第8話 ネタバレの体系

 あるところに文学研究者の師弟がいた。

 弟子がいう。

「なんですか、このくだらない文学の体系は。こんなものが文学の体系なわけないでしょ」

 先生が答える。

「しかし、それが文学の体系なんだよ」

 弟子がいう。

「日本近現代文学史? なんなんですか、これは。ただの題名の羅列じゃないですか。こんなくだらないものを文学の体系とかいっているから純文学はいつまでたってもダメなんですよ」

「そんなこといっても、それが文学の体系なんだもん。これしか教えないよ」

 先生が断ったのを見て、弟子は詰め寄った。

「これを見てください。サイエンスフィクションの体系と推理小説の体系です。サイエンスフィクションは二世紀に書かれたルキアノス「本当の話」の宇宙SFが起源とされます。推理小説は1830年頃にイギリスで警察制度が整備されてから数十年後に誕生したといわれています。こういう世界的な視野をもった体系でなければまったく使えません。この日本近現代文学の体系に名を連ねてる作家たちも、海外文学を翻訳して読んでいたんですよね。だから、世界的な体系でなければ意味をなしません」

 意気込んだ弟子に向かって先生は答えた。

「ならば、探してみるか。この世界のどこかにあるというネタバレの体系を」

「ネタバレの体系?」

「そうだ。すべての物語の構造を解析し、すべてのオチをネタバレしてあるネタバレの体系図が存在する。それを見てしまえば、今までに存在するすべての物語のオチを知ってしまうのだ。すべての物語のネタバレをされてしまい、一生で最初で最後の体験であるネタバレの体系を知るという人生最高の喜びを知ってしまうのだ」

「ごくり。それはどこに存在するのですか」

「ここにはない。だが、新しい物語を作るために誰かが受け継ぎ持っているはずだ。すべての物語のネタバレを書いたネタバレの体系をな。ほしいか。それとも、順番に一個一個物語を自分で鑑賞していくか。さあ、どうする」

「物語を一個一個鑑賞していくのはあまりにも徒労。いっそ、一気にすべての物語のネタバレを知って絶頂のうちに死にたい」

「ふふふふふふ。ネタバレの体系を公開することは法律で禁止されている。欲しければ探せ。ネタバレの体系を見つけて、絶頂のうちに死ぬがよい。わははははは」

 弟子はたじろぎながらも、必ずネタバレの体系を見つけてみせると決意するのだった。

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