第21話 少女、威嚇する


 窓のない大宝寺邸の地下には、朝の光が射すはずもない。それどころか、天井にある丸い白熱灯も全て消されている。空調設備もオフ状態で、暖房すら止められていた。

 工場内にくしゃみが一つ響き渡る。

 悲壮感たっぷりに文句を言ったのは、今や家主である大宝寺空人その人だった。毛布に包まった彼は、寒そうに手の甲を擦っていた。


「そろそろ凍え死ぬかもな、俺」

「あら、零下には到ってないけどね」


 そう返事したのは、吉永ひよりだ。空人とは対照的に凛と背を伸ばした彼女は、簡易テーブルに例のマニュアルとノートを広げ、熱心に解読文を書き込んでいた。


「温室育ちだから、虚弱なんだ」

「脳みそが、でしょ?」


  工場内は凍えるような寒さだ。四月中旬とはいえ、剥き出しのコンクリートに囲まれた地下ではいかんともしがたい。とはいえ毛布に包まっても凍死するかもしれないと、西海岸育ちの空人が感じる程度の寒さである。


 二人は今、向かい合って座っていた。テーブルに設置された小さなライトスタンドが、彼等の周辺をぼんやりと照らしていた。

 彼等のすぐ横には、ロボットが横たわっている。薄い光に映し出されたそれは、まるで平屋仮設住宅か、ちょっとしたイベント会場のようだ。白銀のはずのボディーは闇色に染まり、申し訳程度の光沢が感じられる、といった具合だった。


「眠い……」

「だったら寝ればいい」


 返事はしているものの、ひよりはノートから目を話すことはない。いかにも、“適当にあしらっている”といった様子だ。


「凍死する時ってさ、眠くなるって言うぜ?」

「単なる寝不足。別に無理して付き合うことはなかったのに」

「俺としては、付き合ってやった、と言いたいんだけど」


 すると、ひよりは鉛筆を持つ手を止めて、空人の方へと顔を向ける。


「バッカじゃないの?」


 有りと有らゆる毒素を含めた言い様に、空人は唇を突き出して幼子のようにふて腐れた。


「マジでムカつくな、お前」


 その言葉に、ひよりは手にしていたボールペンを転がす。その様子に、空人はきっと激しい反論が戻ってくるのだろうと覚悟し、やや引き気味に身構えた。だが予測に反し、彼女は白い息を吐いただけだった。それから、おもむろにマグカップの一つを手に取る。深夜、伝十郎が持ってきたコーヒーだが、飲もうかどうしようかと迷っていた様子だったのは、香りすら冷えてしまったような状態だからだろう。ほんの少しだけ口にした彼女は、眉を潜めてカップを置いた。

「ねぇ、わたしのそばにずっといるのは、なんか目的があるんじゃないの?」

 ひよりの声色には、昨日のような堅苦しさはない。実に年齢に見合った砕けた口調である。ただし、棘が抜けることはなかったが。


「俺は家主として……」

「気になってるんでしょ?」

「何が?」

「わたしの言ったこと、つまりこの服のことよ」


 ひよりは自分の着ている黒いワンピースを見下ろしてそう言った。


「別に……」

「それとも、わたしが気になる?」

「はぁ?」


 呆れ顔で言った空人に、ひよりの射るような視線が突き刺さる。

 しばし、見つめ合うように互いの内面を探っていた二人だったが、やがて空人の方が先に戦線離脱した。さり気ない様子で近くにあるマグカップに手を伸ばした彼は、その淵を指先でまさぐった。


