第2話ふつーに女装する。


 國生リュウイチ(こくしょう りゅういち・十六歳・男)「ハァッ、ハァッ……助けて……」

 教室がいっせいにガヤガヤしだした。

 学生食堂では、先を争って並んでいた男子学生が列を乱した。


 オーバーニーソックスに、ひきしぼられたウエスト、張り出したヒップ。控えめなバスト……。ツインテールに大きなリボン。


 一緒にいるのは音楽教師だ。鼻の下を伸ばしている。手にしているのはフルートのケース。

モブ「なんだコクショー、あれがどうかしたのか?」

コクショー「あれを見ろっ!」

モブ「あれが?」

コクショー「女だっ!」

モブ「それが?」

コクショー「手違いで、女の子が交換留学にっ?」

モブ「ないって」

コクショー「だって、かわいいぞ」

モブ「だっての意味がわからない」

コクショー「なに言ってるんだ、追いかけるぞ!」

モブ「やめとけよ」

コクショー「どうして?」

モブ「一般生徒のおまえは知らないだろうけどな……あれ、トオヤだぜ」

 窓から身を乗り出していた生徒たちが、急にシンとした。

コクショー「男の娘?」

モブ「オカマと言え」

コクショー「いやー、今の時代、それは差別用語だろ?」

モブ「あいつは、近づくやつらはひととおり、くっている」

モブ「残念だったな」

モブ「とりあえず、顔のいろいろな汁を拭けよ」

コクショー「うん……」

 タクトは、友人の姿を、痛ましく思った。

タクト「ちなみに攻めだって。わかる? タチってこと」

コクショー「トオヤって、確か女と付き合ってたよな?」

タクト「場合によっては男もオーケーだって」

コクショー「……」

タクト「鼻血、出てるぞ」

コクショー「オレの青春が……」

モブ「終わったな」

モブ「おわった、おわった」

タクト「みんな! そんな言い方よせよ! こんなの、かわいそうだ! コクショー女に免疫ないんだ。ここは友達として、元気付けてやろうぜ!」

モブ「時代は実力社会なんだ。夢とか言ってる場合じゃない」

タクト「恋することで、何かが変わるかもしれないだろ?」

コクショー「オレのことをわかってくれるのはタクトだけだー!」

タクト「おいおい、もっと周りを見ろって、な?」

ソーマ「コクショー……生きてて本望か?」

 ソーマの声が冷たく響いた。

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