第8話 rainbow album 7900円より?

 サイン色紙など唯一無二の「もの」とは違い、本やCDなどは、現金さえあれば一応同様のものを揃えることはできる。……前の話でも書いたことであり、もちろんこの考えは間違ってないのだが、自身の今後の生活を考えれば、失ったものを思うままに買い戻すというのは難しい。


 CDは特に悩ましいものの一つだ。所持していたCDは、大方パソコンに取り込んでいるため、古いパソコンを引っ張り出し起動させさえさせれば、曲そのものは聞ける。だが「燃えてしまった」と意識するためか、歌詞カードやジャケットなどを見たいとの思いが、時々脳裡を過る時がある。思い入れのある歌手やアーティストというのは、ほとんどの人が持つものだろうが、CDやグッズを燃やされると、どうやらこの思い入れというのは更に強まるらしい。


 Sunbrainという音楽ユニットが好きで、彼らのCDは全て購入していた。第4話で『冒険王ビィト』に関して語ったが、アニメ『ビィト』の主題歌にSunbrainのデビューシングル「emotion」、セカンドシングル「wish men」が採用されたことが、彼らのファンになるきっかけだった。しかし、きっかけはあくまできっかけである、途中からは完全に彼らの音楽そのものに惹かれていた。続くシングル曲「グーテンモルゲン」、「僕&Harmony」、「Go To Fly」、どの曲も琴線に触れるものだった。

 支持者も少なくなく、FMノースウェーブ(北海道のFM放送局)のリクエストや、ぴあの実施したCDの満足度調査で、どちらも宇多田ヒカルに次いで2位になったことがある。しかしながら、そのような評価を得ながらも、彼らの提供する音楽の質と、世間からの評価は決して釣り合うものではなかった。ファーストアルバムである「rainbow album」発売を最後に、彼らは活動休止してしまい、しかも2011年には、メンバーの一人、南ヤスヒロ氏が事故によって亡くなってしまった。


 敬愛する歌手の死と、二度と彼らの新曲を聞くことができないという事実は、心に重くのしかかったが、Sunbrainが残した音楽の素晴らしさは失われるものではない、最初はアイポッドミニに入れてた「emotion」も、今はスマホで聴いていることを考えれば、私の彼らの音楽への傾倒は不変のものであろう。それ故に、ふとした瞬間、やはり最初の状態であるCDを見たくなる時が来てしまうのである。


 先日の火災は少なくとも、私が発売を待ちに待って買った「rainbow album」を溶かし、形として存在していたSunbrainファンの証であるCDを跡形もなく焼失させ、思いを馳せるための象徴を奪った。

 喪失感から、かつて所持していたモノを買い戻す算段を無意識のうちにしてしまい、その過程で某通販サイトで「rainbow album」が7900円で売られていることを知った。複雑な心境だった、安くとも高くとも不満があっただろうが、この値段を見ると「ああ、当時、もっと多くの人が買ってくれれば良かったのに」と率直な感想が漏れてしまう。

 本来なら、単純に我が家を燃やしたK氏のみを憎悪すれば良い話なのだが、今Sunbrainのファーストアルバムにプレミアがついていることを知り、当時彼らに正当な評価が下されなかったことまで、ひっかかりを覚えてしまうのであった。


 種々の感情が入り混じり、果たして、ここでかつての定価の二倍以上を出して、Sunbrainに印税が行かない「rainbow album」を買うのは、意味のあることなのだろうか――そんなことを延々と悩んでしまうのである。購入すれば、満足すると同時にどこか空虚を感じるだろう、そのような結果になることは、どこか目に見えていた。


 

 

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