「俺は、ただ……」

「ねぇ、一つだけヒントをあげましょうか?」


 ひよりは含みのある笑みを浮かべてそう言った。


「ヒント?」

「貴方には、忘れてしまった過去がある」

「なんだ、そりゃ……。ああ、分かった! “我、汝を導かん”みたいな感じか?」


 何かの冗談だと思った空人は、戯けたように両手を組み合わせ、祈るようなポーズを取る。

 しかし、ひよりはその大きな目を細めつつアゴを突き出し、悪ふざけでもジョークでもないと表現した。


「本当に覚えていないのね、呆れるわ」

「俺に忘れてる記憶なんてない」

「それはそうよ、忘れてるんだから」


 小馬鹿にしたように、ひよりはそう言い放つ。


 ふたたび見つめ合う二人の間に漂うのは、剣呑というより傷愴といった空気。それは、主にひよりから発せられたものであり、敏感にそれを感じ取った空人は小さく舌打ちをした。


「お前、何なんだよ。態度でかいし、いちいち喧嘩ふっかけてくるし。俺になんか恨みでもあるのか?」

「別に恨みなんかない」

「だったら……」

「わたしはね!」


 言いかけた言葉を、荒げた声でひよりが遮った。

 驚き、口を閉ざす空人。

 すると、ひよりは唇を僅かに振るわせて、反面、泣きそうな瞳で言葉を続けた。


「わたしは逃げる人が嫌いなだけよ。だって、わたしは逃げなかったから。どんな現実も、どんな悲しみも受け止めてきたから。見ないふりも、気付かないふりも、忘れることも、人のせいにすることも大嫌いだから。それに、あなたのお父さんに誓ったの。あの人だってきっと、あなたに思い出して欲しかったんだと思う。でも怖いから、だからこんなロボットを作ったんだね、きっと」


 興奮気味に言い切ったひよりを、空人は呆然と眺めていた。


「いったい……、いったい、何を言ってるんだ、お前?」

「分からないなら、自分の胸にでも聞いてみればいいでしょ。それでダメなら誰かに尋ねてみれば? あの執事なら知ってると思うよ。だって三十年も大宝寺に仕えているって言ってたし」


 言い終えたひよりは、まるでシャッターを下ろすが如く、空人の戸惑いを無視して、マニュアルへと視線を落とした。


 そんな少女を見ながら、空人は考えていた。

 彼女が言っていることは、自分を混乱させる為の嫌がらせなのだろうか。それとも何かしらの真実が隠されているのだろうか、と。

 ノートを走るボールペンの音だけが、まるで漂うように流れていく。

 毛布の端を握り締め、空人は解読に集中しているひよりをしばらく眺めていた。

 別に何かを考えていたわけではない。考えようという努力を放棄してしまった状態だ。

 パンドラの箱が隠されているような気がするのだ。もちろん、彼女が言っていることが真実なら、だが。

 もしも真実だとしたら、忘れてしまったのは忘れてしまっただけの理由があるはず。それを無理やり思い出して、何か良いことが起きるとは今の空人には全く思えなかった。

――――しかし、それでいいのだろうか?


 心に潜む誰かが、思い出せ思い出せと訴えかけている気がしていた。その声は、目の前に座るひよりのようでもあり、死んだ父親のようにも感じられる。

 そんな心の声を無視し、空人は今後のことを考えた。

 予想、もしくは妄想。

 数時間後に国税局の誰かがやって来て、『納税額の計算が困難ですので、物納していただきます』と言い、ロボットを持っていってしまう。それによって全てのトラブルは役所レベルへと移行。

 なんてことにならないだろうか?

 いや、ならないか。

 少なくても物納は無理だ。大宝寺家には資産があるのだから、向こうだって面倒なロボットを持っていくよりは、現金納税の方が百万倍も楽だろう。

 ならば清掃局を呼んで引き取ってもらおうか? 粗大ゴミとして幾らぐらいかかるのか、もしくは産廃処理をしなければならないのかは調べなければならないが、持ち主がゴミと主張すれば問題ないではないか。


「そうか、ゴミ出しか……」


 思わず声を出してしまった空人を、上目遣いにひよりが睨んだ。それから彼の内面を悟ったように、小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 その表情に、空人は己の考えが無茶であることを渋々悟った。


 だが考えなければならない。これ以上公僕どもに弄ばれるのは、まっぴら御免だ。

 いっそ例の公安軍団にロボットを引き渡すというのはどうだろうか?

