その4

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『うふふふ♪』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』…

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『あははは♪』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』…


 星空に包まれた公園の中は、今や無数の桜色に包まれていました。300本のソメイヨシノだけではありません、ずっと皆からいいようにこき使われ、ずっと1人ぼっちだった男子学生のCを取り囲むかのように、何百人も桜色の髪をした美女たちが宴会を繰り広げていたのです。全員とも、その意思は公園中のソメイヨシノと繋がり、まるで桜吹雪のように髪をたなびかせながら、微笑を見せ続けていました。


『はいC君、ジュースだよー♪』

『このお握り、C君が作ったんだよねー』

『美味しいよー♪』


「あ、ありがとうございます……」


 ずっとサークルで理不尽な目に遭い続けてきたせいで褒められる事に慣れていなかったCは、たくさんの美女――ソメイヨシノの精霊にもてなされる中でずっと顔を真っ赤にし続けていました。酒に酔っ払っているのではありません、あまりにも美しいその姿形、何百人もいると言う脅威の光景、そして今までの恩返しといわんばかりに彼を褒め称える精霊たちに対して、嬉しさの余り恥ずかしがっていたのです。


「そ、そこまでしなくても……」


『気にしないでよ♪』

『今までずっとサークルの皆のためにこうしてきたんでしょ?』

『だから今度は、「わたし」がこうやってあげるんだよ♪』

「あわわ……そ、そうでしたか……」


 もう何十年もこの地でたくさんの人々を見つめてきたというたくさんの精霊たちは、Cにとっては大先輩。ちょっとだけ申し訳ないと思いながらも、その優しくも薀蓄に満ちたような表情を見た彼は、素直に彼女たちに従う事にしました。

 そして、たくさんの彼女とにこやかに過ごしていたとき、1人の彼女がある事に気がつきました。植物はたくさんの水を消費するもの、あれほどたくさんあったジュースが、あっという間に無くなってしまったのです。じゃあ僕が買ってきます、といつもの癖で動こうとしたCでしたが、その心配は無い、とたくさんのCにとめられました。そう、この大宴会の主役は彼、無理に動く必要は無いのです。


『じゃ、わたしがジュース買ってくるねー』

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『いってらっしゃーい♪』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』…



 ありがとうございます、と見送った後、Cはある疑問が頭に浮かびました。


「あ、あの……精霊さんがコンビニに行っても大丈夫なんですか……?」


『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『心配しないで、ちゃんとお金はあるから』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』…

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『そこらへんは対策練ってるよ♪』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』…


「そ、そうですか……」


 でも本当に大丈夫なのだろうか、そう心配しつつも待つことにしてから数分後、Cの傍に、コンビニでジュースを買って来たソメイヨシノの精霊が戻ってきました。どうやらお金などの工面は一切心配しないで良かったようです。


『ただいまー♪』


 ところが、その様子を見てCは驚きました。コンビニに行った彼女は1人だけのはずなのに――。


『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『ただいまー♪』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』…


 公園の中にいる彼女よりも明らかに多い数のソメイヨシノの精霊が、次々と帰ってきたのです。当然全員ともお揃いの髪型に同じ顔、服も声も何もかも同じです。一体何が起きたのか、と慌ててしまうCを見て、新たにやって来たであろうソメイヨシノの精霊が次々と集まって彼に言いました。


『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『ふふ、すっかり忘れてるね♪』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』…

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『この公園以外にも、「わたし」がいっぱいいる事を♪』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』…

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『この街だけでも、1000本以上はいるかなー♪』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』…


「え……あ……あぁ!!」

 

 植えてからすぐに大きく成長し、綺麗な花を咲かせてくれるという点が好まれ、ソメイヨシノは次々とその数を増やしていきました。この街も例外ではなく、公園に植えられた300本以外にも、Cの住むアパートの傍や大学の敷地内、そして道の傍の並木など、至る所にソメイヨシノが存在し、春になると美しい光景を見せてくれるのです。

 そして全員とも、人間の手によって作られたクローンたち。いつもお世話になっているCに恩返しをしていると言う公園の「自分自身」の話を聞き、他のソメイヨシノの精霊も全く同じ事――いつも優しいCに恩返しをする、と言う思いを抱いたのです。しかも話はこの街を飛び越え、他の場所にまであっという間に広がっていました。その結果が、後から後から押し寄せてくる、桜色の髪の美女の大群でした。


 気づけば、彼の周りは地面が見えないほどの大量の美女に埋め尽くされていました。全員とも桜の香りを纏い、桜色の髪をたなびかせるソメイヨシノの精霊たち。その数は1000人を遥かに超え、もはやどこが公園の境目なのか分からないほどに広がっていたのです。大量の美女に取り囲まれ、Cの顔は沸騰寸前になってしまいました。


 そして、一斉に彼の元に詰め寄り、何百何千もの笑顔を見せながら、ソメイヨシノの精霊の大群は一斉に言いました。


『わたし、C君の事、だーいすき!』

『『わたしもー♪』』

『『『『わたしもー♪』』』』

『『『『『『『『わたしもー♪』』』』』』』』

『『『『『『『『『『『『『『『『わたしもー♪』』』』』』』』』』』』』』』』


「え、え、ええええええ!?」



 突然の告白にさらに慌てた直後、彼の体は一斉に無数の女体に包まれてしまいました。四方八方から、美女の柔らかい胸や太もも、唇の刺激が押し寄せたのに加え、公園を取り囲むソメイヨシノの香りもますます強くなり、Cは体の奥まで『ソメイヨシノ』に染まっていってしまいました。


『うふふ、C君♪』うふふ、C君♪』うふふ、C君♪』うふふ、C君♪』うふふ、C君♪』うふふ、C君♪』うふふ、C君♪』うふふ、C君♪』うふふ、C君♪』うふふ、C君♪』うふふ、C君♪』うふふ、C君♪』うふふ、C君♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』うふふ♪』……


「あ、あははは……ははは……」


 そして、Cは再び意識を失っていきました。

 ただし、今度は凄まじいほどの嬉しさや快楽に満ち溢れながら……。

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