OLTARLINE

あず

序章 ゲームと現実の反転


''OLTARLINE''

それは日本だけではなく世界で一番人気なオンラインゲームである。


このゲームの中心都市にある〈システレアス〉。

そこにある祭壇から物語は始まる。

プレイヤーは自由にアバターをカスタマイズすることができ、その種類は無限だ。


完成されたアバターは祭壇から召喚され、ゲームの世界を楽しむ。どこにでもありそうなゲームだ。

ではなぜ、人気なのか…


それはシステムだ。


このゲームのシステムの一つ目は海外の人とも話せるように本略機能がついていることだ。しかも、マイクがあれば文字をいちいち打たなくても、通話気分でお互いと話せるから便利なのだ。


二つ目は自由にチームが作れること。ランクによって組める人数は限られているがランク150を超えると無制限になり、ギルドなどが立ち上げられるようになる。


三つ目は基本的な魔法の他に自分オリジナルの魔法が作れることだ。他にも武器や防具も作れることが出来る。


そして四つ目はこのゲームでお金が稼げること。それが''OLTARLINE''人気の一番の理由だ。

どういうことかというと、例えばモンスター退治の成功、他のプレイヤーからの依頼の達成でお金が貰えるということだ。他にもその稼いだお金である街に自分の店を開くことができる。

そして稼いだお金は銀行を通じて現世で使用することができる。

ついでに''OLTARLINE''はすべてがお金できまる。

最初のアバターのカスタマイズだって、ひとつひとつのパーツに料金がかかる。

武器や防具に能力スキルという特殊能力が加えられる。

お金をかければかけるほど、最初のランク上げには有利である。例えば、ランク1だったとしても武器に能力スキルがとりこまれていればLv.50のモンスターなんて一撃で倒せる。

他のゲームに比べて最初っから雑魚モンスターを倒さずに済む。

そこも''OLTARLINE''人気の1つである。

すべてがお金で決まり、一歩も外に出ずにゲームだけで一生稼いでいける。

それがどれだけうまい話なのか。


世界が虜になったゲーム''OLTARLINE''。


そしてここにもこのゲームの虜になった少年がいた。


あるマンションにその少年はいる。

彼の名前は結城ゆうき 夜銀やしろ。ゲーム名はギンヤ・ユイシロ。18歳。

夜銀は暗い部屋の中、''OLTARLINE''で遊んでいた。




「よっしゃ!やっとランク200になったー!」

OLTARLINE歴5年。俺は13の頃からこのゲームにはまっていた。

最初は学校から帰ってきてからケータイゲーム感覚でやっていた。しかし、遊び遊び始めてから約1ヶ月。あまりにも楽しすぎて勉強時間を削ってまで遊んでいた。


そして当たり前のように成績もガタ落ち。高校にはなんとか入学できたがその時は既に俺はネトゲ廃人と化し、ほとんどの授業に参加せず、挙げ句の果て退学の道に進んだ。


親にも見捨てられ、今はOLTARLINEで稼いだ金でマンションを買い、一人暮らしをしている。


俺は画面を見つめた。


画面の中にいる俺の分身「ギンヤ」は、俺とは全くの別人だ。

現世の俺は臆病で何事にも立ち向かえない。今の世界でいうと社会のゴミってやつた。

それに対してこの世界の俺は勇敢で何事にも立ち向かう。まぁ、操作してるのは俺だけど..。

偽りの自分。俺は「ギンヤ」に憧れていた。俺も「ギンヤ」みたいな男になりたいと思っていた。


時間は午後3時。昨日から一夜漬けでゲームをやっていたため、そろそろ寝ようと思い、ログアウトボタンを押そうとする。


すると…。


「ピコン」


画面右上に[メッセージ1]と表示されていた。開いてみるとOLTARLINE公式アカウントからのメッセージだった。本来なら午前6時のはず。緊急のクエスト、またはランク200記念クエストなのかもしれない。俺はメッセージを開いた。そこには


────────────────────────

特別クエスト解禁。ランク200以上のプレイヤーは直ちに公式ギルドに向かってください。

────────────────────────


と書かれていた。


特別クエストか…。行ってみるか。


俺はキーボードで「ギンヤ」を操作し、中心都市〈システレアス〉にあるOLTARLINE運営公式ギルドに転移した。受付には3人の女の受付人が立っていて緑の服を着た女の人のそばにいき、enterを押した。


メニュー画面には

・特別クエスト[ランク200~]

・シリアルコードプレゼント

・友達申請[17493人]


と表示されていた。俺はマウスを動かし、「特別クエスト」をクリックした。


すると突然パソコンの画面からでた強烈な光が俺のいる部屋全体を包み込んだ。


「うわぁ!」

俺は咄嗟に手で光を防ぐ。

手の隙間から射し込んでいた光が弱まり、俺は手をしたに下げた。


次の瞬間、俺が目を開けたときありえない光景が広がっていた。


なんだよ、これ…。


そこは自分の部屋じゃなかった。かと言って日本ではないことは一瞬でわかった。なぜなら周りにはエルフや獣人、空にはドラゴンが飛んでいた。建物もビルや高層マンションなどではなく木造やレンガでできた、まるで幻想的な世界。そして目の前には3人の受付の女の受付人。俺には見覚えがあった。そこにはついさっきやっていた、OLTARLINEの世界観と似て…、いやまったく一緒だった。