 それもダメだと、空人は無言のまま顔を小刻みに横に振る。

 変な罪状を付けられ、捕まってしまうかもしれない。

『大宝寺家長男、内乱罪で逮捕』、『Diho's inheritor is a Terrorist』

 そんな新聞の見出しが、彼の脳裏にちらつき始めた。


(収監の危機さえなければ、自衛隊だろうが公安だろうが清掃局だろうが、寄付してやるのに)


 昨日と同じようなことを再び思う。全く以て、“超いらねぇ~”だ。

 その時、ふと思考回路に何かが点灯したような気がして、空人は首を傾げた。


(新聞……?)


 脳内の青いLEDライトが点滅する。


(そうだ、マスコミだ!)


 何で今まで思いつかなかったのだろうかと、空人は思った。

 先手を打って、マスコミに流せばいいだけの話だ。国に寄贈するんだ。ただし、諸手を挙げて差し出さなければ意味がない。だから、マスコミにやや着色を交えながら正直に告白する。

『父親がこんな物を作っていたとは、寝耳に水だった』と。

 多少叩かれ、痛くもない腹を探られるかもしれないが、知らなかったのは事実なんだし、大きな問題にはならないだろう。内乱罪などで捕まるよりずっと良い。

 善は急げだ。

 包まっていた毛布を床に落とした空人は、上着のポケットに手を突っこむ。そういえば昨日からスーツを着っぱなしだった。あとでシャワーを浴びて着替えよう。

 携帯電話を引っ張り出した空人は、登録した名前を検索した。


「あの記者、なんて名前だっけ……」


 言いかけ、慌てて自分の口を片手で覆う。ひよりがいるのをすっかり忘れていた。

 盗み見ると、相手は何も聞こえなかったかのように解読作業を進めている。


(あぶねぇ)


 ホッと胸をなで脅し、再び携帯に視線を落とした。

 父の葬儀中、『次世代を担う若き承継者達』という特集のインタビュー記事を書きたいと、経済新聞の記者から申し出があり、その時にアドレス交換をしていた。

 だがその記者名を思い出せない。

 空人の携帯に登録されているアドレス件数は七百件弱。父親関係で出席したパーティで誰彼かまわずアドレス交換をしていたらこうなってしまった。なので、彼が自発的に連絡をした相手は一割にも満たない。うる覚えの人物を捜し出すのは至難の業、というより砂山の針だ。

 それでもなんとか、登録日からそれらしき名前を探し出す。フェムトセル小型基地局でも設置されているのか、地下でも圏外ではないことにホッとしながら、空人は発信ボタンを急いで押した。

