歌姫
眠ってしまったニカイドウを眺め、ミナバは昔を思い出していた。頭が切れ、手を出すか否かの判断が異様に早い。ティーンの頃のニカイドウは抜身の刀みたいな男だった。それでいて眠るときは小さく丸まって眠る。昔から変わりない、ニカイドウの癖だった。
「おい……イリヤ」
ミナバは振り向かず声をかけた。天井裏から降りようとしていたイリヤは素っ頓狂な声をあげた。
「わお。アー、気付いてた? まいったな……」
垂れていた髪をかきあげ、イリヤは天井のへりにつかまり、強度を確かめた。
「人の部屋の天井裏で何してんだ」
「ちょっとね、おっと」
答え、猫のように一回転して降りてくる。回った拍子にイリヤのズボンのポケットから小さな袋がいくつも落ち、床に叩きつけられた。イリヤは屈み、それらを拾う。ミナバはそのなかにピンクの筒が入った袋を見つけた。
「砂糖……そういや初めてあったときもそっから出てきたな。あんときはニカイドウが一緒だったが……お前、何者だ?」
「内緒。っていうか、初めて会ったとき? ……あの時が初めてじゃ、ないよ。言っただろ、俺はあんたのことを知っている」
「……あー、なんだ、ケンカ売ってんのか?」
寂しそうに笑うイリヤに当惑したミナバが言えたのはそれだけだった。
「違うよ。俺ね、イリヤっての。『歌姫』イリヤ。知らない? あんたと同じ、上層の住人だよ」
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