嘘だろ。どういうことだよこれ。


頬をつねってみたが痛みがあり、夢ではないことがわかった。


だとしたら、ゲーム内に入れる的なシステムが完成したのか!?……いや、でもそしたらニュースになると思うし。


すると「ピコン」と着信音と同時に手元に画面らしき物が写し出された。画面には新着メッセージと表示されている。俺はメッセージ画面を指でタップした。


表示された画面には


────────────────────────


諸君、この度はOLTARLINEで遊んでくれて感謝する。皆も驚いてるかもしれないがこれは夢ではない。紛れもない現実だ。

今年からランク200を超えたものだけがこのゲームのなかに入れるという新システムが導入された。

君たちはその第一回目にこの新システムを体感できたということだ。

なぜ、我々がこのような新システムを作ったかというと君らはランク200以上。となるとかなりの時間が必要となる。つまり家にずっと引きこもっていたか、あるいは外の世界に興味が無い人間。

失礼かもしれないがそう思った我々運営委員会は最高のプレゼントを用意した。

それはOLTARLINEへの移住権だ。

これは強制ではない。このメッセージの最後に[Yes]か[No]と表示されている。

[Yes]と押せば二度と現世には戻らず、永遠にOLTARLINEの中で生きていくことになる。

逆に[No]と押せばすぐに現世に強制帰還だ。このことは世間には非公開だからもちろん、ここでの記憶は抹消する。さぁ、どっちを選ぶかは諸君たち次第だ。

このまま楽しい世界に残るか、つまらない現世に戻るか。しっかり考えて決めるように。


────────────────────────


そして最後には


Q貴方は現世のすべてを捨て、このOLTARLINEで永遠に暮らしますか?

[Yes] [No]


と表示されていた。


俺は迷わずに[Yes]を押した。

迷うこともなかった。あんないつまらない世界にいるよりこっちにいる方がましだ。


すると再び運営委員会からメッセージが届いた。


────────────────────────


OLTARLINEへの移住ありがとうございます。こちらは移住した方のみの特典プレゼントです。

・一軒家

・家具用品

・日常品


────────────────────────


1人なのに一軒家って……。

そう思いながらも俺はプレゼントを受け取り、アイテムボックスに追加した。


する事もないし、とりあえずそこらへんでもぶらぶらするか。


俺は歩いて五分くらいのところにある〈シャンティア〉通りに向かった。


〈シャンティア〉通りには武器や防具、そのほかにも冒険に必要なものが全て売ってある。

始まりの街ともいえる〈システレアス〉。

もちろん、通りは冒険者でいっぱいだ。


ん?

ここで俺はある疑問が浮かんだ。


ここにいる冒険者は全員、移住してきたやつなのか?

それともゲームと同じNPCなのか?


俺は勇気を振り絞ってエルフの男性に質問をした。

「すいません。もしかしてあなたもこの世界に移住してきた者ですか?」


するとエルフの男はまゆを歪ませ、

「この世界?俺は生まれも育ちもこの街だけど…。」

と困った顔でいった。

「そ、そうですか。すいません、変なこと聞いてしまって。」

俺は一礼してその場を立ち去った。


人混みのなかを通り抜けてある場所にたどり着いた。そこには[冒険者ランク50~専用]と書いてある宿屋だった。ランク指定の宿屋はそんなに珍しくない。

例えばランクが100以上ある人は現世でいう、スイートルーム的なものだ。南国に行けばヴィラ、コテージ、バンガロー、シャレーなどがある。

ここはランク50~だから恐らく、スーペリアだろう俺はと予測する。とにかく疲れを癒そうと俺は宿の扉を開ける。


「おい!姉ちゃん。それはどういうことだよ。あ''ぁ?」

男性の低い声が宿内に響き渡り、ドンッと物を叩く音がした。


声のした方をみるとカウンターのところで男女がもめていた…というより男が一方的に、の方が正しい。男は身長約190くらいの大柄で、もうひとりは髪を一本結びにしたこの宿屋のオーナーらしきひとだった。