 コールが数回した後、『もしもし』という中年男の声が聞こえてくる。空人は何と説明しようかと考えながら、「もしもし」と小声で言った。

 と、その時、背後から何やら不穏な気配がして、空人はびくりと肩を震わす。恐る恐る左肩の方へと顔を向けると、険しい顔をしたひよりと目が合った。


 次の瞬間、左手首を捻り上げられ、有無を言わさず携帯電話を叩き落とされる。慌てて拾い上げようと身を屈めた途端、鳩尾みぞおちに膝蹴りを食らってしまった。

 あまりの痛さに、呻きながら崩れ落ちる空人。

 その隙に、落ちた携帯を拾い上げたひよりが押したのは、どうやら切話ボタンのようだった。


「お前、何を……」

「マスコミなんかに電話すんな、バカ」

「マジ……お前……口……悪い」


 腹部を押さえ、未だ衝撃から立ち直れない空人は、仁王立ちのひよりに切れ切れの文句を言った。


「あんたがマスコミにタレ込もうとしているからよ」

「何故分かった?」

「記者と口走ったことと、その後の挙動不審を見れば幼児でも分かる」


 ゆるゆると体を起こした空人は、チッと舌打ちをしながら頭を掻いた。


「でもさ、俺に立場になってくれよ。こんなもの残されて、その上、内乱罪だぜ?」

「もうすぐ……」

「ん?」

「もうすぐ、このマニュアルが全て解読できたら、きっと何かが見えてくるはず」

「何かって何が?」


 少女は眼を細め、何かを答えようとした。

 しかし、その前に床に転がっている空人の携帯が、無機質な地下の空間に鳴り響く。

 その音に、二人は携帯へと視線を移した。

 瞬間的に動きを止めた二人は、お互いに牽制する。

 だが次の瞬間、どちらも携帯の方へと突進していった。


「まて、てめぇ、それは俺のだ!」


 距離的にひよりが有利だったからか、それとも腹のダメージによる鈍化なのか、空人がそう言った時には既に、携帯はひよりの手中に収められていた。


「はい、そうです……、いえ、私は空人様の秘書です……、ああ、たぶん掛け間違えたのでしょう……ええ、分かりました、お伝えしておきます……、え? 関東経済新聞の……、さ、佐伯様ですね」


 呆れかえって物も言えないとはこのことだろう。人のことをバカ呼ばわりしたその口で、いけしゃあしゃあと秘書などと嘘をつく。

 そう思った空人は、反撃を覚悟しつつも彼女を睨みつけた。


「ふざけた真似してるのはお前だろうが」


 本音を言えば戦々恐々。女子にやられたという精神的ダメージからまだ回復していない。だがそれを隠して、いつもより更に横柄な態度でそう言った。

 だが、どうしたことか、ひよりは悄然とした表情を浮かべ、空人の携帯を握り締めている。僅かに開いた唇が震えていた。


「な、なんだよ」


 そんな様子に思わずたじろぐ空人。


「ねえ、今の電話の人、会ったことあるんでしょ?」

「あるけど、それが何?」

「どんな人だった?」

「ど、どんな人って……」


 大宝寺直太朗の葬儀は大々的に執り行われた。参列者は千人以上。その中には内外からのマスコミ関係者も含まれ、何人もの記者が空人に挨拶をしていった。

 先の人物を選んだのは、たまたま最後に言葉を交わした記者というだけ。だから、どんな人だったかと尋ねられても、ほとんど思い出せなかった。


「ええっと、背が高かったような……。歳は四十、いや五十前後かなぁ。ああ、眼鏡を掛けていた」

「やっぱりあの佐伯さんだわ」

「知合い?」


 ひよりはスッと視線を逸らしながら、曖昧に頷いた。


「お前の知合いだったら、ちょうどイイじゃん」

「あのね、あんたは忘れてるかもしれないけど、マスコミなんかにタレ込んだら、それこそ、墓穴を掘るようなもんだわ。大騒ぎになって色々ほじくり返されることぐらい、アホなあんたでもわかるでしょう?」

