呪詛



 女は呪われた。いや憑かれたのかもしれない。夫はパチンコ屋で浮気をしている。五才の娘はタバコを吸い、幼稚園で恐喝をした。兄は親の遺産を独り占め。ちゃんこ屋を始めた。ご近所ではつまはじきだ。

 指折り不幸を数えようとして、女はいつもより指の数が多いことに気がついた。まるでしろくのがまだ。

 こんなもの見たくない。胸がむかむかした。

 胃袋からこみ上げてくるものがあるので吐き出すと、洗面台の底に転がっていたのは人間の目玉だった。わずかに濡れて、こちらを見上げている。

「いったいどうしてこんなことに」

 女は鏡に映った自分の顔をまじまじと見た。

「嫌いよ。あんたなんか」

 気持ちが悪くなって、また吐いた。女は吐くものがなくなるまで吐き続けた。

 痙攣がおさまって洗面台を見ると、がまの油が溜まるかわりに、積み重なった誰かしらの目玉の山ができていた。

「どうなってしまうの、あたしは」

 幸せを願うあまりにめまいがした。

「くたばれ、魔女め」

 女は自分のことを罵った。

 でも。

 こんなところに目があるのでは夫はパチンコ屋で浮気の相手を見つけることができないだろう。幼稚園で昼寝から覚めた娘は寝ぼけてライターのありかがわからずに、机の角に頭をぶつけているかもしれない。兄のちゃんこ屋の鍋の中ではキャベツと豆腐、肉団子にはさまっておいしそうな目玉が何個も煮込まれている。ご近所の目はもう何も見えない

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