住居の改装と非合法労働条件下
住処の改装にはカネがかかる。黴臭い下層でその日暮らしをしていた彼らが今の住処を見つけたのは半年くらい前だ。それより以前、根無し草だった彼らはその日の糧を得るために下層底辺で何だってやった。肉体労働、書類書き、地下街の再開発。雨合羽を着て死体を運ぶこともあったし、配管修理や水路の点検、物流の仕事もあった。コフィンにも入れず、下層でカツアゲをしてぶら下がり宿で寝たこともあった。そんな生活のなかで二人は、死体を漁ってなんてことのない遺品やコインをガメたり、帳簿の数字を誤魔化して上前をはねたり、廃棄の品を譲り受けたりして生きてきた。収入は少なく、現金や貨幣の類にはいつも困っていたように思う。
非合法ギリギリの仕事をしているときはよくホテル街に女を買いに行った。買いに行ったというのは多少語弊がある。金品・宝飾品の類、あるいはもっと非合法なものは仕事柄よく手に入ったので、ある時はそれを売って金を作り、ある時はそれを餌にして女を食っていたのだ。
ホテルは快適だった。乾燥機も空調も温かいシャワーも、乾いた布団もそろっている。仮住まいの寝床とは比べ物にならないような環境で思う存分ファックするのはキツイ仕事の合間で何よりの慰めになった。
今の生活はあのころと比べると天と地ほどの差がある。寝床の底が腐って抜けることはなくなったし、虫がわくのを防ぐために水という水に銅をとかして回ることももうない。防水の追いつかない下層では水に晒され続けるままに体が腐り、低体温症で死ぬ人間はたくさんいた。薄暗い牢獄のような地下街で目前を通り過ぎていく死が自分のところで足を止める日を、誰もが怯え抗いながら待っていた。もうそんな心配をすることもない。浄水場作業員は決して楽な仕事ではないが、少なくとも食うのと寝るのに困らないだけの稼ぎがある。死に怯えることのない生活。それはやっと手にした自由だ。
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