STAGE3
2014/9/22 Mon. - 2
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「では、始めます」
「スーパープレイ、期待してるよ!」
筐体の斜め後ろに立ち、横顔もゲーム画面も見える位置に藍華は陣取った。
乃々も気にした様子はなく、コインシュート。
銀路は二人から離れ、いつもの『ゼビウス』の筐体前に移動しようとする。
「おや、銀くんは見ないのか?」
○乃々のプレイを見ない
→●乃々のプレイを見る
銀路は足を止める。
乃々はまだ、スタートボタンを押していない。
乃々のプレイは、最上級の攻略動画だ。
最初のエリアを見ただけで、多くのものを学んでしまった。
それは、銀路の信条を貫く上では邪魔になるものでしかない。
確実に銀路の信条に反する。
だから、先日は乃々のプレイを見ることを拒んだ。
一方で、今ここで乃々のプレイ鑑賞を拒むことの意味も考える。
ゲームセンターの魔女の正体を知らないとき、ギャルゲー的攻略を考えていた。
今一度、その観点で現状を見直してみれば、『乃々のプレイを見ない』という選択肢は乃々の好感度を下げる選択肢になると思われた。
ヒロインが望んでいることを拒む。
時に例外もあるが、通例として解り易い好感度を下げる選択肢であろう。
無理矢理に理屈をつける。
信条を曲げることに対する恐怖を、ゲームの攻略法だと正当化して誤魔化す。
「俺も、見せてもらうよ」
そこまでして、やっと言えた。
「やっぱり、乃々のプレイが見たいから」
根底にあるのは、そんな単純な想いであるにも関わらず。
「そうこなくっちゃ!」
返事を聞くや、藍華は銀路の手を取って筐体の傍らへと引っ張っていく。
「ありがとう。意地を曲げてくれて、嬉しいわ」
乃々は、顔を筐体に向けたまま言う。筐体に映るその顔は晴れやかだ。
「それじゃあ、始めます」
宣言と同時に、乃々はスタートボタンを押下。
印象的なBGMと共に、青い剣の柄を模した戦闘機が荒野へと飛び立つ。
右下の隠れキャラをホーミングスプレッドで出現させたところから、約束されたクリアへの快進撃が始まった。
「……凄い」
藍華が端的に感想を述べる。
銀路は自分でもそれなりにプレイしていたからこそ、余計にその凄さが解る。
精密で正確。
入り乱れる赤青黄の敵機編隊の中から、狙った色の敵だけを撃ち落とす。
極限まで研ぎ澄まされたパターン化の賜。
まるで魔法のようなプレイ。
「魔女、とはよく言ったものだ」
藍華がポツリと漏らす。たまたま真城という『まじょう』とも読める名字だっただけだが、名は体を表す、というやつだろう。
エンディングまで三十分はかかるゲームだ。
なのに、あっという間だった。
変則的なステージ構成を、3面、4面、5面とクリアし、現在6面。
画面の中には、荘厳なBGMをバックに光の巨人が現れる。
ラスボスにあたるXIGA《サイガ》だ。
「なんだ、こいつ?」
思わず、藍華が声を上げるが、無理もない。
いきなり画面一杯の背丈の人型のボスが現れ、画面を右から左へと駆け寄ってくるのだ。とても、縦スクロールシューティングゲームとは思えない動き。
銀路も呆気にとられながら、『デススマイルズⅡ 魔界からのメリークリスマス』に登場するデッドマンズハウスのボス、タメコス氏を思い出していた。あれは、左から右だが。
そんな、初見だと度肝を抜かれるインパクトのあるボスであっても、乃々にとっては何度も踏襲したパターンの中の一つに過ぎない。
突如サマーソルトキックをしてきたり、跳び上がってクルクル回りながら弾をばらまいたり、ウルトラマンのように両手を横に伸ばしてこちら向きに飛んできながら菱形の弾を降り注がせたりと、多彩で激しい攻撃をしてくる。
だがそれは、華やぐ笑みを浮かべながら、レバーとボタンを駆使する魔女が、巨人を踊らせているようにしか見えなかった。
気がつけば、ダンスは終わり、巨人は力尽きて頭から地上に激突。
爆発のエフェクトの後、ボス撃破のスコアが表示される。
だが、まだエンディングには早い。
巨人の爆発の跡から、四角錐を上下に重ねた『石の様な物体』が浮上してくる。
これが、全ての元凶。
「え? STAGE1」
銀路は、表示されたステージ表記に思わず声を上げる。
実は、時系列順だったステージを示す数字が示す、真実。
最終面は全ての起源。
始まりの時なのである。
乃々の操るシルバーガンは全ての攻撃を封じられ、ここからは、『石の様な物体』が放つ弾幕を避け続ける、いわゆる『六十秒避け』のが開幕である。
画面上部に60の数字が表示され、カウントダウンが始まる。
あちこちから湧きあがっては自機を狙ってくるオレンジの弾を、画面を大きく回るようにして誘導して躱す。
次には『石の様な物体』から放射状に菱形の弾が撒き散らかされる。
それなりにシビアな軌道だが、乃々のレバーさばきに一切の迷いはない。
安定した動きで危なげなく躱し続ける。
3、2、1……
0。
カウントが終わる。
「ノーミスワンコインクリア、達成」
と淡々と告げ、
「見たかしら? わたしのスーパープレイ」
続く言葉はどことなく得意げだった。
「お美事」
「期待通りのスーパープレイ、ありがとう!」
銀路も藍華も素直な賛辞を送らずにはいられなかった。
こうして、銀路は己の信条を曲げた。
だが、悔いはなかった。
心から素晴らしいと思えるプレイを見れたのだから。
乃々のプレイは、本当に美しかった。
その笑顔に相応しい、眩いスーパープレイだった。
この日見た乃々のプレイは銀路の心の深い部分に焼き付き、彼のゲームとの向かい方を変える大きな切っ掛けとなった。
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