第32話 120円の缶コーヒー

  120円の缶コーヒー


 二十六歳まで童貞だったぼくは、「ものすごくダサいやつがいるぞ」と東京でうわさになり、東京のチーマーが芸能界を連れて、愛知県のぼくの家と会社に視察に来た。ぼくは十八歳からの空想科学小説家志望であり、芸能界に芸能人になれるかの審査をいつの間にかされながら、チーマーや芸能関係者たちに町ごと襲われていた。

 ついに、ぶちぎれたぼくは会社も辞め、チーマーとして名古屋のかわいい姉妹のいる会社員の家を不法占拠した。十九歳の姉と十七歳の妹の姉妹の家だ。十九歳の姉の方を口説いて抱くことができた。最初から不法占拠でもして彼女作ってから勉強や仕事をすればよかったとぼくは大後悔した。

 一週間はあっという間だった。一週間、その会社員の家族の家をぼくたちチーマーで不法占拠していた。ぼくは真面目でおとなしいから、おとなしい系の性格の姉の方が気が合ったのだが、強気な妹とも交尾をした。いきなり姉妹丼だ。片方は処女だった。どっちもかわいい。というか姉のがかわいかった。

 不法占拠した家の父は、会社員なので、家が不法占拠されても毎日出勤していて、ぼくらは家を任されていた。「いいのかなあ、これで、本当に」とぼくは悩み、チーマーを抜け、不法占拠をやめさせた。

 十か月後、妹の石垣ちえみの方にぼくの娘ができていた。ぼくは娘の出産に立ち会うと、娘に風音(かざね)という名前をつけた。

 お金のないぼくは、石垣ちえみと120円の缶コーヒーで結婚式をした。自動販売機で缶コーヒーを買って、「これがおれたちの結婚式なんです」というと、通りがかった名古屋の人たちが祝福してくれた。悪くない120円の結婚式だった。結婚費用120円だ。

 婚姻届けをちゃんと提出した。

 しかし、次の日に、ぼくは生活資金や娘の教育費用のために働こうとすると、働くのが気にいらないチーマーや芸能人たちに襲撃されて、一日で幸せな結婚は終わった。

 石垣一家は再び、騒乱のうずに巻き込まれ、家庭を守っていたお父さんと、婿であるぼくは引っ越すしか手はないと引越しを段どったが、芸能界の情報網を使って東京勢力が追撃。

石垣一家は壊滅した。ぼくも壊滅した。

 ぼくたちの幸せな結婚生活は一日で破綻した。本当の夢は、大好きな姉と妻の妹と一緒に3Pすることだったが、そんなことができるわけなく、石垣一家は壊滅してしまった。

 ぼくはその後の芸能界の脚本家になれるかの審査をされつづけたので、まだマシだったが、普通の女の子だった石垣姉妹は二人とも、かなり困惑した。石垣姉妹の両親は、混乱に混乱していた。

 その後、ぼくは脚本家を不合格になり、公安警察のバイトを三か月して、自宅で自動車の期間工に再就職した。その後、自殺未遂して、精神病院に隔離された。退院したのち、100万円分の本をネット通販で購入して読んだ。そのまま引きこもって、四十歳になって今、これを書いている。ぼくの人生で幸せな時間など二週間しかなかった。

 これが120円の缶コーヒーで結婚式をあげる男の人生だ。

 婚姻届けは、結婚生活が認められないとして破棄された。

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