「なんだよ。俺にはほじくられて困るような過去なんて……」


 寂しげな少女の目とぶつかり、空人は口を閉ざした。

 やっぱりパンドラの箱というわけか。

 溜め息を一つ吐いた空人は、ひよりの方へと手を差し出す。「何?」という表情が返ってきたので、「携帯を返せ」とだけ呟いた。


「まさか、まだ……」

「もう掛けないよ」

「ホント?」

「ホント」


 素直に差し出された携帯を、空人はひったくるように受け取った。

 だが、数歩後ろに後退すると、勝ち誇ったような笑みを浮かべみせる。


「うっそぴょーん」


 そう言いながら、小走りにロボットの影へ。

 例えそこにパンドラが隠されていようとも、現状の打開策はこれしかないから。


「あのね!」

「忘れたことなんて関係ないね」

「本気で言ってるの!?」

「内乱罪なんて、まっぴらだ!」


 リダイヤルしようと液晶画面に視線を走らせる。

 やがてボタンを押そうとしたその刹那、殺気だった気配に空人は顔を上げた。

 右手にボールペンを握り締め、光源の方から近付いてくるひより。半分だけ明るいその顔は、凍り付いたような表情を浮かべていた。

 幾ら何でもそこまでするとは思わなかった空人は、ギョッとなって携帯を閉じた。


「そんなに怒らなくても……」

「嘘付きは大嫌いなの!」

「わ、悪かったよ」

「絶対に許せない!」


 ボールペンを構えて襲いかかってくる黒少女。

 空人は身を翻し、何とか避けることに成功した。

「冗談はよせ!」

「冗談だと思う?」

「思わねぇ!」


 そう返しつつ、再び襲いかかってくるその細い手首を捻り上げる。

 すると、相手は彼の二の腕に噛みついてきた。


「いってー」


 女相手だと思ってなめていた空人だが、そろそろマジギレしそうだった。


「ふざけんな!」


 腕を掴んだまま体ごと体当たりをする。気が強くても体格的に不利な少女を、彼はロボットの右足側面へと押しつけた。


「放してよ」


 空人の方が数センチほど背が高い。それでも二人の顔は、互いの息が掛かるほどに接近していた。


「お前が無茶するからだろ」

「あんたが嘘をつくからでしょ」


 シチュエーション的には官能的だが、雰囲気は退廃的だ。


「頼んでもいない解読なんかするな」

「頼んでいるのはあんたじゃなくて、姉よ」

「じゃあ、俺に関わるな」

「関わってるのはあんたじゃなくて、亡くなった大宝寺さん」

「ああいえばこう言う……。マジ、ムカつく女」

「放しなさいよ」


 壁と空人に挟まれ、ひよりが藻掻き始める。密着した腹部に少女の柔らかな胸の膨らみを感じ、空人は思わず眼を細めた。


「早く放せ!」

「イヤだと言ったら?」

「変態、死ね!」


 危機を感じたらしい彼女は更に激しく暴れ出す。

 だがそれは、空人を妙な気分にさせる結果となった。

 怒りに歪んではいるが、その顔はかなり可愛い部類に入るだろう。黒目勝ちの両眼と、それを縁取る長い睫、そして丸くふっくらとした唇には色つやがある。色白の肌は、東洋人らしくきめ細やかで、触ればきっと乳児のように滑らかだろう。

 それより何よりこの体勢は、猛獣を御したような優越感を覚え、男としての支配欲を刺激する。

 このまま、押し倒してしまおうか。

 ふとそんな外道な考えが、沸々と空人の脳裏に浮かんできた。

 だがしかし、彼が本物の犯罪者になる直前、理性を取り戻してくれる声が聞こえてきた。


「何をやっていらっしゃるんですか!」


 それは鶴の一声ならぬ、執事の奇声。

 天井の白熱灯が一斉に点いたのは、伝十郎が電源を上げたからだろう。

 我に返った空人は、慌てて密着していた体を離した。


「お、お坊ちゃん、いったい何を……」


 執事は、空人の粗暴な行為に驚愕しているようだ。


「別に何もしてねぇよ」

「ですが、今……」

「この女が暴れたんで、取り押さえただけだ」


 ひよりを見ると、彼女は少し離れたところでプイと横を向いてしまった。


「それなら宜しいのですが」

「と言うか、お前、なんか用があるんじゃないの?」

「ああ、そうでした。あの南雲とかいう青年の携帯にメールが届きました。何でも、ロボットの設計図を持って、どなたかがいらっしゃるとのことですよ」


 すると、先ほどのことなど無かったかのように、喜び勇んだひよりが伝十郎と空人の間に分け入ってきた。


「本当なの?」

「え、ええ……」


 その勢いに、伝十郎が面食らったらしい返事をする。


「設計図があれば、あの部分が読めるかもしれない」


 ひよりはテーブルの方へと駆けていくと、その上に乗っているマニュアルをめくり始めた。

 それを見ながら、空人は改めてひよりという少女に興味を持った。

 彼女が何故、あれほど必死なのか。

 彼女が言っていた自分の過去とはいったい何なのか。

 本気で思い出さなければならないような気がしてきた空人だった。

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