前に進めば痛くない!
梧桐 彰
第1話 プロローグ
強烈な衝撃が全身に走った。
一瞬だった。それまで海が見えていたのに、今は空が見えている。遅れて先輩の顔が視界に割り込んできた。制服の時は冗談ばかり言ってるくせに、今は真剣な目で私の腕をがっちりかかえている。
ぐらぐらとゆれる感覚が消えて、意識が戻ってきた。焦げるように熱い世界。ここは沖縄。やっているのは女子高生同士の全力の取っ組み合い。背中を削るのは宝石のように白い砂。鋭い光の降りる灼熱の海岸。
私は先輩のタックルを食らって仰向けに投げ飛ばされていた。自分の長い後ろ髪が広がっているのを感じた。
「甘いよ。油断したかな?」
先輩が鋭く言った。私は答えない。まだ手はあるからだ。
仰向けにひっくり返ったまま、自分の両脚を先輩の胴体に巻き付けて組み合わせた。この姿勢はガードポジションという。こうやって胴を締めていれば相手の絞め技や関節技を食らう可能性は少ない。逆にこちらは足で首を極める三角締めや、腕に両手足を絡めて伸ばす十字固めを狙うこともできる。
「いいね。じゃ、いくよ」
先輩は、私の太股を肘でぎりぎりと圧迫して、同時に膝を巧みに使って組んだ両脚をこじ開けにかかってきた。鈍い痛みが肉の内側を走る。狙われているのはマウントポジション、つまり私の腹に馬乗りになることだ。波しぶきが顔をかすめたとき、先輩が動いた。上に行かせまいと、もう一度体を起こす。苦しい。暑い。けれどこの大地が、私に休むことを許さない。
なぜ女子高生が、なぜ沖縄で、なぜ全力で取っ組み合っているのか。
事の発端は、約半年前にさかのぼる。
私は
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