キュンキュンキューン!

れなれな(水木レナ)

第1話僕、ときどきオレ様ッ!

 トキメキは突然やってくる。

 ……キューン。

 聖タクト(ひじり たくと・十七歳・男)「あ! あれは聖☆女の制服!!」

 スカートのすそから、白いものがチラリ。

 気になるツインテール。

 スカートの丈といったら、エーブイ女優も真っ青だ。

(ああ! 引き締まった背中、スラリとした立ち姿、抱きしめたい!! めちゃくちゃにしたい!!!)

 おや? どうやら、これは……トキメキというよりも。

(ああっ、あの脚にすがりつきたい。太ももにキスしたい!)

 どーにもこーにも獣欲だっ!

(朝からいーもん拝めた。早起きはするもんだなあ)

 ラッシュを避けた、もよりの駅から三十分。

 ひとたび学園内に足を踏み入れれば、アイドルとしての彼を待っている。

 その男子校のおきてその一。

 彼の手かせ、足かせにならない。

 常に彼の周りにはエリート君がそろっている。

 彼らには彼を引っ張り上げる役目しかない。

タクト「るん、今日もまた早飯かあー?」

古城るん(こじょう るん・十七歳・男)「うん」

タクト「おかずはー?」

るん「メンタイ」

タクト「ちょっとくれっ」

るん「うん」

蒼井ソーマ(あおい そうま・十八歳・男)「タクト様、モーニングはいかがです?」

タクト「ソーマ、オレにくれるのっ」

 そこに集まる制服群はタキシード。

 トワイニングブルー学園ではパリのオーダーメイドが大流行なのである。

モブ「そんな早死に料理、若いときしか食えんぞ」

タクト「ワインがあるからへーき」

モブ「タッくん、君まだ十七!」

タクト「もう十七だもーん」

 テンパの彼がニコッと笑うと、あたりがぽっと暖かくなる。

モブ「タッくん、その年で酒豪!」

モブ「まるでザルだな」

タクト「そんな! おおげさに褒めるなよっ!!」

モブ「そこで照れるな」

 ささやかな笑い声がわき立つ。

タクト「なんか、幸せだあ……」

 

モブ「タッくん」

モブ「タクト……」

モブ「タクト君」

モブ「タクト様……」

 彼らは一様にこうつぶやく。

モブ『天使様……!!』


 はっきり言えば。

 タッくんこと、聖タクトは子犬みたいなんである。

 とにかく愛嬌がある。かわいい。これに尽きる。

 毛なみのモコモコしたトイプードルみたいである。

 カップに収まりそうなほど小さい。

 と、これがまあ、彼のプロフィール。


瀬尾トオヤ(せお とおや・十七歳・男)「自分の体には気をつかえ、バカ。肩、塗れてんぞ」

 パッパッと、トオヤが彼の肩を払うと、朝露がはじけた。

タクト「トオヤ、今日は羽根付きっ?!」

トオヤ「そお。宝塚歌劇団みたいだろーがよ」

 と言って、トオヤはワサワサと背中の羽根を動かした。

モブ「邪魔だな、端的に言って」

タクト(どうすれば……)

 タクトはソーマの隣で青ざめた。

タクト(この世のカリスマ、トオヤのファッションセンスに口出しをすべきでない)

タクト「いつにもまして、攻撃的だな」

 孔雀のような羽根を背負ったトオヤが、自慢げに、長い前髪をふぁさっと払った。

トオヤ「おまえにしちゃ、上等な褒め言葉だ」

モブ「モエ!」

モブ「オレはナエだ」

モブ「ナエだな」

モブ「どーしてお前は奇妙キテレツなんだ」

タクト「ソーマ、これ絶品! おかわりっ」

 一同、ポッと頬を染め、

モブ「タッくん」

モブ「タクト」

モブ「タクト様……」

モブ「タクト君……」

 そしてため息をつく。

タクト「みんなどーしたの?」

 全員が全員、心の中で思うのである。

モブ『ああっ! 幸せっ』


このようなお幸せな光景に、水を差す輩、登場。

古城らん(こじょう らん・十七歳・男)「るんー、おれの分の弁当は?」

るん「わすれたー。つか食った」

らん「お、え? おまえ、母さんから、おれの分の弁当預かったって言ったろう」

 るん、と呼ばれた青年と同じ顔をした、双子のらんが怒鳴る。

るん「万年ドベは食うべからずだよ。兄さん」

らん「おまえっ! おれは朝から練習でっ!!」

るん「んなこと言って、マネジャーといちゃいちゃしてたんでしょー?」

らん「男子校でそういう冗談を言うな!」

 懐から、なにやら取り出するん。

 るんの兄は端正な顔をゆがめてギャッと叫んだ。

るん「このプリクラに写ってる、おめめぱちりの美少年はだれかなー? 隣でにやけてるのはだれでしょうねー。忘れたようなら、ここの書き文字、見てみて」

 そこには、らん&せつら、と書かれていた。

らん「それは! ねーちゃんが彼女紹介してくれるってゆーから!」

るん「腐ったねーちゃんの、友達に何、期待してるの?」

らん「うっ、そ、そりゃー、カワイイ彼女とラブラブえっち……」

るん「燃やすよ?」

 るんは常備しているチャッカマンを点けた。

るん「らんちゃんの脂汗はよく燃えると思うんだよね」

らん「これは脂肪じゃない、筋肉だ! だれがシモフリだ、誰が!」

るん「そこまでは言ってないよ。どーする?」

らん「目的は何だ?」

るん「まあ、楽しみに待っててよ」


タクト「るんー、ホントにいいの?」

るん「タクトは何も気にしなくていいんだよ。それよりさあ……」

タクト「えーーー?」

るん「らんちゃんに罰ゲームで飲ませよう」

理科教師「そこ、できた炭酸、持ち出さない!」

るん「センセー、あそこの班、ビーカーでインスタントラーメン作ってますー」

理科教師「おまえらー! 毎度まいど、説教する身にもなれー!」


らん「なんでおれがこんなもの、飲まなきゃなんないんだっ!」

るん「いいから、気が抜けないうちに飲めよー」

らん「いや、だって、死にたくないし」

 ふたりはぐいぐいと、らんにつめよった。

るん「おかわり、いっぱいあるんだよー?」

 タクトがこっそり、

タクト『大丈夫、実害はないから』

 と、サインを送る。

 らんは返ってパニックだ。

るん「やだなーらんちゃん。そんな化け物を見るような目で見てー」

らん「どないせーちゅんじゃ!」

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