「ですから、お客様。ここはランク50からの冒険者さんにしかお貸しできないんです。」

カウンターの女性は冷静だ。


「もう、ここら辺でランク50以下を泊まらせてくれる宿屋がないんだよ。それでもここには泊まらせてもらえないのかよ?」

大男は懲りずに粘る。

「はい。規則ですので。」

大男に睨まれてもなお、オーナーらしき女性は真顔で対応した。


すると大男の体は小刻みに震え、

「このクソアマがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

と叫び、拳を振上げた。


俺はあまり、揉め事には手を挙げたくはないがこのままだとことが収まりそうにないから俺は行動に出る。


「そこまでにしたら?」

俺は防具の能力スキル''瞬足''を使い大男の背後にまわり、振り上げられていた拳を止めた。


大男は驚愕し、つかまれた手を振り上げ一歩引いた。

「テ、テメェ!何様のつもりだ!」

「何様って…。俺はただ単に言葉の理解出来ないゴリラがカウンターで騒いでたから止めに入っただけだけど?」

俺は会えて相手を怒らすような挑発をした。見たところ、初心冒険者だと思われる。


すると大男はさっきまでとは違う雰囲気をだす。

それは殺気だ。誰だってこんなことを言われたら頭に来るだろう。しかし、俺には通用しない。


「あ''ぁ?今何つった?」

大男は俺に顔を覗かすように近づけた。

「口だけじゃなく耳も悪いのかよ。このゴミ虫以下が。」

俺はアバターの能力スキル殺戮スローラン・の眼アイズを使った。


「ははっ!お前、その『眼』で俺様をおどそってんのか?笑わせる。」

大男は俺の『眼』にビビらず、背中に装備していた大剣を手に取った。


ちっ。『眼』は効かなかったか…。


「お前は俺様に喧嘩を売った。表にでろ。」

大男は顔をクイッと出口の方へ動かし、歩き出した。


大男が背中を向けた時、俺は分析能力を使った。


────分析アナンシス────

身長194cm 体重95kg Lv.27


俺は能力スキルを使い、男を分析した。


Lv.27……。はっ、雑魚モンスターだな。

そう思い俺は男の後をついて行った。


宿屋の前に立つ大男と俺。

周りの連中はざわめきだし、集まってくる。


「ったく、邪魔だな。」

大男が大剣を振りかざそうとした。


「おいおい、たかが喧嘩を売られたくらいで街の人々を殺そうとするなよ。ははっ。心配はないさ。周りに危害は加えないから安心しろ。お前が攻撃する前に倒してやるからよ。」

俺はさらに相手を挑発した。


「テメェ。後で痛い目にあっても俺は止めんぞ。」

すると男は大剣を持ったままこちらに一方的に走ってきた。


一直線に走ってくるとは……バカが。俺には大男の動きがスローモーションに見える。なるべく1発で終わらしたかったから、気絶させるため首元を狙おうとした。

すると大男の持っている体験に違和感を感じた。


あの剣、まさか……。


火玉ファイヤー

俺は相手の大剣に向かって火を放った。


ボワッ。

すると大男の大剣は勢いよく燃えす。

「!?」

大男は驚き、その場に大剣を捨てた。


やっぱり……。


「幻影イリュージョンか。いくら金がないからって【木製】で作った剣を誤魔化すなんて冒険者失格なんじゃないか?」

冒険者として武器の偽りは禁止されている。

なぜなら、どんなに弱い武器でも幻影イリュージョンを使えば、強い武器に変形することができ相手が気づかなければその武器、本来の力を出すことができる。それにより、2年前。とある集団が幻影イリュージョンで作った武器を売るなどという行為があり、多くの人が多額の金を巻き上げられる被害にあう事件があった。


