そのころの漆黒聖典
奇妙な格好をした十数人ほどの集団が草の海をかき分けながら進んでいる。
性別、年齢、服装ともにバラバラではあるが、抜け目なく辺りを警戒しつつ進むその精練された動きだけは全員に共通していた。
「よし、今日はここまでだ。準備しろ」
黒い長髪の若い男が一声を飛ばすと、何人かがてきぱきとした手つきで野営の準備に取りかかり、残りは警衛として広く囲むように散開する。
「見つかりませんねぇ。
長髪の青年に声をかけたのは長い鎖を腕に巻き付けた男。鼻筋や耳のピアスは否が応にも目立つが、異様な色彩を放つ眼光はその不気味さゆえに好奇の視線を逸らさせるだろう。
青年は「ああ」と事もなげに返す。
「しかし、
「さあな……当の大罪者たちが何度も蘇ったと伝えられているし、強大な力を持つものは滅びてもやがて復活するのかもしれない……いわばそれを確かめるのが今回の任務だ。――それよりボーマルシェ、とっとと本題に入ったらどうだ?」
ボーマルシェと呼ばれた男は肩を竦めて破顔した。
「へへっ。やっぱり敵わねぇなぁ隊長には……。実は例の裏切り者の事なんですがね……もし見つかったらでいいんで、俺に
「クインティアの片割れか……」
闇の巫女姫から至宝を奪いズーラーノーンに逃れたスレイン法国最大の裏切り者、クレマンティーヌ。ここからそう遠くない城塞都市で冒険者に殺されたという。
「風花の連中が向かった時には既に死体は無かったそうだ。回収したのは間違いなくズーラーノーンだ。叡者の額冠ともどもな。今頃はのうのうと生き返っているだろう。だが、奴は強い。ズーラーノーンが神々の遺物である我々の武具並みの装備を用意できるとは思えないが、それでも私怨私情で対応すべき相手ではない。解ってるだろ?」
「…………」
憮然とした面持ちで押し黙るボーマルシェを青年は横目で見やる。
(まぁ、こいつの気持ちも分からないでもないが)
現・漆黒聖典第九席次であるボーマルシェはクレマンティーヌの裏切りにより空いた席に座ったのだ。クレマンティーヌより優れたところを見せたい、超えたいという願い――前任者の否定の心理が働いているのである。
「まぁ、実際に見つけた時には――」
「あああっ!? 見つけた!」
女の素っ頓狂な叫びに全員の視線が集まる。
声の主は学生服のようなものを着た眼鏡の娘だ。
「どこだ? 方角は?」青年が素早く歩み寄りつつ聞く。
「西の方……あの森を越えた小山のあたり……ものすごく強い気配が一瞬……おそらく隊長並み……」
息をのむ音が重なる。
「確定だな。しかしこんなに遠くから判ったのか?」
「それほどまでに強い気配だった」
小刻みに震えつつ娘は頷く。
「よし! 野営は中止だ! このまま目標に強行する!」
言うが早いか、隊員たちは慣れた手つきで広げた荷物を片していった。
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