015 先日お会いした、あれ。わたしです
わたしを見るとき、あなたは決まって、これは自分だと思っている。みんなそうだって? いいえ。そんなことはありませんよ。あなただけってわけでもありませんが……。
こんな風に書くとまるで、あなたは単純だって言っているように受け取られてしまうかもしれませんね。でもそうじゃないんです。単純なほど、自分じゃないと思う。自分のことだと思えるのは、高度な知性を持っているという証なんですから、どうぞ胸を張ってください。
わたしと向き合うと、どうも恥ずかしくて目をそらしてしまう、なんて人もいれば、まじまじと、食い入るように見つめる人もいます。そんなに近づいて見つめなくなって……と思うこともあったんですが、最近ある可能性に気づきました。あの人はただの近視だったんじゃないかなあって。
横目で見る人もいます。ちらっと。そういうときって、わたしはだいたい他の景色にまぎれてたりするんですけど。
そういえば先日、エスカレーターに乗っていたでしょう? あれ、あなたじゃないですか? わたし、たぶんその場にいたと思います。ご存じない? 忘れてるだけじゃないですか? 違う?
じゃあ、エレベーター。乗っていたでしょ? はい。そりゃ外出すればエスカレーターやエレベーターくらい乗りますよね。おどかしてるつもりは、まったくないんです。すいません。
ただ、お会いしましたよね、って話で。
わたし、ときどき鞄の中も見させてもらったりするんですけど。不可抗力ですよ。自分でそうしようと思ってしているわけじゃなくて、そうなっちゃうんです。自然の力です。
自然の力といえば、太陽の光って見たことありますか? わたしはあります。たまーに、わたしの方を迷惑そうに目を細めてにらむ人もいました。あれ、まるでわたしが諸悪の元凶みたいに言われたりしますけど、言い訳させてもらうと、相手のいる場所のせいです。
やっぱり半分くらいは、わたしのせいですね、ごめんなさい。わざとじゃないんです。
でもほら、わたし偉いんですよ。みんなが頭を下げにきますから。知ってました? ところ変われば、って感じです。年季入ってますからね。妖怪扱いされたり、神様扱いされたり、人によって様々です。
ただ、性別だけなら女性の方が圧倒的にわたしに興味を持ってくれるみたいで。女性がお化粧して、顔が変化していく過程って面白いですよね。何度見ても飽きません。そんなに見てるの? って話ですが、どれくらい見たかなんて覚えてないですねぇ……。回数を数えているわけじゃないですし。
う~ん、わたしって何なのでしょう?
おや、あなたはもしかして、途中で気づきました?
わたしが『 』だって。漢字で一文字。ひらがなで三文字。英語なら六文字ですよ。それでは、わたしが何なのか、はりきって答えをどうぞ。
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