あれ以来、運営は武器に対しての幻影イリュージョンの使用を禁止した。


「くそッ。」

大男は唾を地面に吐き捨てた。



すると大男は地面に手を突きつけこう叫んだ。


「大地に眠りし巨神よ!今 ここに 姿をあらわっ」

大男が呪文を唱え終わる前に俺は力を入れた拳をその顔面に打ち込んだ。


「呪文とかめんどくせーことすんじゃねーよ。召喚魔とか魔法使えない俺には専門だっつーの。」

まぁ、汚いやり方だがここで召喚魔獣を繰り出されても面倒臭いだけだし、いいとしよう。


「ぐはっ。……き……たねぇ……。」

大男は気絶しその場に倒れた。


静まり返る傍観者。

しかし、その5秒後。

「おぉぉぉおおおおぉお!」

「すげぇぇ!」

「あんな大男をたった一撃、しかも拳で。」

歓声が上がった。


するとカウンターで大男ともめていたオーナーさんが俺の方に歩いてきた。


「ありがとうございます。」

そういって一礼した。


「礼を言われるまでもないよ。それより、よく怒鳴りつけられてあんな冷静にいられたね。あーゆー客ってよく来るの?」

俺が聞くとオーナーは顔に手を当てた。

「いいえ。これは私の能力スキル偽りの仮面〈ポーカーフェイス〉です。私、心が弱いのですぐに顔にでちゃうんです。」


「なるほど。あっそういえば1つ部屋を貸して欲しいんだけどいくら?」

するとオーナーはにっこりと笑い

「助けてもらったこともありますし、今回は特別に無料でいいですよ。」

「まじで!ありがとう!」

「いえいえ、部屋はそこの階段を登って一番端っこの部屋です。」

俺は支持されたとおりに部屋へと向かった。

部屋はひとり部屋で広さもちょうど良かった。


「はぁぁぁー!!」

俺は武装を解除すると大きなため息をつき、ベッドに大の字で倒れた。


しっかし、今日はいろいろあったな。

突然、OLTARLINEの世界に入って……。まさかこんなことが本当に起こるなんて思わなかった。

ランク200以上ってことは他にも来てる人がいるんだよな。


手元のパネルを開き時間を確認した。


まだ午後5時かぁ。寝るにはまだ早いし、この街を観光でもするか。まぁ、毎日画面越しでは見てたけど……。

そして俺はベッド起き上がり扉を開け、部屋を後にした。


日も暮れ、青い空にオレンジ色の光がグラデーションの方にかかっている。2時間前では賑やかだった〈シャンティア〉通りも閉店の準備をしている。


ここからが〈システレアス〉の本来の姿。

夜の街へと切り替える。

この街は始まりの街とも言われているので年中無休、24時間、店の明かりがついている。


俺は〈システレアス〉が見渡せる丘へと向かった。

いつもは画面越しから見ていたから立体のイラストが映っていただけだったが、実際に見てみると段違いだった。

、丘から見る夜景は絶景だった。

空を見上げると何千万の星々が輝いていて、その下には無数の光が街を照らしていた。

空の星と地の星。

日本では絶対に再現など出来ない。ゲームの世界だからこそ再現 可能な……、ん?ゲームの世界……。

俺は疑問に思った。

ここは本当にゲームの世界なのか?

そしたら今もこの世界には現世から画面越しでプレイしてる人がいるってことなのか?

