第60話 アダムの本屋

 聖書が本当に神の作った真実の書である異世界の話。


 光が生まれ、万物ができた。無はその時、存在するのを望まなかった。

 光は神に似せてヒトを作った。アダムである。

 アダムはエデンの楽園で本屋を始めた。聖書を売っていた。

 へびが客として来て、アダムに知恵の書を求めた。

 アダムはへびに聖書を売った。

 へびは聖書を読んで、すべての真実を知った。


 人類が神の怒りに触れ、洪水で死んだ時、ノアは方舟で家族や家畜とともに生きのびた。

 へびは聖書ですべてを知っていたので、洪水を生きのびた。

 ノアは神の怒りに触れていたため、聖書を燃やされていた。


 神は聖書の普及に熱心だった。

読書嫌いのルキフェルは、天の三分の一を率いて読書反対運動を起こした。

 ルキフェルは神に負けて、地上に堕ち、アダムの本屋で聖書を読む教育を強制させられた。


 ナザレのイエスは、聖書の読者であることを告白し、聖書の購読は死罪であるとして、ローマ兵に捕らえられた。


 アダムの子孫は、聖書を売る本屋を営業していて、書物を燃やす人たちと戦っていた。

 聖書を並べる本棚、栞、ブックスタンドは、聖遺物として崇められた。


 最後の審判の時、アダムの本屋は閉店店じまい大売り出しを行った。

 値段はいつもと変わらないが、大袈裟な広告が打たれた。

「詐欺ではないか」という声も聞かれたが、アダムの本屋は聖書を売りつづけた。

 何年も、何十年も、何百年も、何千年も、ずっと閉店店じまい大売り出しだった。

「いつになったら閉店するんだ」といわれたが、聖書を売りつづけた。

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