Action.5【 閲覧注意 】全国不幸自慢大会

「みなさん、こんにちは。全国不幸自慢大会の時間でございます」

 市民会館の大ホール、観客席ほぼ満員である。

 七三に分けワックスで固めた頭に、今どき流行らない赤い蝶ネクタイ、黒いロイド眼鏡をかけたアナウンサーは見るからに胡散臭い男だ。

「では、本日の審査員をご紹介します。絶望の魔女と呼ばれる超辛口人生相談カウンセラーのクリスティーン・佐渡先生でーす!」

「ハーイ! クリスティーン・佐渡よ。私のいうことを聞かないと地獄に堕ちるわよん」

 体重100キロは有りそうなオカマが、ケバイ化粧とド派手な衣装を着て、ドスの利いた声でオネエ言葉で話す。

 彼女は人生相談の回答者だが、あまりに辛辣なアドバイスに、今まで何人もの相談者が絶望して自殺したと言われている。

「人の不幸は蜜の味、川に落ちた犬は棒で叩け、死人に鞭打つなど。古今東西、不幸な人間を卑しめるコトワザは数知れずあります。何んといっても人の不幸はお笑いのネタなのです。みなさんのNHH(日本変態放送)では、優越感の笑いを視聴者の皆さんにお届けします」

 アナウンサーの声に観客席からどよめきが沸き起こった。ここに居る観客は人の不幸を笑いにきた人たちなのだ。


「エントリー№1番、埼玉県K市からお越しになった。中村芳恵さん三十五歳、飲食店従業員。曲は中島みゆき『うらみ・ます』さあ、音楽をバックに貴女の不幸を語ってください!」

 舞台の袖から暗い表情の女が出てきて、マイクを片手に話し始めた。

「皆さん! 私の話を聞いてください。十年間貢いできた男に捨てられました。私が深夜の仕事から帰ったら彼は家に居ません。おまけに出て行く時に、私の貯金通帳とカードまで持って行かれました。先日、カードの請求額が二百万円もきました。今まで彼の子どもを五回も中絶しました。医師にもう産めない身体だと言われた。結婚も出来ない! 子どもも産めない! こんな女にした、酷い男を恨みます!」

 そう言って女は大声で泣き出した。

 その声に観客席から、涙、いや違った笑い声が聴こえてくる。

カーンと鐘が1つ鳴った。

「おや、残念でしたね。では審査員のクリスティーン・佐渡先生に訊いてみましょう」

「あんた! 甘いわよ。そんなの全然不幸じゃないし、あんたが馬鹿なだけなの。まだ臓器まで売られないだけマシじゃん。馬鹿は地獄に堕ちなっ!」

 その言葉に女は号泣しながら舞台の袖に消えていった。


「では、エントリー№2番、横浜市からお越しの鈴木実さん四十二歳、無職。曲はさだまさし『関白失脚』でお贈りします」

 薄汚れたコートを着た、貧相な中年男が舞台に現れた。

「俺の話を聞いてくれい! 半年前に二十年間勤めた会社をリストラされた。毎日ハローワークに通ってるけど……五十回以上面接を受けたがどこも不採用ばかり。俺が失業してから家族の態度が冷たい。女房は飯も作ってくれないし、俺のものだけ洗濯しない。子どもたちの前で「お父さんみたいな屑になっちゃダメよ」と悪口ばかり言いやがる。子どもまで俺を軽蔑し切った目で見るんだ。そして、ついに俺に保険を掛けて殺す計画をしているのを聴いてしまった。ああ―――このままでは俺は家族に殺される!」

 男は頭を掻きむしって悶絶絶叫した。館内からは嘲笑が聴こえてきた。

 そこで鐘がカーンとひとつ。

「ああ、残念でした」

「何言ってんの! 仕事もしないで家にいる生ゴミを抹殺したいと思うのが当然よ。どーせ家族のお荷物なんだから、さっさと地獄に堕ちなっ!」

 冷酷無比な言葉に打ちのめされて男は消え入るように去っていった。


「はい次は、エントリー№3番、名古屋からお越しの高橋由佳さん十七歳、高校生。曲は杉本雄治『100回泣くこと』どうぞ!」

 点滴のスタンドを押して、痩せ細った少女がヨロヨロしながら舞台に立った。

「皆さん、さようなら。十七歳になったばかりなのに白血病のせいで余命三ヶ月だと、私は医者に宣告されました」

 その声に館内は一瞬、シーンと静まり返ったが……どっと爆笑の嵐になった。

 鐘が三つ打ち鳴らされた。

「おめでとう! クリスティーン先生ご感想を」

「結構やるわね! その年で余命三ヶ月とは絶望過ぎるけど、まあ、ベッドの上で死ねるだけ幸せだと思いなさい。もっと悲惨な死に様をする人間も世界中にはいるんだから、いずれ地獄に堕ちるのよ」


「いよいよ最後の挑戦者です! 大阪からお越しの木村和也さん二十五歳、フリーター。曲はレッドツェッペリン『天国への階段』でーす!」

 紹介と同時に舞台の中央にオタク風の男がのっそり立っていた。

「みんなに話がある。こんな世の中に絶望したので俺は死ぬことにする。だが、一人で死ぬのは寂しいので、おまえらを道連れにすることにした。後1分で会場に仕掛けた時限爆弾が爆発する」

 その話に館内は爆笑の渦と化した、まったく誰も信じていないのだ。


『絶望万歳!』


 男の叫び声と同時に会場は閃光と爆音に包まれた。

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