画面を開き、運営に連絡をとる。しかし、いくらかけても繋がらず。

俺はその場に腰を下ろした。

この2時間の間でいろんなことがあったなぁ。

たった数時間前の出来事を振り返る。

この世界に移り住んで、大男を倒して……。初めてこの肉体で戦ったけど以外と扱えるもんだな。

防具の能力スキル''瞬足''で移動した時、特に体に良い異常はなかった。

これは自分の体がこの世界と完全にリンクしたということなのだろうか。

しかし、そう考える他ない。実際に現世では絶対に存在しない魔法も使えたわけだ。

というか、よく考えたら現世で使っていた体を捨ててこの世界の俺の体に乗り移ったのか。


「光ライト」

俺は手を体の前に出し、魔法を言葉にする。

すると、手の平から懐中電灯並の光が現れた。

その光は暖かく、俺の疲れを癒してくれる。

時間を見ると午後8時。もう丘の上に来てから約2時間も経っていた。

そろそろ、帰るか……。

俺は立ち上がり、街の方へと向かった。

愉快な音楽が流れ、街の人たちは顔を赤く染めわいわいと騒いでいた。

宿に戻ろうとしたその時……

ぐぅぅうぅう〜。

俺の腹が飯を求めた。

そういえば昼から何も食ってないな。

あたりを見回し、なるべく安い飲食店を探す。

すると運良く目の前にレトロな雰囲気をだした洋食亭があり、...まぁ、なんというか現世でいうサイ〇リアみたいなものだ。

言っとくが俺は貧乏じゃない。所持金だって1億は超えてる。だからって高い飯は食わない。武器や防具以外はなるべく安く済ませたいのが俺のルールだ。

店ののれんをくぐり抜け、中に入ると

「マスタァァァア!もう一杯ッッッ!!!」

と女の叫び声が聞こえた。

今日はよく、店で叫ぶやつが多いなぁ。

俺はそう思いながら叫んだ女の方をみる。

「!?」

その女の顔を見た瞬間、体が硬直した。

なぜなら、俺はその女の顔に見覚えがあったからだ。赤色の長い髪の毛を後ろ1本で束ねてる。いわゆるポニーテールだ。するとあちらの女が俺の方を向き、驚いた顔をした。

「おっ!ギンヤじゃん。君もこっちに来てたんだね!」

酔いが入っているせいか普段のしゃべり方とはまるで別人だった。

「イオリ……。」

そこにいたのはOLTARLINEを通じて知り合った、いわゆるネッ友のイオリ・サオラオンだった。

「一緒に飲もうよ!ほらっ、座って!」

イオリは横にあった椅子に指を指した。

俺はその椅子に座り、机の横に置いてあったメニューを見る。


────────────────────────


主食

・シューザラとマナドナのバター焼き

・パネドラのスパゲッティー

・ダイラーンのステーキハンバーグ

・ザルボネーテのベーコンピザ

・ナラシュトサラダ


飲み物

・ドリンクバー


・赤ワイン

・白ワイン


────────────────────────


見た目はよくわからないが、後ろについている言葉でだいたい何かは想像つく。

俺は手を挙げ、店員を呼ぶ。

「いらっしゃいませ♪」

呼ばれて来たのは深緑色のショートカットをしたエルフだった。エルフは満面の笑みで接客をする。

「このザルボネーテのベーコンピザを1つ。ドリンクバー。」

俺はメニューに指をさしながら注文する。

「かしこまりました♪注文を繰り返させてもらいます。ザルポネーテのベーコンピザを1つ。ドリンクバー。で、よろしいでしょうか?」

「はい。」

エルフは一礼して厨房の方へと向かった。

「君も1杯どうだい?」

イオリは赤ワインの瓶を差し出す。

「いや、俺まだ18歳だから。...ってお前も確か18だよな。」

「歳なんて関係ないさ。この世界では未成年は酒を飲んじゃいけないって決まりは無いんだよ。」

ベロベロに酔った顔でイオリは手元にあったワイングラスを揺らす。

「はぁ...。ていうか、お前もこっちの世界に来てたんだな。」

「当たり前じゃん。あんなクソみたいな世界にいたって楽しくないもん。私はこういう刺激を求めてたんだよ。運営には感謝しなくちゃ。」

イオリは再びワインを飲み干し、ぷはぁーと息をつく。

「で、君はこれからどうするの?」

「どうするって?」

イオリに突如、質問され俺は理解出来なかった。

「これから君はこの世界で何をする?ってことだよ。」

イオリは今にも寝そうな顔で言う。

この世界で何をする……か。

うーん。特に何も無いんだよなぁ。

「やっぱ、冒険とか?」

俺は適当に答える。

「そう。なら、ちょっどよかった。ギンヤ、私とチームを組みましょう。」

「え!」

俺は唐突な言葉に驚いてしまった。

「私もちょうど、冒険をしたいって思っててね。仲間を探してたのよ。というわけで、よろしく。」

「ちょっ、まてよ…って……寝てるし。」

前からイオリはなんでも自分で決めてしまうくせがある。


イオリとの出会いは今から約一年前くらい。

あの時は本当に嫌な思い出だった。

期間限定のモンスター討伐。その時に組まれたパーティーに俺達はいた。


────────────────────────


「今からガバドラ討伐作戦をする。」

パーティーの人数は約100人。その頂点にたつ者。いわゆるリーダーが前の高台に立ち、手に持っている紙を見ながら喋る。


「まずはガバドラの特徴について話す。もう知っているものはいるかもしれないがガバドラは約数千個の目をもつ怪物だと言われている。」

その途端、周りがざわめく。


「数千個って……。」

「多すぎねぇか?倒せる気がしない。」


「静粛に!確かに死角はない。だが、ガバドラには弱点がある。ガバドラは本来、数千個ある目で一部の獲物を見つけ、攻撃をする。つまりガバドラは周り全体のことは見れても、その攻撃に対処できるのはわすが一部だけなのだ。そこが今回の狙い目。だから、より多くの角度から狙えるようにここにいる約100人の冒険者を50グループに分けたいと思う。」


そして後ろの画面に第1グループ、第2グループ……etc と表示されその横にはメンバーの名前が書いてあった。


えっと、俺は……。第36グループか。

相手はイオリ・サオラオン。女の人かな。


俺はキーボードで操作し、マイクに向かって相手の名前を呼ぶ。そして、案外と早くその相手は見つかった。


赤いポニーテールに、凛々しい顔立ち。顔だけ見るには剣士がピッタリだと思うが、腰に剣は所持して折らず、軽装備だった。推測するに主に魔法を専門としたプレイヤーだろう。


「はじめまして、ギンヤ・ユイシロといいます。」

俺は手を差し出す。


「こちらこそ、初めまして。私、イオリ・サオラオン。よろしく、ギンヤ。」

相手はハキハキとした声で軽く自己紹介を済まし、俺の手をとった。


初対面の人にいきなり名前呼ばわりか。

まぁ、いいや。


周りを見るとまだ、相手が見つかってない人がうろちょろしてる。次の指示が出るまで時間がかかりそうだ。


「ギンヤは剣術専門の冒険者なの?」

イオリは俺の背中に装備されている大剣を見た。


「あぁ。」

俺は大剣を抜き出す。


長さは約140cmくらいで、剣の元には丸くて青い石が埋め込まれていて刃は薄く緑がかかっている。素材選びのときに、少しだけエメラルドを追加した。まぁ、軽く30万はとんだけど……。それよりも1番金がかかったのは機能だ。


「──エルラ──。」

剣の名前を口にする。


すると青い石が薄らと光り、

『オヨビデスカ?ゴシュジンサマ。』

機械のような男性の声が聞こえた。


「それって、噂に聞く 人工知能武器AI arme?」

イオリが不思議そうな目で見た。


「そうだ。」


人工知能武器AI arme。それは世界でたった一本しかない。俺が作ったオリジナルだ。一つ目の能力スキルは敵の分析を隅から隅まで調べ、相手の弱点を見つける。二つ目は半径3kmの生命体反応を察知すること。三つ目は、柄のところにある1センチほどの凹み。ここに魔法を固体と化した石。魔石マジック・ストーンを組み込む。


