第35夜 4・24 抒情は死んだ
4・24 抒情は死んだ
一日休めば、取り戻すのに二日はかかる。今日も、何も書かないで時間が経った。それで、こんな時間になって書いている。今日のはとびきりのゴミになる。書く前から、それを確信している。
何も書けないなら、仕方ない。セブンスターさえ、甘く感じる。どうしてこんな不味いものが、甘いんだ。きっと、どうかしてやがるんだ。だから、今日は詩のことを書く。
おれはきっと詩人ではない。詩は、去年の三月から書きはじめた。あれは、三月の夕暮れのことだった。僕は、詩を書こうと思い立った。小説がさっぱり書けないと知って、詩なら書けると思って書いた。案の定、ひとつのゴミができた。でも僕にとっては、天才だった。何を書いたのかは、もう忘れた。
それからだいたい一年の間に、三百篇くらいのゴミをつくった。人に見せられるものなんてなかった。書くのはいつも夕暮れだった。それでなければ、雨の日だった。結局、おれは夕暮れか雨の日くらいしか、詩を書けない、ただの凡人だった。凡人だって、夕暮れなら詩を書ける。夕暮れにはそういう不思議な力がある。だが、凡人が夕暮れにきばり出すだけのものが、いったいどれほどのものであるだろう?できたのは、くだらない抒情詩だった。
もう、このご時世に、抒情は死んだ。酔っぱらいの立ち小便の音が聞こえる。姿もないのに足音が聞こえる。僕はベランダから痰を吐いた。六階下の地面から時間差で、案外大きな音がしたので、驚いた。畢竟抒情なんて、そのくらいのものでしかない。そんなの現代じゃもう、垂れ流しだ。糞尿と等価値な、垂れ流しの吐瀉物だ。
おれはふつうの凡人だから、無価値な抒情詩しか書けないんだ。抒情は、百年前に死んだというのに。あんなものかくのも、マスをかくのも変わらない。どっちも
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