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@karasu-syougeki

携帯依存症

その日に起こった出来事は、僕の運命を左右した決断だった。そして、これから起こす決断は、これからの未来に光を灯す決断なのだと思う。

僕は、右手をデニムパンツの後ろポケットに入れて二つ折りの黒い財布を取り出すと、そのまま改札口の機械に強く押し当てた。


ピッと音を鳴らし人生の再スタートラインから放たれた僕は、自由を追い求めて足早に歩みだした。


夜の東京駅は綺麗にライトアップされて真新しい建材の匂いがしている。人で溢れかえっているのに、下を見ながら歩いても人にぶつからないのは都会慣れしたせいなのだろうか。僕は足早にホームに向かった。


行き交う人々は様々な目的地に向かい、様々な思いを抱えながら歩いているのだろう。イチャつくカップルや笑い話をしながら歩く学生達もいる。


難しい顔をしながら歩くサラリーマンや疲れた顔のおじさんもいる。


これから出社なのだろうか、化粧の濃い女性もいれば、明らかに酔っ払いの女性もいる。東京駅はまるで大きな精神病棟パンドラのハコみたいだと、今の僕は思ってしまった。


そんな偏屈な事を考えていたせいか、僕は罪悪感につつまれて一人呟く。


《じゃぁ…僕は…どんなふうに見えるのだろうか》


階段を上がりホームの白線を見つめながら白い息と共に呟いた。


《まさか…病院から抜け出して…目的地も決めないで電車に乗る若者に…?…見えないか。…》


僕は、無意識にスマホの存在を探すが、ある訳がない。


今頃、着信地獄になっているスマホは病院のトイレにある化粧台下のゴミ箱の中だからだ。


《みんな…探してるんだろな…。》


余命、宣告された僕を…。そんなネガティヴな心境の中、駅のホームに鳴り響く出発のメロディー。

気がつけば、僕の後ろには不揃いな人々が並んでいた。様々な顔と様々な年齢、性別の人々は皆、スマホを見つめていた。辺りを見回すと、ほぼ全ての人がスマホを見つめている。


少し前に、携帯依存症などとテレビでやっていたが、今となってみれば日本中の人々が携帯依存症なのではないか?などと思ってしまう。

ま。僕もスマホがあれば同類なのだけど…と思い、口元のみ笑顔にした。


駅のホームにアナウンスが流れた。僕は白線を見つめて呟いた。


《運命の白線か…》


右耳に刺激を与えてくる列車の金属音に右足が前進しろと反応を示す。


《馬鹿か……。》


僕は限りある未来に光を灯すために、ここに来たんだ。自殺などはあまりに馬鹿馬鹿しい行動だよ。


そんな右脳と左脳のやり取りに呆れながら、到着した列車とホームの隙間を、いつもより無駄に注意して、僕は短命かぎりあるな希望を胸に列車に乗り込んだ。

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