魔石マジック・ストーンとは魔法を固体と化した姿を表わすものである。その種類は様々で中でも、炎魔石フレア・ストーン水魔石ウォータ・ストーン翠魔石グラス・ストーンが有名である。


魔石マジック・ストーンの創り方はいたって簡単。心の中で想像すればいいのだ。魔法を発動させ目を閉じ、魔法が手の中心へと集まるように意識させぎゅっと握りしめる。するとあっという間に魔石マジック・ストーンの完成だ。


まぁ、そういう設定だ。

あくまでもこれはゲーム。

キーボードで操作しマウスでクリックすれば、たった五秒でできる。


「へぇ〜。ちょっと装備せてもらってもいい?」

イオリは初めて見る人工知能武器[エルレイド]を子供のようなキラキラとした目で見つめている。

「いいけど……。多分、持てないと思うよ。」

「大丈夫。平気、平気!私、これでも力ある設定だから!」

いや、そういう問題じゃないんだよ。

そう思いながらも、俺はイオリに剣を差し出した。

そして俺の予想は的中した。

ゴンッ。と金属音が鳴り[エルラ]は地面に叩きつけられた。相手の画面には『error』という文字が表示されているであろう。

「あー、そういうことね。」

イオリはこの状況から全てを察する。

「あぁ、この武器は俺にしか使えない物なんだ。」

俺は[エルラ]を拾い上げ、背中に装備する。

そう、この武器は俺にしか使用出来ない設定になっている。まぁ、特に意味は無いのだが……。


「諸君!パートナーはもう見つかったであろう。」

再び空間に響く、リーダーの声。

「作戦はさっき言った通りだ。待機場所は後々、データを送る。実行は明日の午前9時、今日はじっくりと休むがいい。」

そしてリーダーはその場から消えた。

画面の右端に[ルイースがログアウトしました。]と表示された。

その後も次々とメンバーがログアウトし、俺達 2人だけがその空間に残った。


「みんな、いなくなったな。」

「そりゃぁ、明日9時でしょ?今、午前3時だよ。あと6時間後に集合だなんて、いくら何でも早いよ〜。」

「しょうがないだろ?今回のターゲットは朝方に活動をするらしい。ったく、運営は何考えてんだよ。朝より夜の方が、活動しやすいのによ。」

「ほんと、それな。学生や就職している人なんてできないじゃない。まぁ、ネトゲ廃人の私たちには関係ない話なんだけどね。」


すると画面上に『対戦相手が現れました』と表示された。

「チームを組む同士で力試ししてみない?」

イオリは装備してある双剣を抜いた。

まぁ、お互いの強さを確かめるいい機会だな。

キーボードを操作し、戦闘態勢にはいった。


『ルールの説明をします。制限時間は1時間。ステージは『神祖の翠』。どちらかが戦闘不能になった時点で勝敗決定。』

アナウンスが入ると同時に周りの空間が一瞬にし森と化した。

よりによって森フォレストかぁ……。

相手は魔法専門の冒険者。それに対して、俺は物理専門の冒険者。障害物(木々)があるため、魔法を使う相手の方がこのステージに適している。

OLTARLINEの戦闘機能は世界で一番難しいと言われている。なぜなら、このキーボード全部がコマンドボタンなのだからだ。その上、自分専用オリジナルの魔法が作れるから組み合わせは無限大だ。


基本的操作は

←or→ で横に移動

↑ジャンプ

↓かがむ

a+s+↑or↓で前後

となっている。


OLTARLINEの上級者の人でも人間との対戦は長引くことがあるため、あまり行われることはない。

「森とかラッキー。」

イオリは勝利の笑を浮かべた。

「おいおい。その顔をするのはまだ早いんじゃないか?」

「ははっ。そうだね。んじゃ、始めようか。」

それと同時に

『それでは戦闘を開始してください。』

とアナウンスが入った。

俺は早速、コマンドをキーボードに打ち込む。


───『透明化』───


名の通り、自分の姿を透明化する能力スキルだ。

これはオリジナルではなくごく一般的に使われている。

姿が消えた直後、俺は素早くイオリから距離をとった。


∮イオリ・サオラオン


目の前にいたはずのギンヤが一瞬にして姿を消した。


「『透明化』ね。そんなの直ぐにバレるわよ……ははっ。」

ボソッと独り言をいったあと、私はコマンドを打つ。


────『疑目 ダウト』────


画面が一気に真っ青になる。するとここから約50m離れたところに白い人影らしき者が物凄いスピードで遠ざかっているのが見えた。

みーつけた。いくら姿を消したとしてもそれに対抗する能力スキルを使えば意味ないんだよね。これぞまさに「頭隠して尻隠さず」だね。ははっ。

私は目の前にいるターゲットを指し、こう呟く。


「────ズドーン────」

すると私の指先から赤い光線が放たれた。



∮ギンヤ・ユイシロ


イオリとの距離は約50m。

一旦、作戦を練らないといくら何でも……


『主、後方カラ光熱反応アリ。物凄イスピードデコチラニ接近中。』


そんな…バカなっ!

