第4話 不良 小室晴人1
天気は雨だが心は晴れ、小室晴人です。
現在五時間目が始まってます。だがしかし、俺のいる場所は保健室。病気ではありません。絶賛授業サボり中です。
心が晴れているのは大ファンの双葉ちゃんに会ったから。それも偶然、プライベートだよ。もう、うっきうきだよ。
おっと、なんということだ。数秒でこのうきうきの気分が損ねられてしまう。
「勝手に授業、休むんじゃな〜い」
保健室の扉を勢いよく開けたのは久保菜々子。
ソファで寝っ転がる俺に向かってダッシュして腹にジャンピングエルボーをする。
悶絶する俺のネクタイを引っ張って行く。
失礼しました、と言いそのまま俺を引きずる菜々子。
どこに連れて行かれるのかと思へば到着したのはトイレだった。今、男子と女子が一人ずついる。男女兼用のトイレなど高校にあるわけがない。そうすれば入る方は決まったも同然だ。引っ張られる俺は無抵抗に菜々子の性別である女子トイレに入ることとなる。
幸いなのが今が授業中だということだ。当分は誰も入ってこないだろう。
「そこで正座してなさい」
菜々子が指差すのは洗面台の前。言われた通りするしかない。そんな差が生まれているのだ。同い年なのに。
「もうこれで三人目よ」
何が、とは言えない。そんなことを言えばエルボーだけでは済まされない。
「分かっている。お前はどうしたい?」
「やられたらやり返す。それが私たちの世界でしょ」
言葉の端々に怒りが現れている。
「やっぱそれしかないか。いいよ、集会を開く。連絡お願いね」
「OK」
菜々子はスマートフォンを取り出し、誰かに電話を掛ける。
「いつ開く?」
スマートフォンを耳に当て、聞いてくる。
「明日の午前十時」
「了解」
晴人はその場から去り、教室に戻り、鞄を持ち、学校からも去る。
教室を出るとき先生からまたか、と言われた後、悪態をつかれた。
学校から歩いて十五分のところにある、昨日双葉に会ったショッピングモールに行く。
現在雨が止んだというのに超絶苛々している。今日の心はジェットコースターだ。プライベートは充実しているのにもう一つの世界は滅茶苦茶だ。
その鬱憤晴らしにゲームセンターに行くのだ。所持金の千円を全部使い切ってでも。
その前に運動も兼ねて屋上のテラスに行く。そこは植物園とレストランになっていて多くの人がいる。そこにときどき端っこでダンスをしている集団がいる。果たしているのか、と思って行ってみると案の定いた。
あっちもこっちに気づいて、
「あれ、晴人じゃん。学校サボりか」
「人のこと言えんのかよ」
そこにいるのはだいたい高校生と大学生。ここにいる者はほとんど同罪だ。
軽く準備体操をして、輪に加わる。
約三十分、軽く汗をかく程度にダンスをした。
そこにいる人はまだやるとのことで一人中に入り、目指すはゲームセンター。
得意なゲームはシューティングゲームとレースゲーム。どちらも楽しいが今日はシューティングゲームをしたい気分だ。
ちょうど三時になるときに訪れたので学生もいないし、人も少ない。絶好のチャンスである。存分に楽しんでやる。
百円玉を入れ、ゲームを起動させる。モードを選ぶ画面が表れ、EASYとNORMALとHARDから選べ、肩慣らしにHARDを選ぶ。
ゲーム内容は中立の立場にあった国から突如襲撃を受け、主人公である傭兵が一人で敵を倒し、国を取り戻す、という背景があるゲーム。
晴人は右手に専用の銃を持ち、左手にプレイヤーを動かすレバーを握る。
ローディングの文字が現れて数秒後に画面に映し出されたのはとある建物の中。画面の下にはプレイヤーが持つ銃。画面上には三人の銃を持った明らかな敵が見える。
プレイヤーはまず積み重なっている段ボールに身を隠して始まる。レバーは二段階で動き、中途半端に押し込むと歩き、最後まで押し込むと走る。
