぇちゃん、なんだかとてもかなしそうなかおしてるよ」

 さらには菜の花畑を見ていた他の生徒も妙なことを言い出し始める。

 私は菜の花畑を見てみるが、やはりそこには誰もいなかった。

「あっ、おねぇちゃんがこっちにきてだって」

 そう言うやいなや一人の女子生徒が菜の花畑の中へ入っていった。私は他の生徒達にここで待っているよう伝えると、急いでその子を追いかけた。


 女子生徒は菜の花畑の中心辺りまで来るとそこで立ち止まった。すると突然地面を手で掘り始めた。女子生徒の奇妙な行動に戸惑いながらも何をしているのか尋ねてみた。すると、女子生徒は何かをブツブツと呟き始めた。

「苦しい、息ができない、苦しい、息ができない、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい――」

 私は全身から血の気が引いた。その声は私が知っている女子生徒の声とまるで別人だったからだ。女子生徒は尚も、壊れた機械のように繰り返し呟いている。

「苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、息ができない、苦しい――」

 その時、地面の中に何かが見えた。女子生徒はさらに掘り進める。それはだんだん地面から掘り出され――ギャッ!私は思わず悲鳴を上げてしまった。


 地面から現れたもの。それは――腐った人間の死体だった。


 その死体は、以前よりこの田舎で行方不明になっていた少女の成れの果てだった。

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