後ろを振り向くとすぐそばまでその光線は近づいていた。


まじかよ!?

俺はとっさの判断で能力スキルを使う。


「───防御シールド───」

すると僕の目の前に青色の薄い壁が出現する。

カキンッ!

間一髪、あと30cmのところまで近づいていた光線を跳ね返した。

俺はその場に止まり、身を隠した。

透明化が効かなかったという事は、イオリはそれに対する能力スキルを持っているということ。つまり、俺がどんな所に隠れようが直ぐに見つかってしまう。……くっそ。作戦を立てる時間も与えないとかマジ鬼だな。はぁ……このまま、真正面から戦えってか。どうせ、俺がここにいるのもとっくにバレているみたいだし…しゃーない。やったるか。

俺は深呼吸をした後、その場に立ち上がる。

するとそこには待ってましたと言いたげな顔をしたイオリが立っていた。

「透明化なんて意外だったよ。てっきり、開始と同時に襲いかかってくんのかと思った。」

「俺はそんなに馬鹿じゃないぞ?てか、対能力スキル使うのは流石にズルいだろ。」

「あれ?そうかな?」

イオリはわざとらしく口角を上げた。

「これだから人間相手の勝負は面倒臭いんだよなぁ。」

「でも、面倒臭い代わりにそこには『楽しい』がある。」

「あぁ、そうだな。普通のモンスターは呆気なく倒され、そのまま消滅する。基本の戦いは『倒しては報酬』の繰り返しだ。だが、人間相手にはそんなシステムなど存在しない。何回倒しても、死にはしない。それに…。」


「「本当の人間じゃないから、本気で『殺し』合える

。」」

この時の俺とイオリは『殺す』という概念に侵食され、笑いが止まらなくなっていた。

このゲームをやり込んでいないと、実感できない快楽。そこらへんの狩りゲーとは訳が違うんだ。あれはシステムを組まれ、動かされているただのロボット。それに対してこっちは動かしているのは正真正銘の人間、どんな能力スキル、どんな武器を使うのかも分からない。そこが堪らないんだ。スキル満載のゲームそれもOLTARLINEの特徴のひとつでもある。

「さぁ雑談はここまでにして、そろそろ本気で始めようよ。」

イオリは腰に付いている双刀を抜く。

「そうだな。こう、話しているうちに20分過ぎちまった。」

俺も背中にある[エルラ]を抜く。


しばらくの沈黙。

その5秒後、二人の姿は途端に消えたのだ。

カキンッ!

二人のぶきの刃が当たった音。刃からは少しだけ火柱が出ている。

「あれ?意外とやるね。」

「舐めてもらっちゃぁ困るぜ。こちらとらもう五年もプレイしんだよ。」

「五年でその力……凄い。」

「お褒めの言葉ありがたき幸せ、だっ!」

俺はスキができたイオリの腹部に蹴りを食らわせた。


「!?……かはっ。」

イオリは約10m先まで吹っ飛び、大木の幹に激突した。

「相手にスキを見せるとか。」

「……。」

幹の根元にくたびれたイオリは何も喋らなかった。

「イオリ?」

名前を呼ぶが返事はない。その時、イオリの体に変化が起こった。

「!?……なんだこれ。」

イオリの腹部がブクブクと膨れ『それ』は次第に器官へと上り詰めた。まるでとある漫画の虫使いのようだ。

ゴボッ。

イオリの体液と共に出てきた『それ』は体長15cmくらいの黒い体に赤い目、口元は例えるならかぼちゃのお化けの口の形、それに尻尾がついている生き物だった。

「キュピ?」

その生き物は俺の方をみて首を傾げる。

「なんだコイツ?」

俺が触ろうとしたその刹那、そいつは突如巨大化し、イオリの体にまとわりついた。

うわぁ。

その光景は目をそらしたくなる程気持ち悪かった。

しかし、そう言っているのもつかの間、『それ』は動き出したのだ。

『それ』はイオリの体の一部と化していた。

真っ黒な防具?いやあれは戦闘型ドレス……。

俺はその光景をどこかで見たことがあった。そして、その記憶は直ぐに蘇る。


「──鮮姫ブラッティ・クイーン──」


それは約二年前、北部にある街でレベル1000を超えたモンスターをわずか1人で倒したとのニュースがあった。その時に配信された動画は世界中が驚愕した。

わすが一撃。

その一撃でそのモンスターは倒されたのだった。

運営はそのプレイヤーに『どうしたらあんな技が出せるんだ。』と問いたところ、彼女は

「私は何もしていない。気がついたら倒していた。」

との一点張りだった。それ以来、彼女の活躍はそれだけだった。

そのモンスターを倒して以来、彼女は表の世界から姿を消した。

「なんで、そんなのがこんな所にいるんだよっ!」

俺はすぐさま、その場から身を引く。

あんなのに勝てるわけがない。

ましてや、鮮姫ブラッティ・クイーンなんて……!?