敵に見つからないように背後に回って銃を撃つ。銃はパスッと鳴って敵が倒れる。このハンドガンはサプレッサーが付いているようだ。
敵は倒れるとアイテムに変わる。アイテムの内容は銃弾や回復アイテム、爆弾などがランダムで出る。
敵に見つかりそうなときは物陰に隠れ、次々と倒していく。
階段を上り下り、部屋を出入りして、次の場所に通じる道を探す。
敵を十人程度を倒し、出口を示す緑色のラインを越す。すると画面はローディングになり、再び画面が明るくなると映像が流れ出して、操作できなくなる。
『プープープー。北フロア2に何者かが侵入しました。隊員は直ちに現場に急行してください』
赤いライトがくるくる回り、警告を示している。
「待たせたな相棒」
ジープの運転席から顔を出す相棒らしき人。お前のせいでバレたんじゃね。
主人公は荷台に乗り、ジープは走り出す。
「やべーぞ。もうこんなところに敵が」
そこで画面が暗くなり、ローディングの画面へ。
三度画面が明るくなるとカメラが固定され、ジープの荷台で銃を構える主人公。ジープは前を向いて進んでいるが、こちらからすると後ろに進んでいるので少しやりづらい。
主人公の視線の先には追っ手が、超近代的なロボットがジープより速く走り、かつ銃を撃ってくる。
主人公はジープに付いている機関銃を持ち、そこで動かせるようになった。
銃弾は無限で連射乱射をする。この面はどれだけ早く的確に敵に多くの銃弾を当てること。ロボットにはライフがあり、だいたい十発当てれば倒せる。こちらにもライフはあり、敵の攻撃十回当たるとゲームオーバーである。この面はある距離に敵が達すると自動的に攻撃を受けたこととなりライフが減る。
晴人はこの面も一つもライフを減らすことなくクリアした。
「やっほー。さすが俺の相棒。このまま本陣に攻めようぜ」
いやいやいやいや。攻めに行くのは俺であってお前ではない、と心の中でつっこむ。
ジープは一際大きい建物に入る。そこには既に多くの味方がいて、敵は倒れていた。
「おーい。どうなった?」
「あらかた倒した。だがあいつが」
その人が指差す方向に蜘蛛のように足が八本の下半身に人間の上半身をくっつけたようなロボットが壁に張り付いていた。ようするにボスキャラだ。
そのロボットが意味のわからない叫び声を上げて、画面が暗くなる。
画面が明るくなると武器を選ぶように吹き出しが出る。選択肢は二つ。
連射可能だが近くから撃たないと当たらないし攻撃力が低い機関銃。
一発一発リロードするし狙うときいちいちスコープになるが攻撃力が高く離れたところから撃てるスナイパーライフル。
晴人はスナイパーライフルを選ぶ。理由はスナイパーの方が好きだし、メリットとデメリットの鑑みるとスナイパーの方がデメリットを自力で潰しやすい。
レバーで要領よく動かし、敵の攻撃を躱しながら一発一発、着実に当てる。
敵のライフは四つのバーが表示されており、少しずつ減らしていく。味方からの援護もあり、また先程手に入れた爆弾も使い着々と減らす。
この敵もクリティカルヒットの判定をされるとアイテムが落ちる。この面だけはどうやってもライフは減る。その分ライフ回復アイテムがよく落ちる。
多少手こずったものの合計十分少々でクリアした。
もう一度やりたいと思ったが喉が渇いたので飲み物を買いに行く。
自販機で飲み物を買うと聞き覚えのある声が聞こえた。声のする方を見るとやっぱりいた。女子四人と一緒にいる。制服姿なので学校帰りなのだろう。
こっちに向かって来る。会いたいと思っているが会いたくないとも思っている。会うのは一度でいい。あの人の記憶に残らないような一般人でなくてはならない。自分と関われば不幸になるから。
晴人は顔と気配を隠し、その人が通り過ぎるのを待つ。
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