パラレル大宇宙劇場

アヴェ・マサダ

第1話

~第一章プロローグ~

俺の名前は我孫子卓。38歳の誕生日を目前に、務めていた金属加工会社が倒産した。世間ではリーマンショックから倒産続きだが、まさか自分の身に降りかかるとは思いもしなかった。福山の実家に帰ろうかと考えたが、もう少し東京でサバイブしてみるのも悪くない。生憎、俺には女房子供も居ないし、俺に何かあっても悲しむ人間も片手で足りる位だろう。そんな気持ちで新宿の大衆酒場でチューハイを飲みながらテレビを眺めてた。そう、本当にただ眺めていただけだ。「くそっ!」つぶやくように言ったつもりだったが、意外と周りに聞こえてしまったようで「誰に言ってんだ?!」振り向くと、そこにはプロレスラーの前田日明が仁王立ちしていた!。ここで物怖じしても仕方ない。相手が前田だろうと関係ねー!(どっかのお笑い芸人を思い出してひとりでにやついてしまった)。そんな俺のにやついた表情を察したのか、前田の拳が俺の鼻先に来た。次の瞬間、前田の手首を掴み捻りあげてやった。そのまま背中に肘鉄をかまし、倒れこむ前田にマウントを決めふるぼっこ。前田の顔から血が噴出し、俺の中の狂気が踊りだし、更に拳を思いっきり顔面にのめりこませる。「もうやめて!」女の甲高い声が店内に響く。「うるせえ!」そう言いながら女の顔を見上げると、兵頭ゆきだった。「ゆ、ゆきねえ!」俺は気を失う前田を踏みつけながらゆきねえに近づく。「あんた!元気が出るテレビに出てみなよ!」。何を言ってるのかさっぱり分からなかったが、この出会いが、後に我孫子事務所を立ち上げるキッカケになるとは思いもしなかった。

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