俺は下を向いたとき、ある恐怖に襲われた。

自分の影ともう一つの影、最初は小さかったがそれは徐々に近づいてくる。

まさか上空に……!?

俺が振り向いた時にはもう遅く、その刃は目の前まで来ていた。

ジャキンッ!

グラッと世界が歪む。

その時、俺の視界に『俺の体』が移り込んだ。

おそらく首を切られたのだろう。

画面の真ん中には『LOSS』との青い文字。

その時のイオリの表情はまるで殺人鬼のような顔をしていた。


────────────────────────


「まさか、こいつが鮮姫ブラッティ・クイーン、だったとわな。」

俺はイオリの方を見つつ、そう呟いた。

「お待たせいたしました。ザルボネーテのベーコンピザとドリンクバー用のコップでございます。」

店員のエルフは机の上に食べ物を置くと、再び一礼し、他の客の元へと歩いていった。

ザルボネーテとは何処にでも出現する、下級モンスターだ。かと言って、そのモンスターを切り刻んでいるわけでわない。食材に使われる殆どがザルボネーテの頭部から生えている葉っぱみたいなものだ。いわゆる野菜の一種。例えるならバジルらへんだ。

生でも香ばしいにおいが漂うその葉は焼き上げるとさらににおいが増し、その味はまるで高級な肉を食べているように思えてくる……と説明欄に書いていた。

実際に食べたことのない俺にとっては新鮮さを感じた。

皿のそばに置いてあったピザカッターを手に取り、六等分に切る。そのなかの一枚を手に取り、口に頬張る。

「うめっ!」

説明欄同様、本当に肉を食べているような感じかする。ここのところカップラーメンや冷凍食品しか食ってなかった俺にとってはとても『旨い』という言葉だけでは表せなかった。

それから五分もしないうちにペロリと平らげ、お茶を飲んで一息ついていた。相変わらず、イオリはいびきをかきながらがら熟睡している。

さてこれからどうしようか……。

イオリとチームを組んだ以上、このまま置いていくわけにも行かないし、とりあえず宿屋に連れて帰るか……。

俺は会計を済ませようとし、店員を呼ぶ。


「合計で13万6000円です。」

店員から言われたその額はとんでもなかった。

「13万!?そんな高かったっけ?」

「いいえ、お客様の金額は750円です。」

「だったら、あとの13万5250円は……はっ!?」

俺は後ろの机で寝ているイオリの方をみた。

「はい。残りの金額はそちらのお客様になります。」

まじかよ……。

俺はイオリの元に行き体を揺さぶる。

「おーい、イオリー?君の会計が13万超えているんですけど……。」

話をかけるが……

「……うーん。むにゃむにゃ。」

起きる気配はない。

ダメだこりゃ。

諦めた俺は店員の許可をもらい、近所にあったATMらしき所に行き金を下ろした。会計を済ませたあと、イオリを宿まで運んだ。


「あら?よった女の人を連れ去らって来てしまったのですか?ふふっ。」

オーナーさんはニヤニヤしながら俺をからかった。

「やめてくださいよ。こいつは前に討伐クエストで一緒になった知り合いなんです。」

「なら、どうして持ち帰ってきたのです?……まさかそのままベッドい…」

「断じて違います!……はぁ、今度チームを組むことになったんです。それもいきなりですよ?酒の勢いで言ったのかも知れませんが、もし本気で言ったのなら置いて帰るわけには行かないじゃないですか。」

「そうですか。ふふっ。」

オーナーの顔はまだニヤニヤしている。

「はぁ。とりあえず、もう一つ部屋を……」

「空いてませんよ?」

「え?」

思わない返事に俺は素っ頓狂な声を出してしまった。

「空いてないってどういう事ですか?」

「あら?言葉が理解出来ないのですか?先ほど来たお客様ですべての部屋が埋まってしまったのです。そうですね……。予備のベッドならありますんで貴方様の部屋に運びましょうか?」

「マジかー。よりによって女子と部屋一つって……。

あー、明日の朝が怖いよ。絶対に勘違いされるよ。」

と、弱音を吐きつつも、

「はぁ……お願いします。」

と言ってしまうのだった。


予備のベッドにイオリを寝かせ、俺はやっとひと段落できた。

「はぁー!疲れたぁ!!」

と、寝ているイオリがいるにも関わらず、俺は思いっきり叫んだ。

今日だけで色んなことが起こった。

最初はただ単に『異世界に来た』という感情しか無かったが、今では『これから何が起る』というワクワク感が芽生えていた。

俺は手元の操作で画面を出現させ装備を解除し、寝る準備をした。そして、俺はベッドに入りこう呟いた。

「異世界での生活も悪くないな。」

そう言って俺はゆっくりと眼をつぶり、その意識を手放した。

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